「川柳の時間です」の3回目にしてはやくも「迷宮入り」です。宮殿内をさまよっていると耳元に聴こえてくるものがあります、それがバレンタインのささやきなのです。「こちらにいらっしゃい」と……、どこへ向かうのか? 今日の川柳ばなし。
ショーケースの中の宝石たち。艶やかにどれもとってもおいしそうだ。ここは某大手百貨店のバレンタインチョコ特設会場。友人に誘われ、所用ついでにのぞいてみた。全国屈指の巨大会場には世界のチョコが集結。平日の昼前とは思えないにぎわいと熱気だ。自称チョコマニアの彼女はがぜん、瞳キラキラと甘い迷宮に分け入ってい「だってパリのOZAの限定品が出てるのよ」
え? と一回では聞き取れないブランド名をすらすら口にして、さらにずんずん奥へ奥へ。チョコは自分へのご褒美用で、夫への「義理チョコ」選びは後回しらしい。 ナハハと笑っているうちに、おっとはぐれてしまった。目の前には生チョコの試食。つまんでみるなり「!」。そのとろけように即ひと箱ゲットして、さてこれは誰用にしようかしらん。
〈 八合目あたりの恋がおもしろい 木本朱夏 〉
〈 八合目あたりの恋がおもしろい 木本朱夏 〉
それにつけてもバレンタインデー。そもそもの由来はさておき、日本で独自の変容を続ける恋の風習。しかしもし、ときめきに添えるのがチョコじゃなくて、たとえばキャンディやクッキーだったら、これほどまでに浸透しただろうか。媚薬ともいわれるチョコだからこそ見事にハマったのかも。
ところで詩歌の世界に目を向けると、実は川柳もまたチョコと同じくらい恋と相性がいいのであります。まずは爽やかな一句から。
〈 休日を問われて動き出すボート 平野ふさ子 〉
まだ恋未満の二人かな。さりげなく「次の休日はいつ?」なんて聞かれて、いきなり心臓がドキン。
〈 休日を問われて動き出すボート 平野ふさ子 〉
まだ恋未満の二人かな。さりげなく「次の休日はいつ?」なんて聞かれて、いきなり心臓がドキン。
〈 信仰に似てくる彼のアドバイス 小原由佳 〉
こちらはスリリンクな恋の過程。でも信仰がいつしーか盲信になっていったら。
こちらはスリリンクな恋の過程。でも信仰がいつしーか盲信になっていったら。
片や男性もドラマチックに恋を詠む、詠む。
〈 引金をひく一瞬が 恋にあり 橘高薫風〉
〈 水牛の余波かきわけて逢いにゆく 小池正博〉
一句目。「一瞬」の後にはすべてを得るのか失うのか。
二句目。水牛の群れが大移動する余波をかき分けて、たった一人がたった一人に逢いにゆく。わが想像に壮大な8K映像が広がる。
〈 引金をひく一瞬が 恋にあり 橘高薫風〉
〈 水牛の余波かきわけて逢いにゆく 小池正博〉
一句目。「一瞬」の後にはすべてを得るのか失うのか。
二句目。水牛の群れが大移動する余波をかき分けて、たった一人がたった一人に逢いにゆく。わが想像に壮大な8K映像が広がる。
と素敵な川柳は、あなたの胸の中にも、さまざまな物語を展開してくれるはず。ドキドキと恋を詠み、恋を読む。きっと川柳にも媚薬効果があります。
〈 恋人はカカオの90パーセン 博子 〉
(2月5日の「しんぶん赤旗」の「水曜エッセー」でした)
〈 恋人はカカオの90パーセン 博子 〉
(2月5日の「しんぶん赤旗」の「水曜エッセー」でした)