以前もご紹介させて頂いた読売新聞の医療サイト・yomiDr.の大津秀一先生の連載の最新号にまた深く頷かされた。
以下、転載させて頂く。
※ ※ ※(転載開始)
専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話 大津秀一(2014年5月29日)
残り少ない時間を奪う免疫・食事療法の一例
インターネットを検索していると、自身の検索傾向に合わせて広告が表示されることが一般化しています。これを行動ターゲティング広告と呼ぶそうです。
実際に私がインターネット検索をしていると、右上端の方に「ステージⅣのがんが治った」という免疫治療の広告がかなりの頻度で表示されます。
私はがんの患者さんではありませんし、これらの治療が効かないことを知っている専門家なので、「困ったもんだなあ」と思うだけですが、本当にステージⅣで悩んでいる患者さんやご家族にとってはどうでしょうか?
この検索傾向や訪れたページに合わせての広告や、あふれる情報に、危険が潜んでおり、私たちはこれまで以上に情報をしっかり吟味することが求められています。
「良くなっている」と医師は言うが…
Aさん(45歳女性)は高度に進行した婦人科系のがんでした。
ネットを検索していて見つけたのは、「この治療でがんが治る!」とうたっている免疫治療のクリニックでした。
Aさんは親切な免疫クリニックの医師の対応に感動しました。それも後押しして、1回20万円程度する免疫治療を6回受けることにしました。
免疫クリニックに行くと、「良くなっているね」と医師はにこにこして言います。一方で抗がん剤治療でかかっている医師には「残念ですが、悪くなっている徴候があります」と言われます。
Aさんは「患者に元気を出させるのも医師の仕事なのではないか。それなのにいつも厳しいことばかり言うのは良くない」と、かかりつけの抗がん剤治療をしている医師に不信感を抱き、一方で免疫治療の先生の言うことをますます信じたのでした。
Aさんは急激に体力が衰え、歩きにくくなりました。免疫クリニックの先生に相談すると、こう言われました。
「がんは良くなっているけれども、食べられないから体力が落ちていますね。かかりつけの先生に栄養点滴をしてもらってください」
これまでの連載に述べて来たことから皆さんもおわかりのように、Aさんの悪液質はかなり進行し、栄養療法が効くような状況ではありません。追い打ちをかけるように、こんなアドバイスももらったのです。
「体力を上げるために、食事は玄米中心にしましょう。血液をきれいにするために、肉も食べてはいけません」
高度進行がんを抱えているような消化吸収能力が通常よりも低下している場合は、むしろ玄米は体に負担をかける可能性があります。実際に体力低下によってかむ力も落ちている中を一生懸命かんで食べていたようですが、便にはそのまま玄米が交じって出て来てしまいました。
「先生、下痢になってしまって…」
Aさんが免疫治療の先生に言うと、「毒素が一緒に出ているんですね。良いことです」とやはり笑顔だったそうです。
その後Aさんはかかりつけの病院に入院しました。
「クリニックの先生は良くなっていると言っているのに! おかしいんです」
Aさんもご主人も口々に言いました。本当に残念なことなのですが、Aさんがご主人と過ごせる時間は長くありませんでした。
この場合の効かない免疫・食事療法のデメリットは2つあったと思います。
体に合っていない食事療法で消耗を早めた可能性があること。これが1つ。
もう1つは、治ると信じたため、免疫治療に時間と労力、お金を費やして、限られた時間を「よく生きる」というためには何もできなかったことです。ご主人は、釈然としない表情を浮かべていらっしゃいました。もっと2人で残された時間に「治す以外のことも考えよう」と歩んでいてくれたらと残念に思います。
おいしい話に騙されるより…おいしい食事を
こんな話、本当か? と皆さんはお思いになるかもしれません。
私だったら騙されるはずはない、そうおっしゃる方もいるかもしれません。
しかし弱っている人やその周囲は追い詰められているがゆえに判断力も鈍ってしまうことがあり、藁どころか毒をつかんでしまうこともあります。
先日も「食事療法でがんが治った」というネットのページをたまたま閲覧すると、「抗がん剤をしていたのですが治らず、食事療法で治った」というものを見つけました。「抗がん剤が効いたのではないか?」「おのずと治ったのではないか」などという疑問に答えることができないのが、このような報告です。
「おいしい話に騙されるよりも、おいしい食事を取ってほしい」。そのようなほうがよほど長生きする、現場で見ているとそう思うのですが、現場と乖離した嘘ばかり拡散されてしまうのは悲しいことです。
(転載終了)※ ※ ※
先生も書いておられる通り、私のブログにもよくこうしたがん関係の広告が見え隠れする。ハンドル名からなのか、椅子関係の広告が貼り付けられていることも多い(笑)。ヨガスタジオや泊まろうかと検索したホテルの広告などなど、本当にもう結構ですから、放っておいてください、と辟易する。こうして行動をチェックして広告を打ってくるのはなんと鬱陶しいことだろう。正直、勘弁してほしいと思う。
さて、本日のお題“免疫療法”について私のことを言えば、これまで、“免疫療法”や“民間療法”のお世話になろうと思ったことはないし、この先も多分ないだろう。
こうした免疫療法は自由診療だから全額自己負担。最低でも1クール(6回)の治療を受ければ200万を下らない、という破格な治療である。確定申告をすれば医療費控除にはなるとは書いてあるが定かではない。高額医療費の対象にはならないことは明示されている。
あなたにはまだ、標準治療である保険が効く治療薬が残っているから、そんな強気で流暢なことを言っているのだろう、と言われるかもしれない。けれど、逆にこの免疫療法が十分な奏功のエビデンスがあれば、保険診療になる筈なのだけれど・・・。
実は、かつて夫から、お金のことはどうにでもするから、こういうのもやってみたらどうか、と持ちかけられたことがある。どんなものか、とパンフレットを取り寄せてみたこともあるけれど、どうにも触手が動かず、それっきりだ。
不思議なことに、何故こんなに冷静沈着な方が・・・と思うような方が、この免疫療法にかかっておられたり、薦めておられたりしていることを知って驚くことがある。かつて実際に免疫療法を経験された方の中には、それでは何の効果も得られないどころか、更に転移病巣が増えたため、観念してそれ迄嫌だと逃げ回っていた抗がん剤治療を受けたところ、奏功して何年も普通の生活が出来たという方もいる。結局、その方は数百万円をドブに捨てる羽目になったと伺った。
人は追い詰められるとそれほど弱いものなのだろうな、とも思う。けれど、そういう弱さにつけ込む様々なビジネス(あえて医療ではなく、ビジネスと言いたい。)が後を絶たないことについて、患者としてやりきれないとともに、哀しく思う。
もちろん、全てが出鱈目であるとは思わないし、中には効いた方もいるのかもしれない。けれど、「化学療法と併用する方がより効果が高いから、かかりつけの病院での治療は止めないでください」とも謳っているから、実は効果がないことがわかっていて、それを隠ぺいするために“効果が期待できる病院での治療”を継続させようとしている、とも勘ぐることが出来る。そして当然のことながら効いた症例しか取り上げておらず、その後ろに隠れている筈の数え切れないほどの効かなかった症例についてはノーコメントだ。もちろん、今後研究が進んで、標準治療に格上げされる日がくるのかもしれないけれど、現段階であまりにエビデンスが少ないように感じるのは私だけだろうか。
免疫療法で有名なあるクリニックのHPを見ると、それはそれは見事に美しくレイアウトされ、治療費用等もきちんと明示されている。これだけ至れり尽くせりの個別化治療を施すこの医療(ビジネス)の一体どこが信用できないのか、という感じを受ける。
けれど、少し冷静に考えてみれば15年間で16,000人の患者のうち、例えば乳がんの症例が1,000ちょっとであり、奏功した例としてたった1例しか掲載されていない、さらにその症例は10年以上前のものだ、ということをどう捉えたらよいのか。
この療法がどれほどのものか、というのは一目瞭然のように思うのだが、いかがなものだろうか。
辛く苦しい時に、事実に触れずに口当たりの良いことだけを言ってくれる人が果たしていい人なのだろうか。決してそんなことはないだろう。
それよりも、厳しい事実をきちんと伝えてもらい、それを受け容れながら、日々を大切に精一杯過ごし、美味しい食事を少しでも長く摂る方がずっと幸せなことではないか。
結果として、Aさんのように最期の時間を早め、取り返しのないことになった時に、一体このクリニックの医師はなんとおっしゃるのだろう。
後味の悪いことにならないように、私は危うきに近寄らず・・・の姿勢でこれからも標準治療を続けていきたい、と思う。
以下、転載させて頂く。
※ ※ ※(転載開始)
専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話 大津秀一(2014年5月29日)
残り少ない時間を奪う免疫・食事療法の一例
インターネットを検索していると、自身の検索傾向に合わせて広告が表示されることが一般化しています。これを行動ターゲティング広告と呼ぶそうです。
実際に私がインターネット検索をしていると、右上端の方に「ステージⅣのがんが治った」という免疫治療の広告がかなりの頻度で表示されます。
私はがんの患者さんではありませんし、これらの治療が効かないことを知っている専門家なので、「困ったもんだなあ」と思うだけですが、本当にステージⅣで悩んでいる患者さんやご家族にとってはどうでしょうか?
この検索傾向や訪れたページに合わせての広告や、あふれる情報に、危険が潜んでおり、私たちはこれまで以上に情報をしっかり吟味することが求められています。
「良くなっている」と医師は言うが…
Aさん(45歳女性)は高度に進行した婦人科系のがんでした。
ネットを検索していて見つけたのは、「この治療でがんが治る!」とうたっている免疫治療のクリニックでした。
Aさんは親切な免疫クリニックの医師の対応に感動しました。それも後押しして、1回20万円程度する免疫治療を6回受けることにしました。
免疫クリニックに行くと、「良くなっているね」と医師はにこにこして言います。一方で抗がん剤治療でかかっている医師には「残念ですが、悪くなっている徴候があります」と言われます。
Aさんは「患者に元気を出させるのも医師の仕事なのではないか。それなのにいつも厳しいことばかり言うのは良くない」と、かかりつけの抗がん剤治療をしている医師に不信感を抱き、一方で免疫治療の先生の言うことをますます信じたのでした。
Aさんは急激に体力が衰え、歩きにくくなりました。免疫クリニックの先生に相談すると、こう言われました。
「がんは良くなっているけれども、食べられないから体力が落ちていますね。かかりつけの先生に栄養点滴をしてもらってください」
これまでの連載に述べて来たことから皆さんもおわかりのように、Aさんの悪液質はかなり進行し、栄養療法が効くような状況ではありません。追い打ちをかけるように、こんなアドバイスももらったのです。
「体力を上げるために、食事は玄米中心にしましょう。血液をきれいにするために、肉も食べてはいけません」
高度進行がんを抱えているような消化吸収能力が通常よりも低下している場合は、むしろ玄米は体に負担をかける可能性があります。実際に体力低下によってかむ力も落ちている中を一生懸命かんで食べていたようですが、便にはそのまま玄米が交じって出て来てしまいました。
「先生、下痢になってしまって…」
Aさんが免疫治療の先生に言うと、「毒素が一緒に出ているんですね。良いことです」とやはり笑顔だったそうです。
その後Aさんはかかりつけの病院に入院しました。
「クリニックの先生は良くなっていると言っているのに! おかしいんです」
Aさんもご主人も口々に言いました。本当に残念なことなのですが、Aさんがご主人と過ごせる時間は長くありませんでした。
この場合の効かない免疫・食事療法のデメリットは2つあったと思います。
体に合っていない食事療法で消耗を早めた可能性があること。これが1つ。
もう1つは、治ると信じたため、免疫治療に時間と労力、お金を費やして、限られた時間を「よく生きる」というためには何もできなかったことです。ご主人は、釈然としない表情を浮かべていらっしゃいました。もっと2人で残された時間に「治す以外のことも考えよう」と歩んでいてくれたらと残念に思います。
おいしい話に騙されるより…おいしい食事を
こんな話、本当か? と皆さんはお思いになるかもしれません。
私だったら騙されるはずはない、そうおっしゃる方もいるかもしれません。
しかし弱っている人やその周囲は追い詰められているがゆえに判断力も鈍ってしまうことがあり、藁どころか毒をつかんでしまうこともあります。
先日も「食事療法でがんが治った」というネットのページをたまたま閲覧すると、「抗がん剤をしていたのですが治らず、食事療法で治った」というものを見つけました。「抗がん剤が効いたのではないか?」「おのずと治ったのではないか」などという疑問に答えることができないのが、このような報告です。
「おいしい話に騙されるよりも、おいしい食事を取ってほしい」。そのようなほうがよほど長生きする、現場で見ているとそう思うのですが、現場と乖離した嘘ばかり拡散されてしまうのは悲しいことです。
(転載終了)※ ※ ※
先生も書いておられる通り、私のブログにもよくこうしたがん関係の広告が見え隠れする。ハンドル名からなのか、椅子関係の広告が貼り付けられていることも多い(笑)。ヨガスタジオや泊まろうかと検索したホテルの広告などなど、本当にもう結構ですから、放っておいてください、と辟易する。こうして行動をチェックして広告を打ってくるのはなんと鬱陶しいことだろう。正直、勘弁してほしいと思う。
さて、本日のお題“免疫療法”について私のことを言えば、これまで、“免疫療法”や“民間療法”のお世話になろうと思ったことはないし、この先も多分ないだろう。
こうした免疫療法は自由診療だから全額自己負担。最低でも1クール(6回)の治療を受ければ200万を下らない、という破格な治療である。確定申告をすれば医療費控除にはなるとは書いてあるが定かではない。高額医療費の対象にはならないことは明示されている。
あなたにはまだ、標準治療である保険が効く治療薬が残っているから、そんな強気で流暢なことを言っているのだろう、と言われるかもしれない。けれど、逆にこの免疫療法が十分な奏功のエビデンスがあれば、保険診療になる筈なのだけれど・・・。
実は、かつて夫から、お金のことはどうにでもするから、こういうのもやってみたらどうか、と持ちかけられたことがある。どんなものか、とパンフレットを取り寄せてみたこともあるけれど、どうにも触手が動かず、それっきりだ。
不思議なことに、何故こんなに冷静沈着な方が・・・と思うような方が、この免疫療法にかかっておられたり、薦めておられたりしていることを知って驚くことがある。かつて実際に免疫療法を経験された方の中には、それでは何の効果も得られないどころか、更に転移病巣が増えたため、観念してそれ迄嫌だと逃げ回っていた抗がん剤治療を受けたところ、奏功して何年も普通の生活が出来たという方もいる。結局、その方は数百万円をドブに捨てる羽目になったと伺った。
人は追い詰められるとそれほど弱いものなのだろうな、とも思う。けれど、そういう弱さにつけ込む様々なビジネス(あえて医療ではなく、ビジネスと言いたい。)が後を絶たないことについて、患者としてやりきれないとともに、哀しく思う。
もちろん、全てが出鱈目であるとは思わないし、中には効いた方もいるのかもしれない。けれど、「化学療法と併用する方がより効果が高いから、かかりつけの病院での治療は止めないでください」とも謳っているから、実は効果がないことがわかっていて、それを隠ぺいするために“効果が期待できる病院での治療”を継続させようとしている、とも勘ぐることが出来る。そして当然のことながら効いた症例しか取り上げておらず、その後ろに隠れている筈の数え切れないほどの効かなかった症例についてはノーコメントだ。もちろん、今後研究が進んで、標準治療に格上げされる日がくるのかもしれないけれど、現段階であまりにエビデンスが少ないように感じるのは私だけだろうか。
免疫療法で有名なあるクリニックのHPを見ると、それはそれは見事に美しくレイアウトされ、治療費用等もきちんと明示されている。これだけ至れり尽くせりの個別化治療を施すこの医療(ビジネス)の一体どこが信用できないのか、という感じを受ける。
けれど、少し冷静に考えてみれば15年間で16,000人の患者のうち、例えば乳がんの症例が1,000ちょっとであり、奏功した例としてたった1例しか掲載されていない、さらにその症例は10年以上前のものだ、ということをどう捉えたらよいのか。
この療法がどれほどのものか、というのは一目瞭然のように思うのだが、いかがなものだろうか。
辛く苦しい時に、事実に触れずに口当たりの良いことだけを言ってくれる人が果たしていい人なのだろうか。決してそんなことはないだろう。
それよりも、厳しい事実をきちんと伝えてもらい、それを受け容れながら、日々を大切に精一杯過ごし、美味しい食事を少しでも長く摂る方がずっと幸せなことではないか。
結果として、Aさんのように最期の時間を早め、取り返しのないことになった時に、一体このクリニックの医師はなんとおっしゃるのだろう。
後味の悪いことにならないように、私は危うきに近寄らず・・・の姿勢でこれからも標準治療を続けていきたい、と思う。