語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『ふるほん文庫やさんの奇跡』

2010年05月09日 | ノンフィクション
 もうからない、とされる業界の常識にさからって、文庫専門の古本屋を開業した谷口雅男の自伝的事業報告。
 採算ベースにもちこむために、あの手この手の販売戦略を編みだした。
 最初は11万冊、やがて40万冊の品揃え。通信販売(後にインターネットにも参入する)。チケットを1冊買えばもう1冊おまけする添付販売。日本語に飢えている海外の日本人への出荷。ミニ店舗、つまりJRの駅や病院やコンビニにおける委託販売。

 谷口は凝り性である。
 メナード化粧品のセールスマン時代には「一軒残らず飛び込み販売を繰り返し、一つの街を完全制覇する事を生き甲斐とした」。27歳で販売日本一になり、独立する。
 好事魔多し。メーカーの倒産で連鎖倒産する。離婚。
 再出発、再婚、そしてまた倒産、離婚。
 パチンコ店従業員となり、午前8時から午後12時まで「フル通し」を完璧にやり、まもなく店長となって腕をふるう。だが、胃潰瘍が発症した。

 塞翁が馬。入院中に、凝り性ぶりを発揮して『新潮文庫の100冊』を読破して、文庫専門店を構想する。
 ときに、谷口、42歳。
 パチンコ店の平従業員として再就職後、同僚との付き合いをいっさい絶って、1日1冊の読破を誓う。食費はわずか1日240円。7年4か月後、1,500万円の資金を貯め、半分を文庫本の仕入れに使った。

 平成6年、愛知県三河豊田駅前に開店。
 ここでも凝り性ぶりを発揮して、文字どおり寝食を忘れて事業にうちこんだ。
 平成8年、再々婚にともなって北九州市へ店舗を移すが、プロポーズも畸人の面目躍如である。相手の顔も齢もろくに知らないまま、1時間電話で話をかわしただけで翌日には速達で申し込んだのである。
 決断の速さも、事業成功の要素にちがいない。

 株式会社「ふるほん文庫やさん」でリサイクル事業と文化事業をむすびつけ、文化事業を財団法人「としょかん文庫やさん」で展開させた。「愚行も徹底すれば偉大にいたる」(ショーペンハウエル)を地でいく人生である。

 本日ホームページにアクセスしたら、本社は広島県三原市久井町羽倉1455-1に移転していた。「タニグチマサオの週間寸記(毎週火曜日発表)」は健在。
 とにかく忙しい人である。

□谷口雅男『ふるほん文庫やさんの奇跡』(ダイヤモンド社、1998)
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