ロイター2/27(日) 7:42
[ワシントン 23日 トムソン・ロイター財団] - 米ノースカロライナ州の小さな街、ウィルソンに住むパトリシア・ロビンソンさん(35)は健康上の問題で運転ができないが、近所には代わりの交通手段もなく、病院の予約を何度もふいにして、孤立感を味わっていた。
だが、2020年に呼べば来てくれる公共の配車サービスが開始。医者のところに行く手段が確保され、2人の娘も学校関係の行事にきちんと参加できるようになった。
「A地点からB地点に行けるのは、私にとって幸せなことだ。(以前は)どこにも行けず、家に閉じ込められ、薬も受け取れずにもがいていた」と電話越しに語る。
ロビンソンさんが使っているのは、RIDE(ライド)というサービスだ。米国では主要都市から農村地域に至るまで、こうした「マイクロトランジット」と呼ばれる安価な配車サービスが数多く立ち上がっている。
いわゆる「移動手段砂漠」に住む弱者に移動手段を提供する上で、このサービスは重要な役割を果たせると推進派は言う。ただ、一部では予約が集中し過ぎるという弊害も生じている。
「(マイクロトランジットは)この地域全体の仕事のやり方に革命を起こした」と語るのは、バージニア州の高齢者介護・交通代理店、マウンテン・エンパイア・オールダー・シチズンズで交通事業のディレクターを務めるウィル・ライト氏だ。
この代理店は同州ワイズ郡の一部で「METGo!」という無料のマイクロトランジットを運営している。ここは農村地域で、貧困率は推定20%以上と全米平均の2倍近い。
「これがどんどん拡大して行って、全ての小さな町でサービスができるようになることを望んでいる。将来的に全国で変化を起こすための『飼育場』になると思う」とライト氏は話した。
昨年6月に試験的にサービスを始め、約半年間で1万2000人以上の人々を運んだ。「天文学的」な数字だとライト氏は言う。
地元でクリニックを営むバレリア・レイノルズ氏によると、患者の95%程度が診療や職場、教会に行くのにMETGo!を利用している。
「市民はこれに頼っている。交通機関もマイカーもない、あるいはそのお金が払えない人々だ。ここバージニア南西部でのニーズは非常に大きい」とレイノルズ氏は語った。
<忘れ去られた層>
ワイズなどの地域は「Via(ビア)」などの企業と提携してサービスを行っている。ビアは2012年創業で、路線や乗客数の効率化をテクノロジー面から管理している。
ウーバー・テクノロジーズやリフトなどの民間配車サービス企業と異なり、ビアは都市やコミュニティー、交通機関と提携して公共交通サービスを提供する。
乗客はアプリか電話で車両を呼ぶ。多くは車いす対応のバンで、民間の配車アプリに比べてはるかに安い料金で乗車することができる。
サービスの立ち上げには州や連邦政府、先住民族コミュニティーからの支援金を利用することもある。
ウィルソン市のRIDEの場合、1回の利用で乗客が払うのは1.50ドルで、高齢者や障害者には割引料金が適用される。METGo!は新型コロナウイルスが流行し始めてから無料にしている。
ウィルソン市の最高計画・開発責任者、ロジャー・レンツ氏は「ここの乗客の平均年収は2万5000ドルに満たない。15―20ドルものタクシー料金を払わなければならないとすれば、法外な負担だ」と話し、サービスは拡大すると予想した。
モンタナ州北西部にある先住民族・ブラックフィート族の居留地も昨年、ビアと共同でマイクロトランジットの運営を開始した。
このサービスのディレクター、ウォレン・ブラックマン氏によると、ビアと組んで以来、月間の乗客数は2倍以上に増えて約1150人になった。成人の乗車料金は1回1ドルだが、乗客の半数以上を占める高齢者や障害者は無料で利用できる。こうした人々は「忘れられがちな層だ」とブラックマン氏は語った。
<うれしい悲鳴も>
都市部では、マイクロトランジット・サービスに前評判ほど利用者が集まらない事例も見られる。
一方で、過剰な人気が問題になる地域もある。カナダのオンタリオ州にある小さな町、イニスフィルは2017年、従来のバスに代わって助成付きのマイクロトランジットを始めたが、あまりの人気に1人当たりの利用回数を制限せざるをえなくなった。
米政府が先ごろ施行した1兆ドル規模のインフラ法には、農村地域の交通対策として5年間で最低20億ドルの措置が手当てされている。「オンデマンド型の移動サービス」は適用対象となるため、マイクロトランジット推進派は主要都市以外でのサービスが、近い将来に存続できると期待を寄せる。
バージニア州で小さい子ども2人を育てながらモーテルでの職を転々とするクリスティナ・マリンズさんのような人々にとって、METGo!は「画期的」なサービスだ。
運転免許のないマリンズさんは、このサービスで月に最大40ドルほど節約できるようになった。友達に送り迎えしてもらうためのガソリン代が浮いたのだ。
「たいした額じゃないと思うでしょ。でも、おむつや何かを買う足しにはなる。おむつって高いから」と笑うマリンズさんは、サービスが「広がってほしい」と願っている。
(David Sherfinski記者)
https://news.yahoo.co.jp/articles/e4726af6a50f01fa3acfa56827b5fd4c2f268121