kaeruのつぶやき

日々のつぶやきにお付き合い下さい

いつでも心は元日にー初心を忘れない。

2020-02-14 22:02:00 | kaeruの五七五

【すみません、このエッセーは1月29日付の「しんぶん赤旗」からです。

 お正月は一ヶ月以上前、旧暦の元日でも1月の25日だったし、立春だってとっくに過ぎたし、どう転んでもーお正月ーにはならないところ、川柳精神で気持ちを切り替えて……。】

あれよあれよと一月も終わりだ。が、部屋には要整理の書類箱が越年して、いまだに積み上がったままである。まったく元旦早々、声高らかに「片付け元年」を宣言したのはどこのどなたですかいのー。なんて吐息をついたら、一緒にこんな句がぽろりと出た。
  〈 あしたからがんばりますよあしたから  新家完司

 いやいや、今でしょう。
 と、愛誦句の誘惑を振り払い、まずは残っていたお餅を食べきることから「新年」を片付ける。

 次は年賀状に着手。
 お年玉ハガキの当選番号を確認しながら、懐かしい人の文字をもう一度懐かしがったりする恒例のひとときだ。
 SNSでつながる知人友人との賀状交換は、お互い「もういいよね」と年々減りつつある。けれどやっぱり肉筆はあったかいな。
 写真付きも楽しい。
 かつての家族写真に代わって、近年は本人が主役のもの、それも登山の写真が増えた。
 「山の空気に心身洗われています」「今年は〇〇山、単独登頂目指します」など、山ガール山ボーイたちの一筆も清々しく勇ましい。登山ブームが周囲でも定着した感じ。きっと山には「新しい自分」を目覚めさせる何かがあるのだろう。
 なかにはご夫妻のツーショットもある。
 ご夫君は大学の先輩で、学生時代はモテモテのクールガイ。が、いまや山頂の青空バックに二人でにっこり、とはすっかり焼きがまわったというか微笑ましいというか。といいつつ、この先輩にこそっと憧れていた時期もあったっけ。
あの頃の恋に恋ではかなわない  佐田眞喜

 一方、今年は子年であるからしてイラストは実に多彩なネズミのオンパレードだ。もちろんミッキーマウスもハッピーにご登場。
 と、ふと。実物のネズミを最後に見たのはいつかなと思った。幼い頃は家の天井裏をよくネズミが駆けっこしていたけれど。
 そうそう、田舎の母の実家で、生まれたてのネズミの赤ん坊たちに遭遇したこともあった。 ピンクのつやつやがひしめく様子に総毛立ちながら釘付けになって。 なのでネズミは多産、というのは強烈な原体験の一つでもある。
 げに、子年は繁栄の年ときく。今年がみなさまにとて素晴らしい……ってだから来週は早立春で、いやはやどうなる片付け元年。
打ち明ける優しい方のミッキーに   博子


川柳の時間です。

2020-02-14 01:03:35 | kaeruの五七五
川柳の時間です ①
 芳賀博子/川柳作家 はが・ひろこ 1961年神戸市生まれ。
 時実新子に師事。句集『移動遊園地』『髷を切る』

 川柳で人生が三倍面白くなる。これホントの話。少なくとも実例がここにいる。はい、ワタクシです。いやしかし、なんでまた川柳なのか。と振り返るたび、あの一瞬にワープする。

 当時、三十路に突入のコピーライター。勤務中、サーボり半分で資料探しに出向いた図書館。たまたま手に、取った雑誌をぱらぱらめくっていたら、不意にキリギリスが飛び出してきた。
  〈 行末を激しく問いぬキリギリス 〉

 ひゃっ。ページの一句から3Dで現れたキリギリスは、まるで待ち構えていたかのように私を直視した。公私ともにいろんな葛藤に悶々の日々。だが生来、しんどいことへの耐性がない。 スキあらば逃げ出そう、投げ出そうとしていた胸のうちを、小さな一匹に看破された気がした。放ったのは時実新子。
  〈 妻をころしてゆらりゆらりと訪ね来よ 〉

 恋や情念を大胆に詠んだ作品で「川柳界の与謝野晶子」と称され、句集『有夫恋』が異例のベストセラーになった人気作家。としてなんとなく知っていたに過ぎなかった「時実新子」や 「川柳」なる文芸と、初め️てガツンと出会った。
  〈 ぞんぶんに人を泣かして粥うまし 〉
  〈 流れつつ美しい日がまれにある 〉

 たった十七音の奥に、なんと豊かで底知れない世界が広がっているんだろう。
 さらにガツンは続く。阪神・淡路大震災。その日、 神戸の自宅マンションで被災した私は、幸い怪我もなく家も無事であった。けれど当然のことながら人生観は一変。同じく神戸在住であった時実新子はその瞬間をこう詠んだ。
  〈 平成七年一月十七日裂ける 〉

 ほどなく氏が、翌年新しい川柳誌『川柳大学』を創刊すると知り、決めた。川柳をやろう。この先生に学びたい。さても師の標榜するは、一貫して「わたくし発」。すなわち一人一人が自分を詠む。「あなたの本音を吐きなさい。他人をおちょくってるヒマはないわよ」。ことごとくガツン、ガツン。しかし良識常識、何ものからも解放されて自由に心を詠むカタルシスといったら。️
 以来四半世紀。師はすでに世を去り、この三月で没後十三年になる。そして、あ、明日はお誕生日*だ。健在ならば九十一歳。雲の上に、新鮮な神戸の風を届けられたら。(*1月23日)
  〈 迷ったら海の匂いのする方へ   博子 〉

    「しんぶん赤旗」1月22日「水曜エッセー」