「ばっぱの手を放せ!」津波迫る中、妻に叫び、高齢女性‟置き去り”に
…心の傷さらけ出し教訓伝える 福島テレビ 2021.02.24. 水曜 06:30
https://www.fnn.jp/articles/-/145619
東日本大震災では多くの人が犠牲になった一方、助かった人の中に傷を抱えている人もいる。語り部として、“その傷”をあえてさらけ出し、震災の恐ろしさ、そして教訓を伝える男性がいる。
■津波で116人が犠牲に…今も残る心の傷
福島県といわき市の震災伝承施設で、語り部を務める大谷慶一さん。東日本大震災の津波から逃げた時のことが、今も心の傷となって残っている。
○大谷慶一さん:
私は逃げないどころか、海岸まで見に行ってしまったという、愚かな愚かな行為をしています。
(ナレーション)地震のあと、海に向かった大谷さんは、それまで見たことのなかった光景を目の当たりにした。海底があらわになった様子を目にした大谷さんは、自宅近くの高台にある神社を目指した。その途中、自宅近くで妻の加代さんと、飼っていた2匹のイヌと合流。そこには、近所に住む高齢の女性2人の姿もあった。
○大谷慶一さんの妻・加代さん:
(2人は)足が悪いので、ウチの脇まで連れてくるのにやっとだった。
(ナレーション)目指す神社まで、もうすぐという場所まで来たその時…
○大谷慶一さん:
後ろを振り返った時に見たホコリのようなもの、これを見た瞬間に「(津波が)来た」と叫んだ。私は1人だけ。3人と2匹を置き去りにしたんです。
○大谷慶一さん:
私の家内は、おばあちゃんの左腕を右手でつかんでました。私は後ろを振り返った瞬間に「ばっぱの手を放せ!」と叫んでいました。その時のお婆ちゃんの目の色、今に至るまで片時も忘れたことはありません。
(ナレーション)高齢の女性2人は津波にのまれ、1人は助かったが、もう1人は数日後に遺体で発見された。
○大谷慶一さんの妻・加代さん:
まだウチの主人も、おばあちゃんを助けてあげることができなかったという事で、まだ辛い思いしてるんです。
○大谷慶一さん:
思い出すと、それを無理やり、封じ込めるようにしています。でも忘れようとしても忘れられないでしょ。あの時、あのおばあちゃんの目、見てるんです。
■誰かの誰かの命救うため経験を教訓に
(ナレーション)心に傷を負い1年が過ぎたころ、大谷さんは語り部の活動を始めた。
○大谷慶一さん:
自分の身を守る為に、どういうふうな行動を取ればいいのか。それぞれ1人1人全部違うはずです。いる場所によっても。
(ナレーション)震災の経験を教訓にしてほしい。自分にとっては「心の傷」でも、誰かの命を救うことにつながればと考え、ありのままを伝えることにした。
○大谷慶一さん:
気持ちの中に押し込めているだけではダメだと思ったんですね。われわれがね、自分の犯した間違いを例に出して、ここで116人亡くなった人の例を出して、一生懸命言わなきゃいけない。
(ナレーション)あの日から、まもなく10年。
山があった場所は切り崩され、住宅地が造成された。でも、大谷さんが家を新築したのは、津波で被災したかつての自宅があった場所の近く。
○大谷慶一さん:
「何で大谷さんは津波の水が入ったところに家を作るんだい?」
よく言われるんですけどね。これはもう何回も言いますけど、サケと一緒、帰巣本能です。
(ナレーション)ありのままを受け入れて、生きていこうと考えている。
○大谷慶一さん:
死んでしまった人はもう何も言えません。われわれは、大きな犠牲の中から、学ばなきゃならないこと、学ぶべきことってのはあるんですよ。
(ナレーション)復興が進み、地域の姿が変わっていくからこそ、震災の記憶、そして教訓が伝えられていく必要がある。
■刑法第37条(緊急避難)
緊急避難とは言え、刑法は上記のお話と違って犯罪の規定です。しかし、人が自分の危機を逃れるために行った行為は免罪されるという規定で、この規定を初めて目にした学生時代からというもの未だに忘れられない感動を覚えました。生きている人間としての情を刑法の中に見つけた思いがしたのです。
刑法第37条
1.自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2.前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。