友人の作家、石井睦美さんと、『月島物語』で斉藤緑雨賞を受賞された、作家の四方田犬彦さんの往復書簡です。
この往復書簡は、今年の2月から7月にかけて雑誌『新潮』に連載されたものを一冊にまとめたものです。
昨年の暮れに石井睦美さんにお目にかかったときに、彼女が「本を4~5冊書くくらいのエネルギーがいった。とってもたいへんな作業だった」とおっしゃっていたことを思い出します。
四方田さんと睦美さんは、かつては作家と編集者の関係でした。
睦美さんは,雑誌『ユリイカ』の編集者をなさっていたのです。
それが23年の歳月を経て、再会します。
それからしばらくして、この往復書簡がはじまります。
おふたりは、あるときは併走するように、またあるときは四つに組んで、書簡を交換しあっています。
それぞれの生きてきた人生を顧みながら。
おふたりの、人生への思いにぐいぐい惹きつけられながら、一気に読んでしまいました。
四方田さんのご両親の離婚。睦美さんの夫との別離。
そういったことを、ことばを選び、注意深く、そして誠実に、人生の深さを文学的におふたりが語っていきます。
そのまっすぐな思いに、読み手は突き動かされていきます。
中でも石井睦美さんと作家・中村真一郎との出会いは、以前彼女からうかがったことがありますが、とても印象的です。
この本を読んでいると、弟子でも、恋人でもない人との関係が、このように濃密に、そして作家・石井睦美が生まれる礎になっていく。そのプロセスはうらやましい限りです。
中村真一郎の深い愛を感じながら、そういった関係を築きあげた睦美さん。
それはとりもなおさず、彼女の魅力的な人間性がそうさせているものです。
特筆すべきは、上質な織物のような手触りを感じさせてくれる、おふたりの文章です。
ここには、自分の人生をも振り返らせてくれる、筆の力があります。
読後、しばし、放心にふけりました。
皆さん、ぜひ、お読みになってください。