20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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新刊3冊ご紹介

2011年10月20日 | Weblog
「季節風」同人の方々の、新刊ご紹介です。
         
           

「季節風」の同人で、児童文学者協会の児童文学学校の終了生で「ひぃふぅみ」の同人だった、岸史子さんが作家デビューされました。
 岸さんは、学校を終了し、そのお仲間たちと作った同人「ひぃふぅみ」で活躍されていた頃から存じ上げております。
 岸さん、おめでとうございます!
 ご出版のお話は、岩崎書店のTさんから伺っておりましたが、ほんとうにうれしいです。
「季節風」や「ひぃふぅみ」の方々が中心になって,12月にはお祝いの会も開かれるそうです。

『緑のトンネルをぬけて』(岸史子・岩崎書店)
 ひっこみじあんで、気持ちを内に閉じ込めてしまう主人公の「まゆ」
 素直に自分の感情を表し、楽しいことを見つけ出す弟の「てつ」
 その姉弟を中心に、林間学校での班のなかまたちの人間模様が描かれています。
 友だちとの関係、姉弟の関係。そういった関係のひとつひとつが、丁寧に描かれ、そしてゆったりと物語は流れていきます。
 おっとりとして内向的な「まゆ」が、「てつ」や神社のおばあちゃんとの交流のなかで、不登校の「山口くん」に自ら行動を起こしていこうという気持ちになります。
 そういった「まゆ」の気持ちが、無理なく素直に描かれています。
 神社のおばあちゃんの生き方にも惹かれますが、最後の「本田さん」と「まゆ」との会話はとてもいいです。
 ちょっと難しさを感じていた関係が、ゆるやかにつながっていく瞬間です。
 そういった細やかな関係性の中から、人と人とを描いていく。
 このゆったり感と、心地よさは、とても貴重です。

                    
『学校にはナイショ♂逆転美少女花緒』(吉田純子・ポプラカラフル文庫)
 デビュー作『オオドロボウ五十五えもん』に通じる、ユーモアのたっぷり効いたストーリーです。
 とにかく、キャラクターがおもしろい。
 ギャグマンガを読んでいるような爽快感があります。
 このギャグ。
 吉田さんという人は実に努力家で勉強家と、お見受けしました。
 もちろん、おもしろさを生み出すためには天賦の才能も必要かも知れません。
 それどそのおもしろさのアイディアを生み出すためには、アイディアへの「きっかけ」や「手立て」の探求、そしてそれを支えるしなやかな発想がなにより大切です。 
 その力を,日々鍛えていらっしゃることが想像できます。
 一朝一夕に、こんなギャグが生まれるはずがありません。
 学園ラブ・コメシリーズに仕上がっていますが、こういったラブ・コメにはかなりの技が必要です。
 ただ誠実に、凡庸に描いていても、ぜったいに生まれてきません。
 その階段を見事にクリアしている吉田さんの、作家魂に脱帽です。
 とにかく、よく仕掛けられている物語です。
 このシリーズ、なにやらヒットの予感がします。

           
『メン!ふたりの剣』(開隆人・そうえん社)
 開隆人さんのデビュー作『メン!』シリーズの、完結編です。
 部員は主人公のミクだけだった小学校の剣道部。第一巻の印象的なシーンは、防具をじゃぶじゃぶ洗ってしまうところでした。
 今回の完結編でも、汚い部室をお掃除するシーンが出て来ます。
 お掃除して見つけたのは、ミクのお父さんが子どもだったころ、たどたどしいひらがなで書いた「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす」の文章でした。
 その言葉に励まされるように、ミクと部員であり一年後輩のケンヤは練習を積んでいきます。
 ぐいぐい読まされるのは、剣道の試合のシーン。
 部の監督が作ってくれた「交剣知愛」と書かれた横断幕。それに込められた思いを受け止めながら、ミクとケンヤ、ふたりはそれぞれの試合に挑みます。
 
 剣道のうつくしさや、汗の飛び散りそうな、迫力ある試合のシーンは圧巻です。
 開さんが渾身の力をこめ、ぎしぎしと書いています。
 そんな物語の根底を流れているのは、「交剣知愛」の精神。
 ミクと幼なじみで、韓国から再び帰ってきて韓国剣道の着装をしているユリンとの関係。
 ケンヤとキョウスケの関係。
 そういった胸をゆさぶる関係が、熱く描かれています。

 どうぞ,皆さん、この3冊お読みになってください。
コメント (4)
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