20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『ひあたり山とひつじのヒロシ』(高田桂子著 国土社刊)

2009年08月09日 | Weblog
 親しい作家、高田桂子さんの新刊です。
 ご存知のように高田桂子さんは、『ざわめきやまない』(理論社刊)で山本有三路傍の石文学賞を受賞するなど、ヤングアダルト文学の先駆者です。
 新刊『ひあたり山とひつじのヒロシ』は、久々ぶりの中学年向けの作品。
 勉強のあまりできない主人公の「ぼく」はテストのとき、不安なとき、ガムをつつんであった銀紙をまるめたボールをぎゅっと握りしめると心が落ち着きます。
 けれどそのことから、カンニングの疑いをかけられ・・・。
 仲よしのぼく(りょう太)とヒロシ、冴子、三人の関係を縦軸に、再開発でなくなろうとしている「ひあたり山」、おじいちゃんの遠距離介護に通っている母さんのこと、毎日帰りの遅い父さんのこと。父さんに連れていってもらった牧場で見たひつじのことなどが、「ぼく」の視点から繊細に語られていきます。

 圧巻は胸のなかにどろどろと檻のようなものが溜まってしまった「ぼく」がとうとう爆発するシーン。
 
 食器棚のひきだしをあけた。一万円札が目にとびこんだ。
「もういやだっ」
 涙がころがりおちた。とまらなかった。
 一万円札をふたつにやぶった。四つにさいた。八つにさいた。こまかくちぎった。ちぎれるだけ、ちぎった。
(中略)
「いやだあ。なんで一万円だよ。そんなの持って、コンビニ、行くの、こわいだろ。大きいにいさんとか、店の前にすわりこんでいるだろ。千円とか、百円とか、なんでおいてかないんだよ。どうしてわかんないんだよ」 
 ぼくはとうさんをげんこつでたたきつづけた。
 げんこをかわしながら、床の紙ふぶきを見ていたとうさんは、かた手で、それをすくった。はっと体をこわばらせ、しゃがれ声でいった。
「わるかった」
 気がついたら、ぼくはとうさんのうでの中にいた。骨がぼきぼき鳴った。

 その夜。ふたりは紙吹雪になった一万円札の修復作業をすることになります。
 こういった、息を飲むようなシリアスなシーンやファンタジーを思わせる広がり。そしてラスト、冴子のお茶目な仲直り法。
 緩急をつけながら、胸のどこかを暖かくさせて物語は閉じます。
 さすが、ベテランの技。
 皆さま、どうぞお読みになってください。
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