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「女たち三百人の裏切りの書」 古川日出男

2015-08-03 | 読書


小説の中を流れる時間は紫式部没後、百年余り、紫苑の君という貴族の思われ人の産褥に紫式部の霊が現れ、世上流布されている宇治十条は本来の自分の思いから離れている、今こそ本当の宇治十条を世に問いたいというところから始まる。

宇治十条は八宮の姫君と光源氏の不義の子、薫と光源氏の孫、匂宮との恋のさや当てを軸にした物語である。

この小説ではほかに西国の海賊、平氏に源氏、奥州藤原氏、などが登場し、身投げした浮舟をどのように救うかという最後で登場人物たちが一つの場面にまとまる。ここで読者は錯覚する。オリジナルの宇治十条が物語、この作品は現実の話だと。

いえいえ、宇治十条が作中劇としてはめ込まれた、百年後の物語。これもまた物語である。

オリジナルは狭い貴族社会が舞台、貴族中心、男中心。その静止画のような原作に3D映像のような画像処理をしたのが本作ということになるだろうか。

なかなか面白かったですよ。庶民のあけすけもない表現にかかると、香をたきしめた男たちの身勝手さと滑稽さがあぶりだされるというもの。女はそれにきっちり落とし前をつける。

三百人ではなく、紫苑の君が物語の大君であり、浮舟と言って自分の生き方を示唆する末尾はなかなか痛快でした。

でも半面、こうした文体に慣れてないので読むのは大変だった。499ページもあるので。その中で、宇治十条を本歌取り下部分が読みやすいのは筋を知っているからでもあり、やっぱりオリジナルはよくできているからでもあると思う。

男の身勝手に泣く女、法律が女を守ってくれない時代は大変だったんだと、関係ない感想も持った。

http://bookshorts.jp/furukawahideo/

2011年3月、京都で十二単着ました。着物は重いけど、最後にベルト締めると着物の重さが分散して割と楽です。

今の時代は固い帯を結ぶので却って苦しい。といって十二単着て暮らすわけにもいかず・・・

コメント (2)
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「無言館の青春」 窪島誠一郎

2015-08-03 | 読書


 

無言館とは戦没した画学生、若い絵描きの残した絵を収蔵、展示する個人美術館である。館主、窪島誠一郎氏は作家水上勉の子供だが、事情があって人にもらわれ、その人の子供として育てられる。

本当の親子と分かったことがだいぶ前話題になり、その新聞記事を読んだ記憶がある。確かテレビドラマにもなったはず。

その人が戦争で亡くなった人の遺作を収集展するのは何か特別の思いがあるに違いない。

そう思って手に取ったこの本は、館主の思いはそう語られず、絵とその説明がほとんど。

上手い絵は一層、そうでない絵も胸を打つ。反戦の思いからではなく、どの絵にも若い命が輝いているから。と言えばきれいごとになるかもしれない。けど、この人たちに壮年も老年もなかったのだと思うと、青春を遥か隔てた私はウルッとしてしまうのである。

若い人が家族や恋人と離れ、遠い戦地で死ぬ。こういうことが二度とあってはいけない。絵は絵として評価されるべきだけど、それぞれ個性的な絵を見るうち改めてそう思った。

無言館は長野県上田市の山の中にあるらしい。上田からは別所温泉行の上田電鉄電車で塩田町まで行き、あとは徒歩30分らしい。いつか行けたらいいけれど、もう行けないかも。2008年、車で近くまで行ったんですよね。あの時行けばよかった。残念。

上田電鉄、旧型車両の展示

向こうから電車が来ます。

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