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遺伝子の「ネットワーク」がもつ精緻な機能

2023-03-10 10:36:17 | 自然
このブログでも何回か紹介しているように、ヒトは270種類、37兆個ともいわれる細胞からできています。

細胞の核の中には23対の染色体があり、DNAはその中に収納されています。DNAは生命の設計図とも呼ばれ、およそ2万のタンパク質遺伝子がコードされています。

これだけ多数のタンパク質が存在しますが、1つのタンパク質が同時に複数の機能に分類されることもあります。こういった項目の分類を遺伝子オントロジー(GO)と呼んでいます。

オントロジーとはもともと哲学用語で、その後情報科学でも研究され、さらに生物学でも生物種間で共通に用いることのできる体系化された用語群というような意味で用いられるようになりました。

GOでは3つの用語体形を持っており、各遺伝子が3つの側面から特徴づけられます。それは細胞の構成要素、分子機能、生物学的プロセスの3種類です。細胞の構成要素は、そのタンパク質がどの細胞小器官内に局在しているかという情報です。

分子機能はそのタンパク質が単体としてどのような働きをするのかを表し、生物学的プロセスはそのタンパク質がどのような生物学的機能実現に寄与するかを示しています。

また2万個の遺伝子(タンパク質でもあります)が全体としてどのようなシステムを構築しているのかを理解することが大切であり、主な生物種のゲノム塩基配列が決定された今世紀初頭から、このような観点を強調したシステム生物学というアプローチが分子生物学の合言葉のようになっています。

遺伝子ネットワークの重要性を示す例として、ショウジョウバエでの実験を紹介します。ショウジョウバエにはEYLという遺伝子があり、眼の形成を指令する働きがあります。

この遺伝子はハエの幼虫の将来眼に分化していく細胞でのスイッチがオンになることによって、その細胞の複眼構造への分化が進みます。遺伝子工学の手法を用いて、この遺伝子を幼虫のいろいろな細胞で強制的にオンにしてみました。

するとそれらが成虫になると、体のあちこちに複眼構造が形成されたのです。ハエの複眼は多種多様な細胞が精密に組み合わさって形成されているものであり、そこに働いている遺伝子も多数に上っています。

たったひとつの遺伝子をオンにするだけで秩序だって働くという事は、これらの遺伝子が整然としたネットワークを形成しており、EYLはそのマスタースイッチになっていることを意味します。この様な制御構造を遺伝子カスケードと呼んでいます。

このように遺伝子の働きを個別に見るだけでなく、ネットワークとして調べようという機運は、ゲノム情報が明らかになって以降盛んになっており、システム生物学の中心的課題になっているようです。

ガンや糖尿病などの疾病は、多因子性疾患とも呼ばれ単一の遺伝子がうまく働かなくなって起こるというよりは、複雑なネットワークが環境要因を含む原因が積み重なることによって、全体としてうまく働かなくなることで起こると考えられています。

現在こうしたネットワークの考えは、医学の分野でも重要な基礎概念となっているようです。


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