ペンギン夫婦の山と旅

住み慣れた大和「氷」山の日常から、時には海外まで飛び出すペンギン夫婦の山と旅の日記です

富士を読む

2014-12-16 11:44:43 | 読書日記

  

例年秋に登る富士山に今年は行けませんでした。淋しい思いを埋めるように、9月以降に何冊か富士に関する本を読みました。

竹谷靱負「日本人はなぜ富士山が好きか」祥伝社新書
帯の背に「日本文化史」とあるように、古くから多くの歌、随筆、絵画に描かれてきた富士山が「日本人の心の山」となっていく過程を、多くの図版入りで分かり易く解説しています。富士山の頂上はなぜ三つのギザギザに描かれるのか、北斎が描いた蝦夷から見た富士(狼がいる)など興味深い話が多いのですが、最後に満開の桜を前景に無残な富士の姿を精密に描いた福田美蘭の「噴火後の富士」の絵はショックでした。いつかは来るこの現実をどう受け止めるか…この本を読んだ直後に起こった御嶽山の噴火が何かを暗示するようです。

 
竹谷靱負「富士山文化ーその信仰遺跡を歩く」祥伝社新書
本の背に「探訪ガイド」とあるように、世界文化遺産に登録された富士山の「現在」における信仰遺跡の紹介です。富士山の構成(信仰)遺産を1.登拝、2.遥拝、3.文化・芸術の三つの面から見て、主に1と2について(3は上の「日本人は…」に詳しい)、登録対象から漏れた遠方の「富士塚」も含めて紹介しています。これまで訪ねたことのある登拝道、山頂周辺を始め、浅間神社や白糸の滝などの山麓の遺跡にも、重要な文化的価値があることを教えられました。体力的に登拝が無理になっても富士山を訪ねる楽しみは、まだまだ残されています

久保田淳「富士山の文学」角川ソファイア文庫
「常陸国風土記」「古事記」から「十六夜日記」などの中世文学、江戸の紀行から近世の漱石、太宰治など富士について書かれた書物が50編余り紹介されます。特に興味深いのは、「けぶりは絶えず」と歌われた富士の噴煙が鎮まった時期が何時であったかを、文献として知ることが出来ることです。日本人の心にある山、富士についての貴重なガイドブックであるこの本に教えられて、読みたくなったのが次の本です。
 

武田泰淳「富士」
舞台は第二次大戦末期の富士山麓にある精神病院。戦争という日本人全体が狂気に巻き込まれた時代に、そこに勤務する若い青年医師の目を通して、院長を頂点とする職員らと様々な患者たちの姿と心(精神)が描かれます。ここでは富士は舞台で言えば背景の書割のようですが、その美しさだけでなく負の面(慈悲深さに対する忌み嫌われた山)も両義的に描いています。小さい活字で600ページを越す大作で、混沌と饒舌に疲れてやっと辿り着いた結末は衝撃的でした。

写真は新しく私の書棚に加わった書物ですが、その他にも再読したい富士山の本があって、しばらくは机上登山を楽しめそうです。