カドブン2023年04月24日

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近年、考古学による新たな発掘で木簡などの出土文字史料や、考古学的遺物に基づく宮都や地域研究が目覚ましく発展しました。新聞を飾る考古学上の新発見も相つぎ、研究者はいうまでもなく、歴史愛好家の関心を集めています。
本シリーズでは、古代史・考古学研究の最前線をリードし続けている執筆陣が、最新の研究成果を反映させながら、一般の読者に地域の歴史をわかりやすく解き明かします。
シリーズ完結を記念して、編者の松木武彦先生に「美が呼びおこす地方像」を寄稿していただきました。本日、特別公開いたします。
美が呼びおこす地方像
角川選書のシリーズ「地域の古代日本」が完結した。同シリーズの先代に当たる「新版 古代の日本」から約30年ぶり。判も小さくカバーもソフトでハンディになったが、代わりに凝りが盛り込まれたのは、帯の色とイメージ(各巻=各地方を代表する考古遺産)だ。
紫+金印(『東アジアと日本』)、紅+漆塗縄文土器(『陸奥と渡島』)、アースカラー+武人埴輪(『東国と信越』)、若草+耳飾(『筑紫と南島』)、金+勾玉(『出雲・吉備・伊予』)、青+青銅鏡(『畿内と近国』)と、ちょっとひねった選択がなされている。誰かがはっきりとした言葉で指定したわけでもなく、3人の編者と編集部が一巻一巻を作っていくなかで、何となく自然に絞り込まれた色とイメージといってもよい。
たとえば『東国と信越』のアースカラーと武人埴輪は、豊かな実りを生み出した広大な大地とそこに現れた東国首長という、近年の研究成果にも根ざしたこの地方のイメージを映し出している。また、『出雲・吉備・伊予』の金は、出雲の青銅器などに代表される金属を連想させる。それを背景に置かれた緑と赤の勾玉とともに、金属器・石器・玉類といったハードウェアの生産が歴史を織りなすこの地方の色とイメージだ。『筑紫と南島』は、春の柔らかな若草を背景に揺れる金の耳飾が、対外交流の玄関となったこの地方のハイカラな雰囲気を演出している。
私たちホモ・サピエンスには、気むずかしげな歴史学者といえども、「歴史」のような本来は無機的でとっつきにくい情報の塊を、色やイメージのような目を楽しませて心をひきつける魅力、すなわち「美」にかこつけて吸収しようとする本能がある。個々の地方と色とイメージの組み合わせを、読者のみなさんとどこまで共有できるかはもとより確信もしていないし、目ざすところでもないけれど、本シリーズを手に取るときのひそかな味わいの一つにしていただければいいな、と思う。
編者プロフィール
吉村武彦(よしむら・たけひこ)
1945年生。明治大学名誉教授。日本古代史。『日本古代の社会と国家』(岩波書店)、『日本古代の政事と社会』(塙書房)、『大化改新を考える』(岩波新書)、『新版 古代天皇の誕生』(角川ソフィア文庫)など。
川尻秋生(かわじり・あきお)
1961年生。早稲田大学文学学術院教授。日本古代史。『古代東国史の基礎的研究』(塙書房)、『日本古代の格と資財帳』(吉川弘文館)、『平安京遷都』(岩波新書)、『坂東の成立』(吉川弘文館)など。
松木武彦(まつぎ・たけひこ)
1961年生。国立歴史民俗博物館教授・総合研究大学院大学教授。日本考古学。『古墳とはなにか―認知考古学からみる古代』(角川ソフィア文庫、近刊)、『人はなぜ戦うのか―考古学からみた戦争』(中公文庫)、『全集 日本の歴史 第1巻 列島創世記』(小学館)、『美の考古学』(新潮選書)など。
最新刊
書名: 畿内と近国
定価: 2,530円(本体2,300円+税)
発売日:2023年1月25日(水)
ISBN:9784047036970
https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000006/
https://www.amazon.co.jp/dp/4047036978
好評既刊
現在の文化・宗教事情にも影響する日本史の「青春時代」の足跡をたどる。
書名: 東アジアと日本
定価: 2,420円(本体2,200円+税)
ISBN:9784047036963
https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000005/
https://www.amazon.co.jp/dp/404703696X
蝦夷の墳墓はどんな形か。古代のアイヌ文化とは? 豊かな蝦夷の世界を、多方面から解明する。
書名: 陸奥と渡島
定価: 2,530円(本体2,300円+税)
ISBN:9784047036949
https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000003/
https://www.amazon.co.jp/dp/4047036943
ヤマト王権にとって異国に匹敵する重要地域。斬新な切り口で古代東国地域の実像に迫る。
書名: 東国と信越
定価: 2,530円(本体2,300円+税)
ISBN:9784047036956
https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000004/
https://www.amazon.co.jp/dp/4047036951
大陸への窓口・九州と近畿とをつなぐ、人や文物、情報が往来する回廊の姿を浮き彫りにする。
書名: 出雲・吉備・伊予
定価:2,530円(本体2,300円+税)
ISBN:9784047036987
https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000007/
https://www.amazon.co.jp/dp/4047036986
海外の文物がもたらされる最初の場所で日本列島の先進地域。豊かな地域の全貌を明らかにする。
書名: 筑紫と南島
定価: 2,420円(本体2,200円+税)
ISBN: 9784047036994
https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000008/
https://www.amazon.co.jp/dp/4047036994
https://kadobun.jp/news/eygimahu3kg8.html