小説の中を流れる時間は紫式部没後、百年余り、紫苑の君という貴族の思われ人の産褥に紫式部の霊が現れ、世上流布されている宇治十条は本来の自分の思いから離れている、今こそ本当の宇治十条を世に問いたいというところから始まる。
宇治十条は八宮の姫君と光源氏の不義の子、薫と光源氏の孫、匂宮との恋のさや当てを軸にした物語である。
この小説ではほかに西国の海賊、平氏に源氏、奥州藤原氏、などが登場し、身投げした浮舟をどのように救うかという最後で登場人物たちが一つの場面にまとまる。ここで読者は錯覚する。オリジナルの宇治十条が物語、この作品は現実の話だと。
いえいえ、宇治十条が作中劇としてはめ込まれた、百年後の物語。これもまた物語である。
オリジナルは狭い貴族社会が舞台、貴族中心、男中心。その静止画のような原作に3D映像のような画像処理をしたのが本作ということになるだろうか。
なかなか面白かったですよ。庶民のあけすけもない表現にかかると、香をたきしめた男たちの身勝手さと滑稽さがあぶりだされるというもの。女はそれにきっちり落とし前をつける。
三百人ではなく、紫苑の君が物語の大君であり、浮舟と言って自分の生き方を示唆する末尾はなかなか痛快でした。
でも半面、こうした文体に慣れてないので読むのは大変だった。499ページもあるので。その中で、宇治十条を本歌取り下部分が読みやすいのは筋を知っているからでもあり、やっぱりオリジナルはよくできているからでもあると思う。
男の身勝手に泣く女、法律が女を守ってくれない時代は大変だったんだと、関係ない感想も持った。
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2011年3月、京都で十二単着ました。着物は重いけど、最後にベルト締めると着物の重さが分散して割と楽です。
今の時代は固い帯を結ぶので却って苦しい。といって十二単着て暮らすわけにもいかず・・・