ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

【2009年8月】

2009-10-27 18:16:07 | 2009年8月
2009.8.4 ハーセプチン54回目
 月初めの採血日。今日は採血室が混雑しており、診察開始・点滴開始ともどんどん押せ押せになる。「この1週間はおかげさまで特に変わったこともなく」と報告。採血結果は白血球が3400。それ以外は特に異常なし。腫瘍マーカーの結果は来週。薬を頂く日だが、先生から「(アロマシン以外の)抗がん剤副作用対策の薬はどうしますか、そろそろやめてみましょうか。」というお話が出る。手足の痺れ軽減のビタミン剤(ビタノイリン→ビタメジン)は2月から、むくみ防止の利尿剤(ラシックス)と手足の痛み軽減の漢方薬(芍薬甘草湯)は3月から、半年近くお世話になっていた。予備が数日分残っているので、もし止めて症状が出るようであれば来週の外来まで残りを飲んでしのぐことにする。いつまでも薬に頼っていないで自力で頑張ろうということだ。その後は予定通りハーセプチンの点滴。処置室も同じく混雑しており、点滴椅子が空くまでに1時間半近くかかった。
 点滴後、会計で「来月から抗がん剤等の薬の廃棄分も請求することになるので、金額が上がりますが、ご了承ください。」というお話があった。確かに患者一人ひとりの体表面積を計算して必要量を出し、オーダーメイドで調剤するのだから、残りがもったいないので、他のどなたかのために使ってください、というわけにいかない。廃棄分も含めて請求されるのは当然だとは思うが、またこれで命の値段が上がったなあ・・・と思う。薬はもちろん効いてくれるならずっと効いていてほしいけれど、サードオピニオンを頂いた先生の言葉を思い出した。「再発してハーセプチンが効く人は何年も続けるけれど、実際のところ、お金が大変だよね。」-本当にそうだ。今は“自分の”保険証で“自分の”預金口座から治療費が払えているというのがささやかな私のプライドでもある。もちろん、夫は自分で払え、とは決して言わないと思うけれど。
 そんなわけで今日は待ち時間がたっぷりあったため、2冊の本が読めた。1冊は池田夏彦さんの「他人と深く関わらずに生きるには」(新潮文庫)。題名だけ見ると、一体どんな話?と言われそうだが、他人をコントロールすることはたとえ子どもでも夫婦でもまずいよね、という話が印象に残った。もう1冊は宮台真司・香山リカ両氏の「少年たちはなぜ人を殺すのか」(ちくま文庫)。これもまたショッキングな題名だが、いわゆる“魔の中学2年”の息子がいる私は、自分の中学生時代の記憶がかなりいい加減になっていて(自分に都合の悪いことは忘れていて)、少しでも今を生きる子どもたちが理解できたらと、いろいろな本を物色している最中だ。

2009.8.8 歯科検診
 3ヶ月に一度、近所のクリニックに検診に通っている。どちらかと言えば歯が弱いほうで歯科医院とは子どもの頃から長い付き合いだ。ゾメタ治療を始めてから歯科検診は欠かせない。抜歯や削る治療は点滴治療中には原則として出来ない。副作用の顎骨の壊死を誘発する、ということになるのだから。QOLがどれだけ下がることか。今のところ、問題なしとのこと。歯石を軽くとっていただき、次回3ヶ月後に予約を入れて帰宅。
 今朝、夫と息子が元気に北海道鉄道の旅に出かけるのを見送る。

2009.8.11 ハーセプチン55回目、ゾメタ23回目
 週末から夫と息子が旅行に出ているので、久々に独身貴族の身分。昨日仕事を終えてから思い切って病院の最寄駅のホテルに前泊した。素泊まりだったけれど、一人で時間を気にせずゆっくり好きな本を読んだ。高層階の部屋からは病院もよく見え、ささやかな夏休みの気分転換になった。明け方、静岡沖震源地震で目覚めた。台風9号のため、起床時は止んでいた雨も出かける時には土砂降り。びしょ濡れで病院に入ることになった。いつもより30分前の時間に予約を入れて頂いており、さらに小一時間早く病院に入れたことで、診察も点滴もとんとん拍子に早く進んだ。
 前回の血液検査の結果、腫瘍マーカーは正常値内でまた若干下がっていた。副作用の対処の薬をやめて1週間。自力できちんと排尿でき、むくみも悪化せず、痺れや痛みのほうもひどくなっていない。仕事も昨日からフルタイムになっていることを伝えると、ようやく「もういいですね。」と先生に言って頂いた。来週は久しぶりに肺のレントゲンを撮ってみましょう、とのこと。
 今日の一冊は宮子あずささんの「ナースな言葉 こっそり教える看護の極意」。宮子さんは文筆家吉武輝子さんのお嬢さん。先日「がん支えあいの日」のイベントで吉武さんと主治医の先生との対談は拝聴していたので、興味深く読んだ。特に自己決定権の章で、彼女が「自分自身ががんになって治療を選ばなければならない状態になったときには、すべて夫に決めてもらう。なぜなら自分が亡き後、自分のことを一番思い出すのは夫で、そのとき夫自身が一番納得いくようにしてもらえばいい、と考えるから。」と書いていたことに、唸った。私がタキソテールの副作用でよれよれだった時、夫に八つ当たりして「もう次回は絶対抗がん剤なんかやらない。だめならだめでいいから!」と言い放ち、夫が実に哀しそうな顔をしたのを思い出した。「一日でも長く生きてほしい」と言ってくれる人に対して、また、私が十分納得した上で治療をしてくださっている先生に対しても失礼だった、と反省した。
 帰り道には台風一過ですっかり青空になり蒸し暑くなった。もうすぐお盆。仏花を買い、仏壇に供えた。りんどうの濃い紫色がとても美しい。

2009.8.19 ハーセプチン56回目
 今日は久しぶりの診察前レントゲン撮影。レントゲンの待合は結構混んでいたが、思ったほど待たずに撮影開始。前からと横から2枚撮影。
 その後内科へ。「夏ばてもせず、元気です。手指のこわばり、両膝の関節痛がちょっと気になります。胸の圧痛は相変わらずです。」と1週間の報告。最近階段の上り下りの際に膝に痛みがある。手指のこわばりは明け方だけでなく、日中もそれなりに残る。夜も手袋をして寝ているし、冷えるとよくないのでは、と自分でも無意識のように指のマッサージをするようになっている。現金なもので他の痛みや不調が収まってきているので、相対的にこちらが気になるのかもしれない。副作用対策の薬をやめて2週間。半年間、朝昼夕の食前、朝夕の食後に飲んでいた薬がなくなり、今は朝食後小さなアロマシン1錠のみ。つい忘れ物をしているような気になる。
 レントゲンの結果は「変わりなし」。11月のタキソテール治療前にはっきりしていた影が治療後の3月に薄くなり、そのままの状態で今回キープされている。横からの写真でも「特に変わりなく、カテーテルもいい位置にありますね」とのこと。
処置室へ移動して予定通りハーセプチンの点滴。今日は鎖骨下埋込中心静脈ポートへの刺針後、若干痛みが残ったので点滴開始前に少し様子を見て頂いた。何ともない時は本当に痛みも何もないのだが。「今日は痛点にでもあたったのかも」と看護師さんの弁。それにしても去年の今頃はなかなか血管が確保できず、看護師さんも私も汗だくで何度もトライ、だったのでそれを思えば“一回チクリ”で済むようになったことは本当にありがたい。
 今日の読書は昨日からの読みかけもあったので2冊。1冊は篠田有子さんの「子どもの将来は『寝室』で決まる」(光文社新書)。題名に惹かれて選んだのだが、20年余りにわたるいわゆる“川の字”寝のような「寝方調査」から子どもの発達、親子関係、兄弟仲への影響の発見についての書で、なかなか興味深く読んだ。
 もう1冊は北澤京子さんの「患者のための医療情報収集ガイド」。初発治療の時から比べても本当に今はネットの情報で様々な治療法が選択できる。それでも情報の洪水から「本当に役に立つ情報を見極めるテクニック」の章はとてもわかりやすくためになった。賢い患者にならなくては、と思う。先生や看護師さん達ときちんと話をするために。
 夫と息子は、週末無事に旅行から帰ってきた。今日の夕食は何を作ろうか、と考えながら帰宅。

2009.8.25 ハーセプチン57回目
 まず皮膚科へ。足の爪をお見せすると、「いい感じ」と言って頂く。確かに前回は今すぐにでもとれそうな状況だったけれど、サリチル酸ワセリンのおかげか、まだはがれずにくっついている。自然にはがれるのを待ちましょう、ということだ。手の爪も痛みもなくなり、大分良くなっている。顔の色素沈着用クリームはもうすぐなくなるのだが、「もういいでしょう」ということで、なくなったら終了。次回は連休のため5週間後。
 1階に降りて内科へ。すでに中待合に入る合図の私の整理番号が画面に出ていた。「朝起きると、手指のこわばりが酷い」とお話する。「皆さんそうなりますからねえ」ということ。気休めにマッサージをしたり夜も手袋をはめてみたりしているけれど、まああまり気にしないでよい、ということだ。皮膚科の様子もパソコンでご覧になり、タキソテールで長期にわたり酷く副作用が出たのは私が第一号患者なのだ、というお話を伺う。単純というか貧乏性というか「そうですか。私が先頭を歩いているなら、頑張ります。」と言ってしまう。予定通りに今日もハーセプチン。来週は3週に1度のゾメタも加わり、月初めなので採血もあり。
 診察後処置室へ。今日は先生が昼前から出張されるため最小限の患者さんの予約だったとのことで、いつになく空いていた。点滴椅子の患者さんもまばらですぐに針刺がされ、薬が届くのを待つ。看護師さんに足の爪を見せると、「わあ、再生している、って感じ」と言われる。確かに死んでしまった部分とはっきり線がついて新しいピンクの爪が出てきている。何事もなく点滴終了。
 職場である大学でも、学生に新型インフルエンザ患者が発生している。もし発熱したらどうしたらよいか、と相談したところ「まずは予防を、万一発熱したら、近くのお医者さんでインフルエンザ検査を受け、薬は処方されたものを飲んでよい。熱があるうちは無理して毎週の点滴に来なくて大丈夫。ただし解熱後3日経っていたら前日に電話で状況を報告した上で通院するように。」との回答を頂く。息子も今日から学校が始まった。新型のウィルスが我が家に持ち込まれないことを祈りたい。
 今日の1冊は結城康博さんの「医療の値段―診療報酬と政治―」(岩波新書)。健康で殆ど医療費がかからなかった時には図書館でもスルーしていただろう本。患者と医師との情報格差を埋めるには中・高・大という教育課程で医療制度に関する授業を設け、ある程度の知識が身につくシステムが必要、という筆者の意見に賛同した。
 2冊目は創作童話「100万回生きたねこ」の作家・佐野洋子さんの「覚えていない」(新潮文庫)。彼女が50代に書いたエッセイ集。西原理恵子さんの解説ではないが、爽やかな気持ちにさせる愛のある悪口痛快エッセイ。
 それにしても筆者の子どもに対する語り口や台詞の表現は、本当に素晴らしい。
 来週の予約票を見るともう9月。日が短くなったのを感じる。今年の夏は暑すぎず過ごしやすくありがたかった。夏休みはなかったけれど、涼しかったおかげであまり悔しがることもなく。職場では夏休みのお土産のお菓子を頂戴するばかりなので、先々週お世話になった病院最寄り駅のホテルでクッキーを買って帰った。


コメント
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