語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『OVNI PARIS GUIDE オブニー・パリガイド』

2010年05月27日 | 社会
 「オブニー(OVNI)」は、パリで発行されている無料の日本語新聞である。5年間続いたミニコミ誌「いりふね・でふね」を引き継いで、1979年春、刊行された。
 当初はタイプで打たれた裏表2頁の小さな新聞だったが、いまではタブロイド版12頁に成長した。月2回発刊。日本でも購読できる。ホームページ「パリの新聞:OVNI(オブニー)」に日本語版と仏語版がある。メール・マガジンも発行し、ホームページの更新情報を教えてくれる。
 本書は、この新聞のさわりを集めたものだ。

 「横まちとひろっぱと」
 「ブティックいろいろ」
 「パリから1泊、記者の旅」
 「パリの暮らし、あれこれ」
 「フランス人も楽じゃない」
 「パリに風がふいて~フランス生活の喜怒哀楽」
 「マンガ/ジャポネ」
 「街角のデザイン」
 「パリを丸ごとかじったら」(料理と店の案内)
 「Arts&Spectacles」(映画、音楽、ほか)
 「ANNONCES アパートの案内、のみの市、求人、えとせとら・・・・、イヌ百科」

 主なタイトルをご覧になっておわかりのとおり、パリで暮らす人のための実践的な情報誌である。事実に即して具体的、しかもパリ人らしく軽い文体で読みやすい。写真、図版、カットが豊富だから、眺めているだけでも楽しい。
 特集もとりあげられている。題して「パリは混血文化の街」。パリの中のマグレブ、フランス生まれのアルジェリア人たちの紹介である。パリの中の日本人と日本文化を相対化する視線が背後にある。

   ■LA CAVERNE AUX MYSTERES 水曜日の午後、エヴリーヌさんが童話を聞かせ
    てくれる。35フラン。<住所><電話番号>(予約要)

 というような記事が、地球の裏側の日本人にとってどんな関係があるか。さして関わりはないだろう。にもかかわらず、面白い。事実というものから、無限の考察を引き出すことができる。読み聞かせの記事から、書かれた言葉と語られる言葉について、フランスにおける朗読の重視について、日本における昔話の語りの喪失について、日本の幼児教育(保育)における読み聞かせの取り入れについて・・・・いくらでも考えることができる。
 本書には、芸術のパリとは別のパリ、生活人のパリがある。日本の私たちと等身大の人間をそこに見つけることができる。私たちと同じく食べて飲んで買い物をして聴いて観て・・・・そして、その行動が私たちと共通しているがゆえに、かえってそのなかみ、話題の人やTVをはじめとするメディアの違いが際だってくる。

□エディション・イリフネ編『OVNI PARIS GUIDE オブニー・パリガイド』(草思社、1991)
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書評:『オランダ東インド会社』

2010年05月27日 | 歴史
 周知のとおり、江戸幕府は17世紀から19世紀まで、鎖国政策をとった。中国(清)及びオランダを例外として外国人の渡来や貿易、日本人の海外渡航とを禁じたのである。
 幕府がこの2か国に通商を限定することになったのは、オランダの策謀によるらしい。本書によれば、日本にとって損な選択だった。
 では、当時、オランダは日本の外で、何をやっていたのだろうか。
 海の道で日本とつながるインドネシアを侵略していた。

 オランダの海外飛躍の組織的担い手は、オランダ東インド会社であった。同社は、17~18世紀、ジャワ島の西部、バタヴィアを根拠地とした。
 軍事力を背景とする強引な取引、会社に隠れておこなう「私貿易」を抑圧する独占は、住民の反感をかった。総督府は、力で圧す。華僑を虐殺し、ドイツ系の混血にして資産家のエルヴェルフェルトに無実の罪をきせてさらし首にした。

 オランダ東インド会社は、その目的を商業においていた。しかし、マタラム王国の継承戦争の一方を支援することで次第に利権を増やしていくうちに、領土的野心がふくらみ、やがてこの国を属国化するにいたる。
 総督府内部では、内政不干渉を堅持するべきだとの異論もあったが、軍人は戦さのために存在するのである。存在証明の機会を逃すはずはない。
 ところが、皮肉なことに、軍事費がかさんだ結果、商取引による利益がふっとんでしまったのである。内政干渉はペイしなかった。

 オランダ本国は、四度にわたる蘭英戦争のため、また産業革命に乗り遅れたために弱体化する。
 東インド会社もまた、設立当初は新興ブルジョアジーが精力的に活動し、大船団を次々に送り出した。しかし、だんだんと進取の気性を失い、退嬰的な気分が政府を支配するようになった。
 出先機関たる総督府もこの弊をまぬがれず、腐敗した。
 本国にフランス革命の余波が押し寄せ、出先機関はバタヴィア共和国となって、会社は2世紀にわたる歴史を閉じる。

 本書は、もっぱらオランダ側の史料に依拠して書かれたせいか、支配される側つまり原住民の動きはあまり見えてこない。多少気遣いが感じられる程度だ。
 とはいえ、イギリス一辺倒の『スパイス戦争 -大航海時代の冒険者たち-』ではよくわからないオランダ側の事情を示す読み物として、手頃な一冊である。

□永積昭『オランダ東インド会社』(講談社学術文庫、2000)
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