米国国務省民主主義・人権・労働局2023年4月20日
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文 です。
エグゼクティブ・サマリー
日本は、議院内閣制を採用する立憲君主制国家である。2021年11月、自由民主党の総裁・岸田文雄氏が首相に確定した。7月10日に実施された参議院議員選挙は、外国の専門家から自由かつ公正とみなされ、自由民主党と連立政権を組む公明党が多数を確保し勝利した。
国務大臣がその長を務める政府機関である国家公安委員会が警察庁を管理し、都道府県公安委員会が都道府県警察を管理する。文民当局は治安部隊に対する実効的な統制を維持した。治安部隊のメンバーによる虐待があったとの報告があった。
重大な人権問題の中には、リプロダクティブ・ヘルス・サービス(性と生殖に関する権利)へのアクセスに対する大きな障壁と、障害者、国籍・人種・民族的マイノリティーグループのメンバー、または先住民を対象とした暴力や暴力の脅しを伴う犯罪の信頼に足る報告があった。
政府には、人権侵害や汚職を行った可能性のある政府職員を特定し、処罰する仕組みが整備されていた。
第1部 個人の人格の尊重
A. 恣意的な人命のはく奪およびその他違法な、または政治的動機に基づく殺人
政府またはその職員による、恣意的、または違法な人命のはく奪は報告されなかった。
B. 失跡
政府当局による、あるいは政府当局の意向を受けた失跡の報告はなかった。
C. 拷問およびその他の残酷、非人道的、または屈辱を与えるような処遇または処罰および関連するその他の虐待
法律はこのような行為を禁止しており、政府職員がこうした行為を行ったという信頼に足る報告はなかった。
日本政府は依然として、死刑囚に対し、死刑が執行される日まで執行日に関する情報を事前に提供せず、死刑囚の親族に対しては、死刑執行後、その事実を告知した。政府は、この方針は受刑者に自分の死期を知る苦しみを与えないものであると考えた。
また当局は法により、死刑囚を死刑執行まで単独室に収容するが、親族、弁護士、およびそれ以外の人々による面会を認めている。このような単独室での収容期間は事例によって異なり、数年間にわたる場合もある。
刑務所および収容施設の状況
刑務所の状況は、全般的に国際基準に合致したものであったが、医療や精神衛生に関する体制が不十分で、冬季の暖房または夏季の冷房に不備のある施設も依然としてあった。非政府組織(NGO)は、死刑囚が動作や運動の機会を制限された状態で長期間単独室に収容されることについて、引き続き疑問を呈した。
入国者収容施設への長期にわたる外国人の収容は引き続き懸念であった。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を受け、法務省は多くの被収容者に仮放免を認めた。一部の入国者収容施設では、十分な医療を適時に提供しなかった。
8月8日、2021年3月に名古屋の入管施設収容中に死亡したスリランカ人女性の遺族が、市民から成る独立機関である「名古屋検察審査会」に対し、女性を死に至らしめた不作為による罪で13人の入管職員を不起訴とした名古屋地方検察庁の決定の審査を申し立てた。死亡した女性、ラトナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさんは、死亡の2カ月前から胃痛などの症状を訴え始めたが、健康診断や入管施設外の病院での治療を希望しても、必要時に管理職に伝えられることはなく、亡くなる1時間前まで病院での治療が提供されなかった。2021年11月、ウィシュマさんの家族は、職員が適切な医療を提供せず、救命の法的義務があるにもかかわらず収容を続け、未必の故意でウィシュマさんを死に至らしめたとして、名古屋出入国在留管理局長を含む職員13人を検察庁に刑事告訴した。6月17日、検察はウィシュマさんの死因を特定できず、同入管職員の罪を立証できないと発表し、不起訴処分とした。12月、市民から成る独立機関である検察審査会は、不起訴処分は誤りであると判断し、政府に再捜査を要請した。
虐待的な物理的状況:受刑者は、冬に暖房のない監房の中で長期間寒さにさらされ、手足の指がさまざまな症状の重度のしもやけになった。食事の量はしばしば不十分とされ、独立した専門家によると、著しい体重減少につながった。刑務所や収容施設では、受刑者や被収容者を監房に長期間単独で収容することが日常的に行われた。
当局は、死刑囚を死刑執行まで単独室に収容することを日常的に行っていたが、親族、弁護士、およびそれ以外の人々による面会を認めた(上記第1部C参照)。このような単独室での収容期間は事例によって異なり、数年間にわたる場合もある。NGOは、死刑囚が動作や運動の機会を制限された状態で長期間単独室に収容されることについて、引き続き疑問を呈した。
管理:当局は全般的に、受刑者や被収容者が司法当局に苦情を申し出ることと、申し立てがあった問題の調査を要求することを認めていた。しかし、法律の専門家や人権NGOは、当局が入国者収容施設で苦情処理プロセスを管理していたことに引き続き懸念を提起した。例えば、不服申立人は収容施設職員に苦情を報告することが義務付けられていた。当局は、最終結論以外の詳細がほとんど書かれていない回答を受刑者と入国者収容施設被収容者に送っただけであった。
独立した監督:政府は全般的に、選挙で選ばれた公職者、NGO、報道関係者および国際機関による予定されている視察を許可した。
法務省は政府が運営する刑務所および入国者収容施設の視察委員会の構成員を中央政府以外から任命した。当局は、医師、弁護士、地方自治体職員、地域住民、専門家で構成された委員会が、刑務官や入国者収容施設職員の立ち会いなく被収容者と面接することを認めた。刑務所と入国者収容施設は、委員会が提出した勧告におおむね従うか、それを真摯(しんし)に検討した。
しかし、法律の専門家や人権NGOからは、視察のプロセスや委員会の構成について懸念が示された。
NGOおよび国連拷問禁止委員会はまた、施設当局への面接の事前通知提出が義務付けられていることを懸念として挙げた。
D. 恣意的逮捕または留置・勾留
法律により恣意的逮捕や留置・勾留は禁止されている。罪を犯したか、犯そうとしていると警察官が信じる、あるいは犯罪に関する情報を保持していると疑われる人物に対して、警察官は呼び止め、職務質問をすることができる。市民社会団体は、警察の外国人に対する民族的プロファイリングおよび監視を止めるよう引き続き要請した。
逮捕手続きと被拘禁者の処遇
当局は、正当な権限を持つ当局者が証拠に基づいて発付した令状により公に個人を逮捕し、被拘禁者を独立した司法制度の下で裁いた。死刑に当たる罪など特定の罪を疑うに十分な根拠がある緊急的な事件の場合、法律は事前に令状を取ることなく被疑者の逮捕を認めているが、警察に対しては逮捕後速やかに令状を取ることを義務付けている。
法律により、被疑者、その親族、または代理人は、裁判所に対して、起訴された被勾留者の保釈を請求することができる。起訴前の保釈は認められていない。自白は保釈の法的要件ではないものの、NGOと法律の専門家は、自白なしに保釈が認められるのは非常に困難だと述べた。その他の逮捕要素および公判前の勾留慣行(後述を参照)も自白を促す傾向にあった。検察庁は、警察が送検した全犯罪被疑者のうち約67%は起訴されなかったと報告した。検察官は残りの約33%を起訴し、そのほとんど全てが有罪となった。このような事例のほとんどで、被疑者は自白した。
起訴前に勾留されている被疑者は、取り調べを受けることが法的に義務付けられている。警察の指針により、取り調べ時間は1日最長8時間に制限され、夜通しの取り調べは禁止されている。起訴前の被勾留者は、依頼すれば地元の弁護士会から派遣された弁護人との少なくとも1回の接見を含め、弁護人と接見することができる。起訴の前後において被勾留者の経済力が限られている場合は、被勾留者が依頼すれば、裁判官から選任された弁護人と接見することができる。しかし、取り調べ中に弁護人が同席する法的な権利は認められていない。
法律により、被疑者が逃亡する、あるいは証拠を隠匿または隠滅すると疑うに足る相当な理由がある場合、裁判所は被疑者が弁護人および領事(被勾留者が外国人の場合)以外の人物と面会することを禁止できる(後述の「公判前の勾留」を参照)。薬物犯罪の容疑をかけられている被疑者の大半を含む多くの被疑者は、起訴前までこの制約を受けたが、収容施設職員立ち会いのもと、親族からの面会を許可された者もいた。犯罪の種類と、当局が親族やその他の者による被疑者への面会を拒否できる期間との間には法律上の関連性はない。しかし、法律の専門家は、組織犯罪あるいはその他犯罪の容疑をかけられ勾留されている者については、検察官が親族やその他の者との接触が取り調べの妨げになると考えたため、面会を拒否する傾向があったと述べた。
殺人、強制性交等致死傷、放火、身代金目的の誘拐など凶悪犯罪の刑事事件において、警察官および検察官による取り調べの全過程の録音・録画が義務付けられた。このような事件において、逮捕された被疑者が取り調べ中に警察官および検察官に提出した供述調書は、録音・録画がない場合、証拠として認められなくなった。警察はまた、精神に障害のある被疑者が逮捕された場合、その取り調べ過程を録音・録画するよう最大限努めなければならない。日本弁護士連合会は、録音・録画を逮捕前の被疑者の取り調べや全ての刑事事件に拡大するよう引き続き提唱した。法律の専門家は、特にホワイトカラー犯罪に関連する事件での自白の強要に引き続き懸念を表明した。
恣意的な逮捕:外国人が警察に止められ、人種差別の疑いのある検査を受けたという信頼できる報告があった。東京弁護士会が9月9日に発表した外国にルーツをもつ個人を対象とした機縁法調査によると、過去5年間に63%が警察から職務質問を受け、職務質問を受けた人の77%が民族性以外に職務質問の理由がないと考えていた。警察に止められた人の74%超が、過去5年間に複数回の職務質問を受けたと回答している。
公判前の勾留:法律では、勾留は、ある人物が罪を犯したことを疑うに足る相当の理由があり、かつ証拠の隠匿もしくは隠滅、または逃亡のおそれがある場合に限られるが、当局は日常的に逮捕から起訴前の最初の72時間まで、警察が運営する留置施設に被疑者の身柄を拘束した。裁判官は逮捕から72時間が経過する時点で被疑者を面接した後、起訴前の勾留期間を10日間ずつ、最長20日間まで延長できる。検察官はこの延長を日常的に請求し、法的に必要と判断される場合には、裁判官からその許可を得た。複数の容疑に直面する被疑者は、はるかに長く、場合によっては何カ月も拘束されることがある。公判前の勾留期間の長さは、疑われる犯罪の最高刑と同等かそれを超えることはほとんどなかった。暴動、外国からの侵略、暴力的な集会などの例外的な事案の場合、検察官はさらに5日間の延長を請求できる。日本弁護士連合会は、警察や検察による勾留期間中、被勾留者は弁護人の同席なく取り調べを受けた可能性があると述べた。同連合会はまた、無罪の主張または黙秘権を行使した被疑者と公判前の被告人に対して、政府がしばしば保釈を拒否することがあると付け加えた。同連合会によると、このようなやり方が、保釈されないまま長期間勾留されることを恐れた被勾留者の自白を事実上促した。
E. 公正な公開裁判の拒否
法律により、独立した司法制度が規定されており、日本政府は、全般的に司法の独立性と公正性を尊重した。
審理手続き
法律により、公正で、公開された裁判を受ける権利が与えられており、独立した司法制度により、全般的にこの権利は行使された。被告は、法律上有罪と証明されるまで推定無罪とみなされるが、NGOおよび法律家は、裁判前に被疑者に自白を迫る圧力があることから、必ずしもそうではないと引き続き示唆した。期限付きの在留資格で日本に滞在している外国人被疑者は、在留資格期限が裁判のためには延長されないことから、その有効期限が切れる前に事件を終局させるため、執行猶予付きの判決を交換条件に自白することが多かった。裁判が結審してから判決が下されるまでの時間は、特に複雑な事件の場合、裁判官が証拠を再吟味するために非常に長くなることがある。
全ての被疑者は不当な遅延なく裁判を受ける権利を有するが、専門家は精神疾患のある被勾留者の裁判は遅延することもあると指摘した。
法律の専門家は、弁護人が依頼人との面会時の電子的な録音・録画機器の使用を禁止されていることで、相談・助言の有用性が損なわれていると述べた。また法律では、被告側の弁護人が開示手続きに関する厳しい条件を満たす場合を除いて、検察官による資料の全面開示を義務付けていないため、被告側に有利な資料の隠蔽につながる可能性がある。
政治囚と政治的被拘禁者
政治囚または政治的被拘禁者が存在するとの報告はなかった。
民事司法手続きと救済
民事事件に関しては、独立した公正な司法制度がある。不正行為の申し立てに対しては、行政による救済措置と司法による救済措置の両方がある。個人は、人権侵害に対する損害賠償、あるいは人権侵害の中止を求める訴訟を国内の裁判所に起こすことができる。
F. プライバシー、家族、家庭、または信書に対する恣意的または違法な干渉
法律により上記のような行動は禁止されており、日本政府がこれらの禁止行為の規定の順守を怠ったという報告はなかった。
第2部 市民の自由の尊重
A. 報道や他のメディア関係者を含む表現の自由
憲法は、報道や他のメディア関係者に対しても同様に、言論と表現の自由を規定し、日本政府はおおむねこうした自由を尊重した。独立したメディア、効力のある司法制度および機能する民主的政治制度が合わさり、メディア関係者を含む表現の自由を維持した。
オンラインメディアを含む出版および報道関係者の検閲または内容の制限:国内および国際的な専門家は、政府機関に属する「記者」クラブ制度が自己検閲を助長している可能性について引き続き懸念を表明した。こうした記者クラブは、政府省庁などさまざまな組織内に設置されている。首相官邸やほとんどの省庁が、フリーランスおよび外国人の記者を含む、記者クラブ非加盟者による記者会見への参加を認めているが、専門家は、記者クラブは非加盟者の参加に関する規制を引き続き実施し、時には省庁などの組織に対する取材を妨げたと報告した。
名誉毀損・中傷法:名誉毀損(法律上、文書と口頭の双方が含まれる)は、刑事・民事上の犯罪である。法律は、発言の真実性を抗弁として認めていない。法律は、起訴前の犯罪行為(既に裁判で起訴された犯罪行為)に関する事実を示すことは、公共の利益とみなして処罰しないとしている。政府は6月に法律を改正し、「公然と人を侮辱した場合」の刑事罰について、従来の30日以下の拘留または少額の科料に、1年以下の懲役もしくは禁錮、もしくは少額の罰金を追加した。この政府の措置は、プロレスラーでリアリティー番組出演者の女性が、数カ月にわたるソーシャルメディア上での中傷を経験した後で2020年に自殺したことに対する世間の反応が契機になったといわれる。批評家は、この改定が政治家や公務員に対する正当な批判を抑制する可能性があるとの懸念を表明した。その後、ソーシャルメディア上での過度な中傷を抑止するため、さらなる法改正が行われた。
10月20日、東京高等裁判所は、女性ジャーナリストで性的暴行のサバイバーである伊藤詩織氏を中傷するツイートに「いいね」ボタンを25回押して侮辱したとして、与党自民党の杉田水脈議員に55万円の支払いを命じた(3720ドル)。杉田議員は、ネット上の誹謗中傷に対処する政策を調整する総務省の政務官を務めていた。
インターネットの自由
政府はインターネットへのアクセス制限や介入、またはオンライン上のコンテンツの検閲をしなかった。また政府が適切な法的権限なしで、個人的なオンライン通信を監視したとの信じるに足る報告もなかった。
学問の自由と文化的行事の制限
政府が学問の自由や文化的行事を制限したという新たな事案報告はなかった。
しかし、政府による歴史教科書の認定は、依然として論争の的となっている。文部科学省のガイドラインには、教科書は問題に対する政府の公式見解に沿ったものであるべきという原則が含まれる。このガイドラインを満たしていないと同省が判断した教科書は認可されず、地方の教育委員会が選択して使用することはできない。これまでと同様、歴史教科書の承認過程、特に20世紀の植民地や軍事に関する歴史の扱いが、引き続き議論の対象となった。
B. 平和的な集会および結社の自由
憲法により集会と結社の自由が規定されており、日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。
C. 信仰の自由
国務省の「信仰の自由に関する国際報告書」 を参照。
D. 移動の自由と出国する権利
法律により、国内の移動、外国旅行、移住、本国帰還の自由が規定されており、日本政府は全般的にこれらの権利を尊重した。
E. 難民の保護
日本政府は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)およびその他の人道支援組織と協力して、難民、庇護希望者、無国籍者、およびその他の関係者に保護と援助を行った。
庇護へのアクセス:法律は、庇護の付与あるいは難民の認定を規定している。しかし日本の難民認定審査手続きは厳格で、政府は2021年、2400人の申請者うち74人を難民と認定した。NGOは、低い認定率に懸念を表明した。
法律の専門家グループを含むNGOは、申請者に難民申請を思いとどまらせ、申請を自ら取り下げ国外退去命令を受け入れるよう誘導する厳しい審査手続きに懸念を表明した。特に政府が難民の主張を裁定する際に使う「迫害の恐れ」の解釈は非常に厳しいもので、申請者に直接的な危険があるという絶対的な確実性を求めているとNGOは主張した。
政府は、申請ごとに審査を行い、国連難民条約に基づき難民認定を行い、法務大臣が任命した外部専門家委員会である難民審査参与員(法律や国際情勢に関する知識と経験を有する者で構成)による不服申し立て手続きと司法審査を実施し、政府による難民認定を適切に行うためにUNHCRと協力したと述べた。
政府は、庇護希望者を難民と認定するには平均4年を要し、複数の申請がなされた場合、中には10年要したものもあると報告した。
入管当局は難民認定の第1回目の審問を実施した。庇護希望者は、第1回目の審問への弁護士の参加を認められなかった。保護者のいない15歳以下の子どもや障害者など弱い立場にいる人の場合は例外であった。
政府は8月、133人のアフガニスタン人を難民認定したと発表した。全国難民弁護団連絡会議は、難民認定された133名のうち98名は、2021年に日本政府により避難させたアフガニスタン人であったと報告した。
ルフールマンの原則:法律により政府は、国外退去命令対象者の難民申請の結果が出るまでは退去させることができないが、数年かかることもある手続き中は、収容されるのが一般的だった。
8月23日、全国難民弁護団連絡会議は、2021年のタリバンの政権復帰後、日本政府が日本に避難させていたアフガニスタン人の一部を、この1年間で日本当局が帰国させていたと発表した。同弁護団連絡会議は、帰国させた避難民に難民申請の機会があることを事前に十分に政府が伝えていなかったのではないかと疑っている。同避難民にこの選択肢を伝えたかどうかの確認を国会議員が6月14日に要請したが、政府はこれを断った。
移住者・難民への虐待:NGOは、難民および庇護希望者の無期限の収容や収容施設の環境に、引き続き懸念を表明した。法律の専門家とUNHCRは、長期にわたる収容は、たいていの場合、医療上の仮放免が許可されることになる健康上の懸念を意図したハンガーストライキなどの抗議を収容者たちの間に引き起こしたと指摘した。
移動の自由:政府は、庇護希望者が居住する都道府県外に移動する際には、事前に当局の許可を得ることを義務付けていた。
基本的なサービスへのアクセス:難民認定を受けた人は、しばしば他の外国人が経験するものと同様の、住居、教育、雇用の機会を制限される差別や問題に直面した。
永続性のある解決策:9月28日、政府は第三国定住難民制度によりこの年の難民を29人受け入れた。
一時的な保護:通常の庇護申請制度以外では、2月のロシアによる本格的なウクライナ侵攻後、政府は11月時点で2143人のウクライナ人避難民を受け入れ、そのうちの74%が少女と女性であった。政府は、これらの人々の日本での滞在を一時的に許可したが、最終的な滞在期間は未定であった。政府はこれらの人々に、宿泊施設や職業紹介サービスなどの支援を提供した。また、政府は2021年、難民と認定されない可能性のある580人に対しても一時保護を与えた。このうち498人は、2021年2月にビルマで発生した軍事クーデターを受け、政府の緊急避難措置により避難したビルマ人であった。また政府は、シリア、エチオピア、スリランカ、中国からの27名に対して、それぞれの国における状況に応じて在留を許可した。残りの55人は、日本人と結婚しているか、日本人の子の親権を持っていた。こうした人たちはコミュニティーでの居住と限られた時間の就労が可能となった。
在日ビルマ・ロヒンギャ協会のゾーミントゥ会長によると、およそ380~400人のロヒンギャ族のほとんどは、ビルマでの民族的および宗教的迫害を理由に、人道上のビザによる特別在留許可を得て日本に住んでいた。ゾーミントゥ会長は、2002年以降26人のロヒンギャ族が難民認定され、そのうち8人はこの1年間の難民認定であり、10人のロヒンギャ族の庇護希望者が収容施設から仮放免となったが、これまで就労が許可されておらず、再度収容される可能性があると述べた。
F. 国内避難民(IDPs)の状況と処遇
該当なし。
G. 無国籍者
法務省は、移民に関する規定に基づき、2021年には503人が無国籍であったと発表した。しかし法律の専門家は、この数字は合法的な滞在許可証を持つ無国籍者に限定されているため、無国籍者の数は公式の数字を上回る可能性があると主張した。
法律により、18歳以上の無国籍者は、継続して5年以上日本国内に住んでいること、素行が善良であること、財政的安定があることなど一定の基準を満たせば、帰化する資格が与えられる。
第2次世界大戦終結時、日本による朝鮮統治が終わると、日本国籍を剥奪された日本生まれの朝鮮半島に出自のある子どもは、彼らの両親同様、外国人とみなされていた。このような人たちは選挙権を持たず、公職に就けない場合もある。朝鮮半島の南北分断後、韓国にも北朝鮮にも忠誠を誓わなかった人たちは、「朝鮮半島(コリアもしくは朝鮮)出身市民」という特別区分に該当する。こうした人たちは、法律の専門家によって事実上の無国籍者とみなされており、韓国籍を要求するかあるいは日本国籍を求めることを選択できる。こういった朝鮮半島に出自のある人たちは旅券を所持しないが、政府が発行する一時渡航書で海外に渡航することができ、特別永住者とみなされた。
日本に居住するロヒンギャ族に子どもが生まれた場合、依然として事実上無国籍となった。
第3部 選挙および政治への参画
法律により、日本国民には、平等な普通選挙権に基づき、無記名で実施される、自由かつ公正な選挙により政府を選ぶ力が与えられている。
選挙と政治参加
最近の選挙:7月10日に行われた参議院議員選挙は、自由民主党と連立政権を組む公明党が過半数を確保し、外国の専門家によれば、自由かつ公正な選挙であった。
政党と政治参加:7月11日、弁護士が全国14の高等裁判所とその支部で、45全選挙区での参議院議員選挙結果の無効を求める訴えを起こした。これは、選挙後の慣行となっている。弁護士は、人口が最大の選挙区と最小の選挙区で1票の重みに格差があるのは違憲であるとした。
11月、宮城県仙台市の高等裁判所が初めて1票の重みの格差を違憲と判断したが、東北の5つの選挙区の選挙結果を無効とするには至らなかった。11月時点では、最高裁判所の判断は下されていなかった。同様の訴訟では、6月に最高裁判所が2021年の衆議院議員選挙の審理を決定し、年内に判決を出すと見込まれていた。
女性およびマイノリティーグループの参画:国民であれば、女性、歴史的に阻害されたグループ、あるいはマイノリティーグループの政治過程への参画を制限する法律はない。女性の投票率は男性と同等か、もしくは高い状況にあった。しかし、国会における女性の割合は、直近の選挙後でも依然として少なく、衆議院で10%、参議院で26%と、以前から若干増加したにとどまった。
内閣府男女共同参画局によると、2021年の地方議会における女性の割合は12~31%と同様に低く、都市部の方が地方よりも女性の選出数が多い。
民族に基づくマイノリティーグループの中には、混合民族の血を引く国会議員もいたが、マイノリティーであることを自ら明らかにしているとは限らないため、その数を把握するのは困難であった。
自身がLGBTQI+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア、インターセックスなど)だと公表している国会議員は、立憲民主党の1名であった。地方選挙で選出されたLGBTQI+の議員も何人かいた。
第4部 政府の汚職と透明性の欠如
法律により、公務員による汚職には刑事罰が規定されており、日本政府は全般的に法律を効果的に執行した。政府による汚職が数件報告された。
独立した立場の学識経験者は、政・官・財のつながりは密接であり、汚職は依然として懸念される問題だと述べた。
第5部 人権侵害の疑いに対する国際機関および非政府機関の調査に対する政府の姿勢
国内外のさまざまな人権団体は、全般的に、政府による制約を受けずに活動し、人権侵害の事例について調査し、調査結果を公表した。政府関係者は、通常協力的であり、こうした団体の見解に対応した。
政府の人権機関:法務省の人権相談所が全国300カ所以上に設置されていた。約1万4000人のボランティアが、直接面談して、あるいは電話やインターネットを通じて質問に答え、秘密厳守で相談に応じた。50カ所の相談所では、10カ国語での相談が可能であった。こうした相談所は、問い合わせに対応するが、関係者の承諾がなければ個人や公的機関による人権侵害を調査する権限がない。相談所は助言と仲裁を行い、児童相談所や警察など他の政府機関と連携した。地方自治体には、さまざまな人権問題を扱う人権担当部署が設置されている。
第6部 差別や社会的虐待
女性
強姦および配偶者からの暴力:法律により、サバイバーの性別を問わず、さまざまな形態の強姦(法定用語では強制性交)が犯罪とされ、暴行または脅迫を用いた膣、肛門、口腔への陰茎挿入は犯罪と定義されている。男女共に強姦で起訴される可能性がある。陰茎以外の体の部分や物を用いた強制挿入は、強姦ではなく強制わいせつとなり得る。法律は、配偶者間の強姦可能性を否定しないが、婚姻が破綻している状況にある場合(正式な離婚または別居など)を除いて、そのような判決を下した裁判所はこれまでにない。法律は、強姦の有罪判決に5年以上の懲役を義務付けている。検察官は、暴力または脅迫があったこと、あるいはサバイバーが抵抗できなかったことを証明しなければならない。強制わいせつを行った者は、6カ月以上10年以下の懲役刑に処せられる。配偶者からの暴力も犯罪にあたり、サバイバーは加害者に対して、裁判所による保護命令を申し立てることができる。暴行加害者は有罪になると、2年以下の懲役、もしくは少額の罰金が科せられる。人の身体に傷害を加えた者は、有罪となった場合、15年以下の懲役、もしくは少額の罰金が科せられた。保護命令に違反した者は、1年以下の懲役、もしくは少額の罰金が科せられた。
警察庁は、2021年に8万3000件超の家庭内暴力(DV)の報告を受けた。政府は全般的に、法律を効果的に執行したが、専門家は、さまざまな行為や、さまざまな状況下で行われる広範囲の強姦を犯罪とするために、法的要件を改正するよう主張した。
2021年10月、内閣府男女共同参画局は、2021年には政府運営の配偶者暴力相談支援センターに、約17万7000件のDVの相談が寄せられたと発表した。2020年よりは若干減少したものの、依然としてこの数字は2019年の1.5倍であった。これは、2020年に導入された新たなDVホットラインが、センターに連絡する新たな手段を被害者に提供したことに起因していると考えられる。政府は、強姦およびDVは、届け出がかなり少ない犯罪だと指摘した。2021年3月の男女共同参画局の調査によると、女性の14人に1人が強姦または性的暴行を受けたことがあるという。その半数以上が犯罪を通報しなかった。この分野の専門家は、女性が強姦の届け出に消極的なのは、報復されることへの恐怖、公の場で辱めを受けることへの恐れ、暴力、脅迫、またはサバイバーの抗拒不能などの法で定義されている要件ゆえに法定強姦を証明する困難さなど、さまざまな要因にあるとした。この調査によれば、女性の4人に1人が、配偶者からの身体的暴行、心理的攻撃、経済的圧力、性的強要などの形のDVを経験していた。半数近くのサバイバーは、自分の状況が犯罪を構成する法的要件を満たしていないのではないかという懸念から、暴力を報告しなかった。特に、事件を法的に追求することに伴う社会的偏見や非難の可能性を考慮した場合にそのような懸念があった。
生活の本拠を共にする交際相手、配偶者、元配偶者からの暴力の被害者は、政府あるいはNGOが運営するシェルターにおいて保護を受けることが可能であった。
セクシュアルハラスメント:法律は事業主に対して、職場でのセクシュアルハラスメント防止に向け努力することを義務付けている。しかし、そのようなセクシュアルハラスメントは依然としてあった(「第7部 D」を参照)。
公共交通機関で女性や少女の体を触る痴漢行為をはたらく男性が依然として問題となった。
7月の参議院議員選挙期間中、男性政治家や候補者、有権者による女性候補者へのセクシュアルハラスメント行為が報告された。6月に行われた参議院議員選挙のイベントにおいて、日本維新の会の男性候補者である猪瀬直樹氏が、同党の女性候補者の体を数回にわたって触る映像が公開され、セクシュアルハラスメントだとの批判を浴びた。猪瀬氏は「軽率な行動」と公に認めたが、女性は猪瀬氏の行為で不快な思いをしたことは否定した。これを受けてジェンダーと政治の研究者である三浦まり氏は、猪瀬氏が同僚の選挙に協力したことで、その行為に抗議することが難しくなったのでないかとコメントした。
8月、元自衛官の五ノ井里奈氏は、2021年8月に福島県郡山市の訓練場で、自衛隊の男性先輩隊員3人にベッドに押し倒され、交互に足を広げられ、股間を繰り返し押しつけられたと報告した。五ノ井氏が事件を通報した後、警務隊は3人の男性を強制わいせつ容疑で検察庁に書類送検したが、検察は5月31日、これを証拠不十分として不起訴とした。6月7日、五ノ井氏はこの決定を不服として、市民から成る独立機関である郡山検察審査会に審査を申し立てた。五ノ井氏は6月27日に自衛隊を退職した。五ノ井氏は8月31日、木村次郎防衛大臣政務官に対して、10万人以上の自衛隊員が署名した、自身のハラスメントに関する第三者による再調査を求める嘆願書を提出し、他に146名の隊員が自衛隊でセクシュアルハラスメントを受けたと報告していることを明らかにした。
浜田靖一防衛大臣は9月6日、五ノ井氏の事件について防衛省が独自に調査することを発表し、自衛隊全体のセクシュアルハラスメントを調査するよう別途指示を出した。9月7日、市民から成る独立機関である検察審査会は、3人の加害者を不起訴とした判断は誤りであるとし、検察に再捜査を要請した。再捜査は年末まで進行していた。防衛省は9月29日に記者会見を開き、五ノ井氏に公式に謝罪した。10月17日、五ノ井氏は加害者がそれぞれ個人的に謝罪したことを明らかにした。
リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利):政府当局による強制中絶や不本意な避妊手術に関する報告はなかった。
法律はトランスジェンダーの人々に対して、自らの性自認を法的に認定させるため、生殖機能を持たないことを義務付けており、事実上ほとんどの人に対して不妊手術を義務付けている(小節「性的指向、性自認、ジェンダー表現または性的特徴に基づく暴力行為、犯罪化、その他の虐待」を参照)。
法律は、妊娠中絶において、配偶者の同意を義務付けている。
2013年、厚生労働省は、未婚の夫婦には同意義務が適用されないことを明らかにし、2021年には、DVなどで婚姻関係が実質的に終わっているため同意を得ることが困難な既婚女性を同意義務から免除した。しかし、この方針には法的拘束力はなく、この分野の活動家は、一部の医療関係者が法律解釈に基づく訴訟リスクを回避するため、未婚女性や性的暴行およびDVのサバイバーに対して父親の同意を得ることを要求していると指摘した。
日本医師会は産婦人科医に対して、中絶を望む性的虐待のサバイバーに起訴状や判決文といった書類を求めるよう指示したが、強姦事件の起訴に関連する法的複雑さと社会的偏見が、迅速な救済を阻む障壁となっていた。
政府は、性的暴力のサバイバーが警察または各都道府県にある政府指定支援センターに支援を求めた場合、サバイバーへの性と生殖に関する医療サービスを助成した。このようなサービスには診察や緊急避妊薬が含まれていた。避妊の方法は学校で教えられており、避妊は安全で効果的であり、国内で広く利用できる。
差別:法律により性別による差別は禁止され、全般的に女性には男性と同じ権利が与えられている。
法律やそれに関連する政策にもかかわらず、政府の施行は限られていた。NGOは引き続き、性差別撤廃措置の実施が不十分であるとし、法律における差別的な条項、労働市場での女性に対する不平等な扱い(「第7部 D」を参照)、選挙で選ばれた議員の中に女性が少ないことを指摘した(第3部を参照)。
民法は、夫婦が単一の姓を共有することを義務付けている。政府によると、結婚した夫婦の96%が夫の姓を採用している。3月23日、最高裁判所は2件の訴訟で、夫婦同姓を義務付けている法規定を合憲とする判決を下した。判決は、2015年と2021年の判断を支持し、この問題を国会で議論するよう求めた。
人種・民族への組織的暴行や差別
人種、民族、宗教的差別を禁止する包括的な法律はない。
日本で生まれ、育ち、教育を受けた多くの外国人を含む、日本で永住権を有する外国人と帰化した日本人は、差別に対する法的な保護措置があるにもかかわらず、住居、教育、医療、および雇用の機会の制限など、さまざまな形で根深い社会的差別を受けた。外国人や、「外国人のように見える」日本国民は、ホテルやレストランなど一般の人々にサービスを提供している民間施設への入場を、時には「外国人お断り」と書かれた看板によって禁じられたと報告した。
法律家や市民社会の専門家は、一部の自治体の法律が、街頭デモにおけるヘイトスピーチの継続的な減少に寄与していると指摘した。しかし、政府に対しより効果的な抑止策の実施とヘイトスピーチ事案に関する調査の実施を要請した専門家によると、ネット上でのヘイトスピーチは続いており、朝鮮半島の民族など特定の民族に対する犯罪も続いていた。
例えば、8月には、朝鮮半島の民族が多く住む京都のウトロ地区で放火した男が懲役4年の判決を受けた。京都地方裁判所は、朝鮮半島の民族に対する偏見と憎悪に基づく行為であると判断した。報道によると、犯人はネットで反コリアについてのコメントを読んで過激化した。また、9月には東京の駅で「朝鮮人コロス会」と赤字で書かれた落書きが発見された。
その他の人種や少数民族に対しての事案もあった。法律の専門家は、COVID-19発生後は中国人に対するヘイトスピーチが増加したと指摘した。
法律は部落民(封建時代に社会的に疎外された者の子孫)に対する差別の問題に取り組むことに特化している。この法律は、国および地方公共団体に、部落差別について調査し、啓発教育を行い、相談体制を充実させるよう義務付けている。
部落民の権利擁護団体は引き続き、部落民コミュニティーで社会経済的状況の改善を実現したにもかかわらず、雇用、結婚、住居、不動産価値評価の面での差別が横行している状況が続いたと報告した。公式に部落民というレッテルを貼って部落出身者を識別することは既になかったが、戸籍制度を利用して部落民を識別し、差別的行為を促すことが可能であった。部落民の権利擁護団体は、多くの政府機関も含め、就職希望者の身元調査のため戸籍情報の提出を求めた雇用者が、戸籍情報を使って部落出身の就職希望者を識別・差別することがあるかもしれないとの懸念を表明した。
先住民
法律は、アイヌを先住民として認めており、アイヌ文化を保護・促進し、アイヌ差別を禁止している。法律は、国および地方自治体に対して、地域を支援し、地域経済と観光業を振興する対策を講じることを義務付けている。法律は、アイヌの自決権や民族に関する他の権利を規定しておらず、またアイヌの教育権を明記していない。
日本政府は琉球民(沖縄と鹿児島県の一部の住民を指す言葉)を先住民と認定していないが、彼らの独自の文化と歴史を公式に認め、その伝統を保存し尊重する努力をした。
子ども
出生届:法律では、子どもの父親が日本人でその子の母親と結婚しているか、子どもを認知している場合、子どもの母親が日本人である場合、または子どもが日本で生まれ、その両親が不明あるいは無国籍の場合に、生まれた子どもに日本国籍を認めている。法律は、日本で生まれた者で出生時には国籍を持たないが、出生後3年以上連続して日本に居住している者に対して、帰化のいくつかの条件を免除しているが、追加条件なしで国籍を与えてはいない。法律により、国内で生まれた子の場合は14日以内に、国外で生まれた子の場合は3カ月以内にそれぞれ出生届を出すことが義務付けられており、この期限はおおむね順守された。提出期限を過ぎた出生届も受理されたが、軽微な罰金が科せられた。
法律により、個人は出生届に子が嫡出子か非嫡出子かを明記することが義務付けられている。法律は、離婚成立から300日以内に生まれた子は離婚した男性の子であると推定しており、そのため、正確な人数は不明だが、子どもの出生届が出されず無戸籍となる状況が発生している。
子どもに対する虐待:法律は子どもに対する虐待を禁止している。身体的暴力、性的虐待、心理的虐待、育児放棄といった児童虐待の報告件数は増加した。専門家は、増加の要因はCOVID-19の大流行期間中に社会的孤立が増加したことにあるとした。COVID-19により子どもが家族以外の人と関わる頻度が減少したため、さらに多くの虐待が発見されずにいる懸念があった。
子どもはまた、インターネットを通じて人権侵害の対象となった。小学生の写真や動画を、本人の同意なしに公共の場で公開するなどの違反があった。政府はサイト運営者に削除を要請し、報告によると多くのサイトがこれに応じた。
未成年者の結婚、早婚および強制婚:4月1日時点で、結婚できる最低法定年齢は男女とも18歳であった。20歳未満の者は、少なくとも両親のいずれかの同意がなければ結婚できない。
子どもの性的搾取:子どもの商業的性的搾取は違法であり、懲役もしくは少額の罰金を含む罰則に処せられる。性交同意年齢は13歳で、児童強姦の訴追を困難にしている。法定強姦に関する法律は、本人の「同意」または強制や脅迫の有無にかかわらず、13歳未満の少女または少年との性交を犯罪としている。また、18歳未満の未成年者に対する監護者による強姦も犯罪とされている。法定強姦をした者は5年以上の懲役刑に処せられ、法律は執行された。加えて、法律や条例は、未成年者の性的虐待に対処する。
児童ポルノの単純所持は犯罪である。児童ポルノの商用化は違法であり、5年以下の懲役もしくは少額の罰金またはその両方に処せられる。警察は、ソーシャル・ネットワーキング・サービスを利用した性的搾取の事例が引き続き増加していると指摘した。NGOは、予防的な取り組みは加害者より被害者を対象としたものが多いことに引き続き懸念を示した。NGOは、性的同意年齢の低さが商業的性的搾取を受けた児童を人身取引被害者と公式に認知する取り組みを複雑にしたと報告した。
引き続き行われている「援助交際」や、出会い系、ソーシャル・ネットワーキング、「デリバリー・ヘルス」などのウェブサイトの存在が、性的搾取を目的とする児童の人身取引、およびその他の商業的性産業を助長した。NGOは、コロナ禍による失業や外出自粛策がオンラインによる子どもの性的搾取を助長したと報告した。成年男性と未成年の少女を結びつけるデートサービスや、ポルノ強要などの性的搾取を目的とする児童の人身取引「JK(女子高生)ビジネス」を取り締まる関係府省対策会議は、引き続き取り締まりを強化した。8都道府県の条例は、JKビジネスの禁止、18歳未満の少女による「援助交際」の禁止、またJKビジネス営業者に対して各都道府県の公安委員会に従業員名簿の登録を義務付けている。「JKビジネス」で働く少女を支援するNGOは、これらの事業と子どもの商業的性的搾取の関連性を報告した。
日本は、児童ポルノの製造および人身取引犯による子どもの搾取の場であった。
性描写が露骨なアニメ、マンガ、ゲームには暴力的な性的虐待や子どもの強姦を描写するものもあるが、日本の法律は、こうしたアニメ、マンガ、ゲームを自由に入手できるという問題に対処していない。
反ユダヤ主義
日本に居住するユダヤ人の総人口は、およそ3000人から4000人である。反ユダヤ的な行動の報告は把握の限りはなかった。
人身取引
国務省の「人身取引報告書」 を参照。
性的指向、性自認、ジェンダー表現または性的特徴に基づく暴力行為、犯罪化、その他の虐待
犯罪化:成人同士の同意に基づく同性間の性行為を犯罪とする法律はない。
LGBTQI+の人々に対する暴力:LGBTQI+の人々の権利擁護団体は、LGBTQI+の人々に対する暴力を引き続き報告した。また、個々の政治家の発言が、一般の人々による暴力を扇動、容認または許容した可能性があると主張した。法律の専門家によると、トランスジェンダーに対するヘイトスピーチやヘイトクライムが数多くあった。LGBTQI+の人々を取り巻く偏見が、依然として差別や虐待を自ら報告する妨げになっていた。
差別:性的指向、性自認、ジェンダー表現または性的特徴に基づく差別を禁止する法律はない。LGBTQI+の個人、カップル、またはその家族を認め、反同性愛プロパガンダ、ヘイトスピーチ、法的登録の制限、プライドパレードなどのイベント開催の制限からLGBTQI+コミュニティーを保護する国内法はない。同性カップルによる同性婚の権利に関する訴訟がこの1年間に起こされた。6月20日、大阪地方裁判所は、憲法の婚姻の自由は男女間の結合関係のみを指すとし、同性婚を禁止する国の憲法を合憲とする判決を下した。11月30日、東京地方裁判所は、同性婚を禁止する現行法は合憲であるが、同性婚を認める法制度が存在しないことは「違憲状態」だとする判決を下した。
東京都など一部の自治体では、同性カップルに異性カップルが持つ権利の一部を付与する「同性パートナーシップ証明書」を発行している。
LGBTQI+の人々の権利を擁護する団体からは、差別、他の人たちによるLGBTQI+の人々に対するアウティング、いじめおよび嫌がらせの報告があった。
NGOは、6月の参議院議員選挙における自民党の井上義行候補の発言に、性的少数者に対する差別的な表現が含まれていたと報告した。NGOは、彼の発言が日本の少子化の原因を同性愛に転嫁しているように見えると指摘した。井上氏は選挙で議席を獲得した。
あるLGBTQI+の宗教指導者は、キリスト教団体のメンバーが礼拝所でLGBTQI+の人を取り囲み、性的指向を変えるよう祈った事例を報告した。情報提供者は、この事件は、LGBTQI+の会員が礼拝所を引き続き訪れるのを危惧させるような恐ろしい環境を助長するものだと説明した。
法的な性別認定:法律はトランスジェンダーの人々に対して、性自認を法的に認定するため、生殖機能を持たないことを義務付けており、事実上ほとんどの人に対して不妊手術を義務付けている。トランスジェンダーの人々はまた、精神鑑定を受け、国際疾病分類で認められていない疾病である「性同一性障害」の診断、未婚かつ20歳以上であること、20歳未満の子どもがいないことなどの追加条件も満たさなければならない。このような条件が満たされれば、家庭裁判所の承認を待って、性別が認定される可能性がある。
特にLGBTQI+の人々を対象とした、不本意もしくは強制的な医学的・心理学的行為:LGBTQI+コミュニティーのメンバーは、一部の精神科医が「転向療法」を宣伝していたほか、一部のグループが会話療法や宗教的儀式を行使し、LGBTQI+の人々に、性的指向、性自認、ジェンダー表現を変えるよう圧力をかけていると報告した。
6月、報告によると、与党の自民党議員数名を含む党派を超えた国会議員が出席した神道政治連盟の会議では、性的少数者の状態を「治療や宗教的信念によって変えることができる後天的な精神障害や依存症」、あるいは「転向療法」によって「治る」と説明する冊子が配布された。また、その冊子は、「性的少数者の性的ライフスタイルを合法化することは、家庭や社会を破壊する社会問題となるため行ってはならない」と宣言していた。7月、NGOのLGBT法連合会は、この冊子は差別的で人権を侵害し、非科学的な主張に基づいているとし、抗議声明を発表した。7月4日、LGBTQI+の支援者が東京の自民党本部前で「Stand for LGBTQ+ Life」と題した抗議活動を行った。
7月、宗教指導者のグループである「性の聖書的理解ネットワーク」が、LGBTQI+を「罪深い」と主張する提唱団体を設立した。この団体は、個人の性的指向はカウンセリングによって、特に若いうちは「矯正」可能であると主張するビデオなど、同団体の立場を支持する資料をオンラインで公開した。9月、キリスト教団体「NBUSを憂慮するキリスト者連絡会」が「転向療法」の正当化に反対するネットキャンペーンを開始し、11月時点で1万8000人を超える賛同署名を獲得した。
表現・結社・平和的集会に関する自由の制限:いわゆる反同性愛プロパガンダ法や「ヘイトスピーチ」法、LGBTQI+団体の合法的登録やプライドフェスティバルなどのイベント開催に関する制約など、LGBTQI+について発言を行う人々への制限はなかった。
障害者
障害者は、教育、医療サービス、公共の建物、交通機関などを、他の人々と平等には利用できなかった。法律は、雇用、教育、医療およびその他のサービスの提供に関して、公共部門には合理的配慮の提供を義務付け、民間部門には努力義務を規定しているが、違反した場合の罰則を設けていない。政府は5月、国や地方自治体、事業者に対し、アクセス可能な形態の情報・通信の利用を確保する最善の努力を義務づける新法を施行した。障害者のコミュニティーは、この新しい法律を歓迎した。障害のある子どもたちは全般的に、障害のない同級生と同じ学校に通っていたが、障害のある子どもたちのために指定された学級、または特別支援学校に通っていた。障害のある子どもたちの保護者のあるグループは、障害のある子どもたちを、障害のない同級生と一緒に通常の学校に通わせたいという保護者の希望にもかかわらず、教師は専用の学校に通わせることを勧める傾向があると報告した。
障害者は、家族、障害者福祉施設職員および雇用者からの虐待を経験し、その中には障害のある女性に対する性的虐待もあった。障害者の中には、町中で障害者に対する言葉による虐待が増えたと報告した者もいた。福岡地方検察庁は、10代の障害のある子どもたちを暴力で違法に監禁したとして、障害児支援施設理事長の坂上慎一と小学校教員の松原宏を起訴した。この事件は注目を集めた。報道によれば、容疑者は、行動障害を持つ子どもたちに「セラピー」を提供して保護者に「レスキューサービス」と称する料金を請求する一方で、あるケースでは、被害者の少年の手足を結束バンドで縛り、頭部を袋で覆って2日間施設に監禁した。
その他の社会的暴力または差別
HIV・エイズ感染者に対する差別を禁止する法律はない。拘束力のない厚生労働省のガイドラインには、事業者はHIV感染を理由に人を解雇あるいは不採用にしてはならないと明記されている。裁判所は、HIV感染が理由で解雇された個人に損害賠償請求を認めてきた。
HIV・エイズ感染者に対する差別についての懸念、この疾患に伴う不名誉、および解雇の恐れが、多くの人にHIV・エイズの感染を公表させなかった。
第7部 労働者の権利
A. 結社の自由と団体交渉権
法律は、民間部門の労働者が事前認可あるいは過度の要件なしに、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属する権利を規定し、ストライキおよび団体交渉を行う権利を保護している。団体交渉権は民間部門で一般的であった。
公共部門の職員および公共企業体の従業員には、法律により、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属する権利が制限されている。公共部門の職員は、公共部門職員の組合に参加することが許されており、こうした団体が公共部門の雇用者と賃金、労働時間、その他の雇用条件について一括して交渉することができる。国際労働機関(ILO)は、法律が一部の公務員の労働権をさらに制限する可能性があるとの懸念を引き続き表明した。公共部門の職員にはストライキをする権利がない。公共部門でストライキを扇動する労働組合の指導者は免職され、罰金または懲役に処せられる場合がある。
発電および送電、運輸および鉄道、通信、医療および公衆衛生、郵便などの必要不可欠なサービスを提供する部門の労働者は、ストライキを実施する日の10日前までに当局に通知しなければならない。必要不可欠なサービスの提供に関わる従業員には団体交渉権がない。
法律は組合に対する差別を禁止し、合法的な組合活動のために解雇された労働者の職場への復帰を規定している。
日本政府は結社の自由、団体交渉権、および合法的なストライキについて規定する法律を効果的に執行した。政府の取り締まりと罰則は、公民権の否定に関わる他の法律と同等であった。違反者には手続きに従って罰則が適用された。労働委員会は、雇用主が法律に違反しているという苦情を受けると、調査やヒアリングを行う。労働委員会は、特定された事実に基づいて救済命令を出す権限を有する。労働委員会が扱う係争中の案件は、2021年は計814件で、そのうち258件が終結した。終結案件のうち、和解は122件、取り下げは55件、救済命令(一部救済命令を含む)は46件、棄却は35件であった。
権利違反があった場合には、労働者または労働組合は労働委員会に異議を申し立てることができ、労働委員会は雇用者に措置を講じるよう義務付ける救済命令を発することができる。雇用者が措置を講じなければ、その後で原告はその問題について民事訴訟を起こすことができる。裁判所が救済命令を支持し、救済命令違反を認定した場合、罰金、禁固、またはその両方の罰則に処すことができる。
短期雇用契約の増加は、正規雇用を損ない、団体活動を妨げた。
B. 強制労働の禁止
法律によりあらゆる形態の強制労働は禁止されている。しかし、この法律では、何が強制労働にあたるのか明確に定義されていないため、このようなケースを追求する際は、検察官の裁量に委ねられる。
政府はおおむね法律を効果的に執行したが、一部の業種、特に外国人労働者が一般的に雇用されている業種では施行が不十分であった。強制労働に対する法律上の刑罰は、強制労働の形態、被害者、このような犯罪を訴追に適用した法律により異なった。NGOは、複数の重複する法令に依拠することが、特に心理的抑圧の側面がある強制労働に関わる人身売買の犯罪について、政府による特定と訴追を阻害していると主張した。
製造業、建設業および造船業において強制労働が引き続きあった。これは主に、技能実習制度(TITP)を通じて外国人を雇用している中小企業にみられた。TITPは、外国人労働者が日本に入国し、事実上の臨時労働者事業のような形で最長5年間の就業を認める制度であり、この分野の多くの専門家は人身取引およびその他の労働者虐待の温床になりやすいと評価した。
TITPで働く労働者は、政府が禁止しているにもかかわらず、移動の自由およびTITP関係者以外の人物との連絡の制限、賃金の未払い、長時間労働、母国の仲介業者に対する多額の借金、ならびに身分証明書の取り上げを経験した。外国人技能実習機構は、技能実習生の職場を立入検査するなど、TITPを監督する。同機構は、TITP労働者の大多数が母国語とする8言語での相談や検査を増やしたが、労働問題を扱うNGOは、同機構がこういった問題に十分に対応していないとの懸念を引き続き表明した。弁護士やNGOは、契約先での潜在的な労働搾取目的の人身売買やその他の虐待的な状況から逃れたTITP参加者を当局が逮捕し、強制送還し続けていると主張した。
9月13日、経済産業省は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を発表した。法的拘束力はないものの、国内の企業に対し、サプライチェーンにおける人権侵害の有無を確認し、発見された場合は改善・開示するよう促す初のガイドラインとなった。このガイドラインは企業に対し、人権を尊重することを約束する方針の作成、人権デューデリジェンスの実施、苦情処理の仕組みの確立を奨励している。
国務省の「人身取引報告書」 も参照。
C. 児童労働の禁止と雇用の最低年齢制限
法律は、最悪の形態の児童労働全てを禁止している。15歳から18歳未満の年少者は、重量物の取り扱いや、運転中の機械の掃除、検査または修繕など、危険な、あるいは有害と指定される仕事でなければ、いかなる仕事にも従事することができる。また年少者の深夜業は禁止されている。13歳から15歳までの児童は「軽易な労働」であれば従事でき、13歳未満の児童でも芸能界であれば働くことができる。
政府は適用法を効果的に施行し、児童労働に対する違反者には手続きに従って罰則が適用された。これらの罰則には、罰金と懲役があり、他の類似した重大犯罪に対する罰則と同等であった。
子どもは、商業的性的搾取の対象となった(「第6部 子ども」を参照)。
D. 雇用および職業に関する差別
法律は雇用および職業に関し、人種、出身国、肌の色、性別、民族、障害および年齢に基づいた差別を禁止しているが、雇用および職業に関し、宗教、性的指向または性自認、HIV感染またはエイズ発症、あるいは難民や無国籍状態に基づく差別を明確には禁止していない。政府は適用法を効果的に執行したが、違反行為に対する罰則は、公職選挙法など公民権に関わる同種の法律による罰則と同等であった。違反者に対して罰則が一様に適用されているかどうかの報告はなかった。
法律は、強制的な服装規定(ドレスコード)には対処していない。労働基準法は、性別による賃金差別を禁止している。同法は、女性の雇用にいくつかの制限を課している。例えば、女性が地下坑内での特定の作業や、非常に重いものを持ち上げる作業、ポリ塩化ビフェニルなど26種類の特定有害物質のいずれかを散布する作業を行うことを制限している。また、妊娠中の女性や過去1年以内に出産した女性には別の制限が適用される。
法律は、男女同一賃金を義務付けている。しかし、国際労働機関は、「同一労働同一賃金」という概念が取り入れられていないため、法律はあまりにも限定的であると評価した。7月に実施された2万5000社以上の企業を対象とした民間調査は、女性管理職の割合が過去最高の9.4%に上昇したことを示した。厚生労働省によると、女性の2021年の平均月給は、男性の約75%であった。政府は7月、301人以上の従業員を抱える大企業に対し、男女の賃金格差の開示を義務付けた。
男女雇用機会均等法には、全ての労働者の募集、採用、昇進、職種の変更に関して、たとえ差別する意図がなくても、差別的な効果のある(法律で「間接差別」と呼ばれる)方針や行為の禁止が含まれている。
女性は依然として、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントなど、職場での不平等な待遇について懸念を表明した。法律は、セクシュアルハラスメントを犯罪としないが、男女雇用機会均等法は、企業に防止措置を講じることを義務付け、事例が発生した場合は企業に報告を求めるほか、行政による助言、指導、勧告を提供する。
男女雇用機会均等法違反が疑われる場合、厚生労働省はその問題について雇用者に報告を求めることができ、また助言、指導、是正勧告を行うことができる。雇用者が報告を怠る、あるいは虚偽の報告をした場合は、罰金を科すことができる。雇用者が厚生労働省の勧告に従わない場合、企業名を一般に公表する場合もある。都道府県の労働局雇用均等室の政府ホットラインは、セクシュアルハラスメントに関する相談に対処し、可能な場合は紛争を調停した。
企業に対して職場でのパワーハラスメントとセクシュアルハラスメントの予防を義務付けた改正法の施行から1年が経過した2021年6月、20歳から59歳までの働く男女1000人(会社役員、起業家、自営業者を除く)を対象にした日本労働組合総連合会による調査結果では、進展は限定的であった。回答者の約3分の1が職場で何らかのハラスメントを経験したと報告した。ハラスメントを経験した人のうち約40%は、ハラスメントが起きた時、雇用者は何の措置も講じなかったと回答し、その内の43%は、助けにならないと考えて誰にも言わなかったと回答した。
2020年、厚生労働省は、大学や専門学校を卒業した男女1000人を対象に実施した就職活動中とインターンシップ期間中のセクシュアルハラスメントに関する2017〜2019年度の調査を公表した。全体として、回答者の25%がセクシュアルハラスメントを経験し、9%が性的関係を強要されたと報告した。ハラスメントを受けた後の行動を尋ねると、25%が何もしなかったと回答し、約8%が就職活動を止めたと回答した。
法律は、政府および民間企業に対し、障害者(精神障害者を含む)を法定雇用率以上雇用するよう義務付けている。国および地方公共団体の法定雇用率は2.6%、民間企業は2.3%である。法律により、従業員100人超の企業が障害者を法定雇用率以上雇用しなかった場合には、法定雇用数に足りない障害者1人当たりの少額の罰金を毎月支払わなければならない。障害者の権利擁護団体は、障害者を雇用するより義務付けられた罰金の支払いを選択する企業もあると主張した。政府機関による障害者の雇用が法定雇用率に満たない場合の罰則はない。人事院によると、障害に関係する偏見を理由に障害を申告しない人が多いため、障害者雇用率の記録は実質比率より大幅に低くなっている。
E. 許容される労働条件
賃金や労働時間に関する法律:都道府県ごとに異なるが、法律は全てのケースで公式な貧困線を上回る収入を提供するよう最低賃金を定めている。
法律により、ほとんどの産業で労働時間は週40時間と規定されており、例外もあるが、一定の期間に認められる時間外労働の時間数は制限されている。違反者は、罰金と懲役を含む同種の犯罪に対する罰則と同等の罰則を受ける可能性がある。
有期雇用の労働者、いわゆる「非正規雇用」の労働者は、同じ仕事をしている正規雇用の労働者に比べ、賃金や福利厚生、雇用の安定性の面で劣っていた。政府の労働力調査(2021年平均)によると、非正規労働者の68%が女性であった。法律は雇用者に、業務内容が同一で、予想される職務内容と配置の変更範囲が同一である場合は、正規および非正規雇用労働者を同等に処遇するよう義務付けている。
労働安全・衛生基準:厚生労働省は、ほとんどの業種の賃金、労働時間および労働安全・衛生基準に関する法律・規則の執行について責任を負う。国家公務員の労働安全衛生については人事院が所掌する。鉱業については経済産業省が、海運業については国土交通省が労働安全・衛生をそれぞれ所掌する。
日本政府は各産業に適した労働安全・衛生基準を定めている。労働者は、自らの雇用を危険にさらすことなく、健康や安全を脅かす状況から離れることができる。COVID-19の感染拡大を防ぐために政府は、感染拡大を防ぐ「5つのポイント」を包括的に説明したパンフレットや、実践例を盛り込んだチェックリストなどを配布して職場への指導を行った。また、各都道府県の労働局では、「職場におけるCOVID-19感染拡大防止対策相談窓口」を設置し、相談に応じるとともに、労働者からの質問に対応した。
TITPにおける労働安全・衛生基準および賃金違反の報告が引き続きみられた。これには、危険な装置や不十分な研修に起因するけが、賃金や残業手当の未払い、過度の、時として誤った賃金控除、強制送還、および標準以下の生活環境が含まれた(「第7部 B」を参照)。2021年、7167人のTITP参加者が職場から失踪し、その中には、搾取や虐待の状況から逃亡したと考えられる者や、身元不明の人身売買の被害者もいた。
2021年、14万9918件の深刻な労働災害が発生し、867人が死亡し、さらに4日以上の休業を必要とする労働者の負傷が発生した。労働災害による死亡の原因として最も多かったのは、墜落・転落、交通事故および重機によるけがであった。また厚生労働省は引き続き、過労死による被害者を正式に認定した。被害者の元雇用者と政府は、条件が合致した場合、家族に対して賠償金を支払った。
職場での事故やけがを防ぐ厚生労働省の取り組みには、機材の正しい扱い方と安全装具の使用に関する確認リスト・研修教材・リーフレット・動画のほか、事故を最小限に抑えるための整理整頓された職場の推進が含まれた。
賃金、労働時間、および労働安全・衛生の執行:政府は最低賃金、時間外労働、労働安全・衛生の各法律を効果的に執行した。違反した場合の罰則は、同種の犯罪に対する罰則と同等で、手続きに従って違反者に適用された。労働基準監督官は、重大な違反の場合には、安全でない操業を直ちに停止させる権限を有するが、重大でない場合は、拘束力のない指導を与えることができる。労働基準監督官はまた、抜き打ち検査を行い、制裁措置を講じる権限を持つ。政府の職員は、430万カ所以上の事業所を監督するには資源が不十分であったことと、順守させるには労働基準監督官の数が十分ではなかったことを認めた。
厚生労働省は、2021年度(2021年4月~2022年3月)に、過剰な残業が行われていると疑うに足る理由があった事業所に対して、3万2025件の立入検査を実施した。全体の34.3%に当たる1万986カ所の事業所で違反が見つかった。厚生労働省は、違反者に対して是正・改善に向けた指導を行った。
労働組合は、政府が最長労働時間に関する法律の施行を怠っていると引き続き批判した。公務員を含む労働者は、法律で定められた労働時間を日常的に超えて勤務した。
https://jp.usembassy.gov/ja/human-rights-report-2022-japan-ja/