公明党の2011衆院選公約の「18歳以下の子どもへの10万円一律給付案」が大きく議論を呼びました。
これの実現策に関する選挙後自公与党協議をにらんだ橋下徹氏(実質的に「維新の会」代理人)と高市自民党政調会長の意見を前回2021-11-09当ブログで批判しました。橋下氏と高市氏、両氏の見解は10万円一律支給案の対象外となった国民の不満を煽り立てて党利党略を益するだけで、もう少し視野を広げてみれば国民の福祉全般の枠を阻害するものだと考えたからです。
公明党は、所得制限を設けずに一律給付するのは行政側の支給スピードを遅滞させないためとしました。これについて国民民主党の玉木代表は、確定申告時や年末調整時の回収という策を設定すれば所得制限をしてもスピード支給できるとしました。
玉木国民民主党代表の所得制限案は、所得制限をしてもスピード支給できる方法を提示していて、公明党の説明に対抗できる合理的な提案です。
合理的な玉木提案にくらべてみれば、橋下見解は維新の会に利するための党利党略です。高市見解は公明党に対する自民党に利するため、岸田総理に対する安倍派に利するため、総理をめざす高市氏個人に利するための党利党略です。
両氏のこのたびの見解は合理的な提案ではなくて、党利党略を秘めた国民扇動策にすぎません。こういう扇動策に乗ると私たち自身の首を絞めることにつながります。
■政府部内11月11日検討中の国民生活支援策
毎日新聞 2021/11/11 20:46 は、政府部内検討中の国民生活支援策の概要を次のように報道しています。
・中小企業支援
コロナ禍で売上げが減少の事業者に、事業規模に応じ最大250万円一括給付。
・生活困窮者支援
住民税非課税世帯を対象に1世帯あたり10万円を現金給付。
・子育て世帯支援
18歳以下の子供に現金とクーポンで計10万円相当を給付。
主たる生計者の年収が960万円未満の世帯が対象。
・学生の支援
大学生や専門学校生らに就学継続のための緊急資金10万円を給付。
対象や時期は検討中。
■18歳以下10万円給付の対象は「主たる生計者の年収960万円未満」の世帯
ここで言う「年収」とは、1月1日~12月31日一年間の額面総収入、を言います。
「主たる生計者」とは、同居家族のうち生計の中心になる所得を稼ぐ家族成員のことです。子育て世帯の一般的なケースとしては、父親が家族成員のうちの主たる生計者に当たります。
■主たる生計者の年収960万円未満か?
■同居家族成員の合計年収960万円未満か?
11月9日自公両党幹事長合意後の11月11日政府部内原案では、「主たる生計者の年収が960万円未満の世帯が対象」となっています。(毎日新聞 2021/11/10 11:18 )
記者会見席上これについて、「例えば夫婦で800万円ずつの年収計1600万円の世帯でも給付の対象になるのか?」と記者質問がありました。
言い直せば、世帯主の年収が800万円で10万円給付の対象になるけれども、一世帯合計年収1600万円であってもやはり10万円給付の対象になり得るのか? 政府意思を再確認する質問です。
岸田首相は、「世帯主ごと(の収入)で判断する。(対象に)なります」と述べました。(朝日新聞 2021/11/13 07:00 ) 上の記者質問の事例で言えば、単独年収800万円なので、世帯合計年収1600万円であっても、10万円給付の対象になります。
■岸田首相記者説明に対する高市自民党政調会長の見解
■共働き家庭で年収960万円未満×2=1,920万円未満まで制限外は不公平
高市政調会長は所得制限なしという公明党案に反対して、所得制限をするべきだと言いました。こんどは「主たる生計者の年収が960万円未満の世帯」の制限額に反対を表明しました。
朝日新聞 2021/11/13 07:00 の記事によれば――
18歳以下の子どもを対象にした10万円相当の給付について、自民党の高市早苗政調会長は12日のインターネット番組で、「共働き家庭でそれぞれが960万円ぐらい稼いでいたらすごい金額になる。個人の収入だと非常に不公平が起きてしまう」と語った 。
こういう極端な例を持ち出して反対する論法は要注意です。
夫婦2人共に1000万円近い年収という事例がどれほどあるのでしょうか。東京都庁の公務員夫婦なら該当例があるのでしょう。本省の高級官僚夫婦なら該当例があるのでしょう。
■高市自民党政調会長の反対根拠は実態を反映していない
その一方、国税庁の2019年民間給与実態統計調査結果の1年以上勤続者平均年収は4,364,000円です。高市氏が挙げた夫婦同額年収なら合計8,728,000円です。
夫婦共働きが通例になっている現代にあっても、女性の収入は男性にくらべて実に少ないのが現実です。男性に対抗し得る、あるいは男性を越える能力の女性は山ほどいます。
しかし出産・育児で女性は社会活動上決定的に不利な立場にあります。出産・育児を終えた女性には、その道のプロと認められるほどの能力の持ち主であっても、社会復帰してその能力にふさわしい職場や収入を得ることは困難極まりないことです。
妊娠から出産まで10カ月。母乳が必要な乳児期は少なくて1年、多くて2年。母乳が必要な乳児は夜泣きも絶えません。第2子の出産までの間隔は2年後。小学校を終えるまでは危なくて一人放っておくわけにはいきません。二人の子が小学校を卒業するまでと考えると、女性が社会復帰して能力にふさわしい職場を得、相応の収入を得ることは至難なことです。
わたしの仕事経験や生活経験によれば、身近にも高額所得の男性は珍しくありません。零細企業の社長なんかは豊かな生活ぶりです。しかし1000万円クラス年収の男性の奥さんで共稼ぎの人は少ない。私の知友の範囲で、今も1000万円以上年収とみられる男性、あるいはかつて1000万円以上であった男性はいますが、みんな奥さんは専業主婦です。
共稼ぎの奥さんが1000万円クラスの収入を得ることができる職場など、奈良県にはありません。大阪でも、収入面で女性が男性に伍することができる職場はしごく限られたものでしょう。こういう点で東京は日本の中でもほかの地域とは比較にならない並外れた都市なのです。
こういう社会実態の中で、「年収960万円×2人分」という高市モデルを論拠にした反対意見は現実性に乏しいものです。
国税庁の2019年民間給与実態統計調査結果の1年以上勤続者平均年収は4,364,000円です。これを正規従業員である夫の年収と見ましょう。同調査の1年未満勤続者平均年収は1,037,000円です。非正規従業員と見ることができ、子育てを終えた女性の再就職年収がこれに近いものでしょう。
高市氏は奈良県衆議院小選挙区2区選出のベテラン議員なのですが、奈良県住民である私の眼には、高市モデルより民間給与実態統計の方がより現実に近いと思われます。
小企業・零細企業のクラスでは従業員に年俸500万を払うのがやっとなのです。従業員の側から見れば年収数百万が上限でそれ以上増えないというのが小企業・零細企業の実態だろうと思います。
生活経験の現場で鍛えた自分の眼を信じて、なおかつ狭い生活経験にとらわれずに、現実離れした議論を見極めていきたいと思っています。