ごっとさんのブログ

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記憶を操作する

2016-01-18 10:40:09 | 健康・医療
かなり前ですが新聞にタイトルのような見出しで、科学欄に特集記事が出ていました。

脳の科学も記憶という最も難しい領域にまで踏み出したようです。昔から記憶とは何かという研究は行われ、脳の神経細胞にネットワークができることにより蓄えられるとされてきました。しかしネットワークができるといっても、神経伝達物質が流れることによってつながっているだけですので、これを証明することはできませんでした。

この記事では2つの研究例を紹介し、記憶をコントロールするところまで進んだとしています。ところがこの具体的な研究例が何をしたのか読んでもわかりませんでした。かなり具体的に書いてあるのですが、たぶんこの記事を書いた記者が理解できていないのだと思います。これは科学記事にはよくあるのですが、分かりやすく説明するために、聞いたことをつなぎ合わせると、結果的に意味の分からない文章になってしまいます。今回もその典型でしたが、富山大学のチームの光遺伝学(変な日本語です)を使った実験が紹介されていました。

マウスを丸い箱に入れて記憶させ、別なところで電気ショックを与える実験です。この二つの記憶を光遺伝子の手法でつなぎ合わせ、マウスに丸い箱の中で電気ショックを与えられたという記憶を作り出したのです。この実験ではマウスを丸い箱に入れると、電気ショックを与えられたような緊張状態になったようです。

もう一つの実験は東京大学のグループで、神経細胞がネットワークを作り、記憶が形成されるときにシナプスという部分にスパインという構造があり、これが肥大してネットワークが形成されることが分かりました。そこで特殊な顕微鏡や遺伝子組み換え技術、光操作を利用してこのスパインを小さくする技術を開発したのです。実験としては、回転車にマウスを乗せ、早く回しても落ちないように訓練し、この運動記憶の部分のスパインを削ってしまうと、このマウスは回転車から落ちてしまうという物です。こういった成果が人間に応用できるようになれば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やアルツハイマーなどの治療に利用できるとしています。

こういった技術を人間にというのは、当分先というより無理なような気がしますが、脳という巨大なブラックボックスに小さな光が射し込んだような気がします。こういった研究がどんな形で発展していくのかさえ予想できませんが、記憶という動物の本質に、少しメスを入れることができたのかもしれません。

この記事は全く触れていませんが、こういった研究は宗教的や倫理的な問題と直結しますので、こういった観点からも慎重な進展を見守りたいと思います。