(朝日 10月14日)
女性議員 政治の常識問う
ハラスメント訴え 24時間戦わない
「出産直前に街頭宣伝やビラ配りを割り振られた」。女性議員が3割を超えた立憲民主党神奈川県連でマタニティーハラスメントやパワーハラスメントに遭ったとの訴えが相次いでいる。政治の世界でも少しずつ女性が増え、これまでの「常識」が問い直される場面も出てきた。識者は子育て中の女性への配慮や、組織上部への研修が必要だと指摘する。
横浜市の大野知意(ともい)氏は9月7日に記者会見を開き、同党衆院議員らからマタハラを受けたと訴えた。大野氏によると、昨年8月下旬に第1子を出産予定で、7月半ばから活動を休むと総支部長の衆院議員に伝えていた。だが、 横浜市長選や衆院選を控え、「1日200枚のピラまき」や「1日計3時間の街頭宣伝」が割り振られたという。その後、県連の総支部から「党員としての活動量が足りない」と指摘され、来春の市議選の第1次公認を見送られた。こうした決定は不当だと訴えている。
総支部長の衆院議員は「議事録を確認したが『活動量が足りない』と指摘した者はいなかった」と反論している。
逗子市議の加藤秀子氏は9月10日に記者会見し、昨年11月の党代表選で
幹部の男性県議から「パワハラを受けた」と訴えた。加藤氏によると、県議から自ら推す候補を応援するように依頼され、断ると「(市議選の)公認とれなくても知らないぞ」と言われたという。
この男性県議は今夏の参院選で神奈川選挙区に立候補した水野素子氏を応援する女性国会議員らを名指し、「共通するのはポンコツばかり」 「女性だとかジェンダーだとか、ほざいている連中」などと県連所属議員の多くが加わるLINEグループに投稿していたという。男性県議は取材に「「会見を見たわけではないのでコメントできない」と話した。
一連の訴えは、党本部ハラスメント対策委員会や県連で調査するという。
女性議員を増やすことをめざす「候補者男女均等法」が4年前に施行され、県連は積極的に女性候補を擁立してきた。所属する105人中36人(34%)が女性議員だ。県連所属の衆院議員からは「男性議員の意識が、変化に追いついていない」との声も漏れる。
女性議員のサポート団体「Stand by Women」の浜田真里代表は、立憲神奈川県連だけの問題ではない、とみる。全国の女性議員からヒアリングをすると、被害を訴えること自体を否定された事例もあり、「『昭和の話かな』と思うようなハラスメントが横行している」と話す。
2020年に内閣府が実施した地方議員へのアンケートでは、ハラスメントを受けたと答えた議員は42% 女性58% 男性33% だった。浜田さんは男性が多くを占める議会や党の「トップ層」への研修も必要だと訴える。
とりわけ課題だと考えるのは、子育てをしている女性の政治活動だという。
「子育て中は政治との点も多いのに、出馬自体が難しい面もある。24時間
活動しなくても当選できるという事例を増やしていくことが重要だ」
今夏の参院選では、愛知選挙区で、2児を育てる国民民主党の伊藤孝恵さん(47)が2度目の当選を果たした。
最初の選挙は2016年。当時長女は3歳、次女は1歳だった。選挙カーで授乳をしながら、深夜まで街頭にも立った。だが今回は、選挙期間中でも午後8時以降は「ママに戻る」ことを貫いた。「24時間戦えないから、あなたと同じだから代弁者になれる」と訴えた。
厳しい選挙情勢が伝えられ、同僚議員からは「もっと街頭に立て」と言われた。それでも「『こういう勝ち方があります』と未来のママに贈る選挙をやる」とスタイルを崩さなかった。
伊藤さんは1期目から「永田町の常識」に直面してきた。議員会館の事務所にキッズスペースを作り、子どもを遊ばせていると「うるさい」と怒鳴り込まれた。会合に子どもを連れ行くと「子どもがかわいそう」と言われた。
最近は子どもと一緒に会合に参加しやすくなり、 キッズスペースに他党の家族が遊びに来ることもある。
ルールを変えるにはどうすればいいのか。伊藤さんは「共感でしか仲間は増えない。 わずかな共通点から共感を得て、じわじわ変えていくしかない」と考えている。(足立優心、小林直子)