高見山には何度も登っているが主に雪のシーズンが多く、夏に登ることはまず珍しい。 昨日から暦の上では秋だが今日も暑くなりそうな予感の朝、まだ車の少ない166号線を東に走る。
杉谷登山口の禅寺・正福寺前に車を置かせて貰って、少し下った民家脇の石段を登って山に入る。(07:27)
「山神」の祠から杉の植林の中を登っていくと「旧伊勢南街道(紀州街道)」の説明版がある。それによると『紀州、大和、伊勢を結ぶ塩の道、米の道、魚の道の交易路であり、かっては伊勢参宮の道であり、また紀州徳川家が江戸参勤交代にこの街道を利用した。特に夏は大峰山、年末には年越え参りで賑わった』道である。
ところどころ美しい石畳が敷かれ往時の賑わいが偲ばれる。「撞木松」の説明板のある松の古木を過ぎると尾根に出る。林を抜けて草原になり朝露に濡れたススキを分けるように登る。たちまち全身から汗が噴き出した。
抉れた道を登ると再び石畳道になり、獣除けの金網の横を通る。「古市」の標識には、紀州、大和、伊勢の人が集まって市が立った、という説明があった。今では信じられないような山道の途中である。「雲母曲(きららひじ)」という地名のところで「100m先天狗岩」の標識がある。ザックを下ろして見に行くが、谷に下るようなので諦めて先を急ぐ。
植林の中の道を抜けると未舗装の林道が通る小峠にでた。「高見山登山口」の石標の横に、熊出没注意の標識が立っている。後ろの標示板に高見山の歌二首が記されていた。『吾妹子をいざ見の山を高みかも 大和の見えぬ国遠みかも 万葉集 石上大臣(石上麻呂)』『きくかことまこと高見の山ならは わか里見せよ雲居なりとも 「紀伊の恵み」より 本居宣長』
ここまでちょうど1時間。涼しい風の吹き抜ける峠でゆっくり休み、水分補給をしてバナナも食べる。(08:27~08:45)
頂上へ登るコースの選択に迷うところだが、大峠からの暑さを予想して平野分岐へ登ることにした。高角神社の鳥居をくぐると、急勾配をジグザグに登る厳しい道が続くが、休憩が効いたのか非常に快適に登れた。みるみる林道が下になる胸のすくような登りで、最後は鎖のある岩の間を抜けて稜線に出る。
ここは、もう一つの登山口・平野からくる道との合流点で、やや荒れた感じの植林帯の中である。(09:05~09:10)
少し休んで、稜線を登っていくと大きな露岩が次々に出てくる。林の中はときどき風が吹き抜けて、高度が上がったせいもあって少し暑さは和らいだが、アブ、ブヨなどの羽虫がまとわりついて、ウチワで追い払いながら歩く。それでもちょっと油断するとチクリとやられる。
神武天皇が国見をしたという国見岩に登ってみたが、周囲の樹木が生い茂り名前どおりではなかった。リョウブの花がすぐ鼻先まで迫り、岩の上は落ちた花弁で白くなっていた。
揺岩の横を通る。
「多武峰 大職冠 藤原鎌足公」 と三度唱えると揺るぎだしたという岩である。
笛吹岩
正面に国見山、その右に遠く薊岳が見える。
『高見山の開祖聖人がこの岩頭に登り笛を吹くと、両谷から雌雄の大蛇が駆け上がり、笛の音を陶然として聞き入ったといわれている。また笛の音が山すそまで聞こえると、次の日は必ず雨になったと伝わる』
後段はともかく、雌雄の大蛇の話はホンマかいな…。
緩やかな登り道が急坂に変わり、登りきると左側が開けた山頂部にでた。日が陰ると吹き上げる風が心地よいが、太陽が雲から顔を出すとたまらない暑さだ。避難小屋の前で捕虫網を持った青年に出会う。今日始めた会った登山者だ。
1248.9m三角点と高角神社が鎮座する山頂。(10:20~10:30)
日陰がないのはともかく、羽虫の多さに閉口する。とても食事のできる環境ではない。
展望台に登って北の曽爾・宇陀の山々、南に大峰・大台の山波と360度の展望を慌ただしく眺めて、10分足らずの頂上滞在で山頂を後にする。
虫に追われるようにブナやイタヤメイゲツなどの林の中を下る。ここもリョウブの花盛り。ベンチのある草地の上部で、大峠に車を置いて登ってきた若いペアに出会う。彼らも虫の多さに驚いたそうだ。
5
大峠に降り立ち、四阿の陰で簡単なランチタイム。(11:25~11:45)
見上げる山頂への道は予想通り、日影が少なそうだ。前に来たときは秋で、雲ヶ瀬山へも行ったことを思い出す。(あとで記録をみるともう7年前の04年だった。)
南伊勢街道は駐車場の上を通っていて、階段を登り返すのが面倒なので、車道を歩いて小峠へ下る。途中で水が流れているところがあり、冷たい水で顔を洗った(♀ペンはこんな真似できず可哀相)。
小峠は朝よりも風があり、腰を下ろすと歩くのが嫌になるほどの心地よさだった。(12:05~12:20)
虫さえいなければ本当に天国なんだが…。山慣れた格好の登山者が下りてきて、朝、私たちが休んだ鳥居下で腰を下ろした。今日会った4人目でこの人で全て。ようやく腰を上げて歩き出すと「お先に…」とスタスタと下って行った。
小峠からは朝の同じ道を下る。暑い盛りで、バテるほどでもないが少し疲れたので、ゆっくり歩く。♀ペンは非常に疲れも見せず快調。集落の屋根や車道を見下ろす山神の祠に無事下山のお礼を言って、前のベンチで最後の水分補給をして今日の山行を終わる。(13:15)
全コースを通じて、暑さと羽虫の多さに悩まされた。この山には、やはり冬の雪や樹氷がふさわしい。しかし、負け惜しみではなく富士山へ向けて、いいトレーニングができたと思う。