京のおさんぽ

京の宿、石長松菊園・お宿いしちょうに働く個性豊かなスタッフが、四季おりおりに京の街を歩いて綴る徒然草。

どの花咲くや

2012-04-08 | インポート

 

  

    桜の樹の下には屍体が埋まっている!

 

 と書いたのは、梶井基次郎だ。

 信じていいことらしい。

 梶井基次郎は、そう言っている。

 剣呑である。

 しかし、そう、あの美しさには、何か暗い陰が寄り添っているはずだ。

 そんなことを、考えてしまう気持ちは、分からぬでもない。

 だが屍体とは、穏やかではない。

 檸檬爆弾を想像するこの人らしい。

 檸檬を買った八百卯も、檸檬を置いた丸善も、今はもうない。

 しかしそれは、今は関係ない。

 

 今日は暖かい。

 さあ、桜の季節である。

 桜の樹の、芽という芽が、力を放とうとしている。

 放たれた力が五枚の花弁となり、人の目に暖かな美をもたらす。

 今週が、見ごろだろう。

 桜並木の群咲くを見るもよし。

 一本桜の高貴に咲くを見るもよし。

 

 哲学の道は、どこまでも桜が続く。

 薄桃色の雲が、延々と頭上を覆う。

 哲学も忘れて、花に見入る。

 

 石庭で有名な龍安寺。

 その石庭に覆いかぶさるように枝垂桜が咲く。

 モノトーンの石庭に、この時季だけ色が灯る。

 

 今年の春は、どの桜を見ようか。

 そんなことを考えるのが、楽しい季節。

”あいらんど”