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環境にやさしい次世代肥料

2022-02-06 10:25:25 | 化学
今回は珍しく有機化学の話です。有機化学は前面に出ることはまずなく、例えば私は医薬品の研究をしていましたが、良い薬を創ってもその薬効などがメインで、難しい工程の話などはまず出ることはありません。

今回は徳島大学の研究グループが、イネ科の植物が分泌するムギネ酸という物質の類縁体を作り、アルカリ性土壌でも作物が育つ肥料を開発したという話です。

全世界の陸地の67%は農耕に適さない土地で、そのうち半分はアルカリ性の不良土壌で占められています。植物の成長には鉄が必要で、通常は根から水に溶けている鉄を取り込みます。

しかしアルカリ性土壌に含まれている鉄は水に溶けない酸化鉄のため、植物は当然取り込めず鉄欠乏で枯れてしまいます。その対応策として水酸化鉄を溶かす農業用キレート剤を開発していますが、これは分解できずに土壌に残り続けるという課題がありました。

イネ科の植物で特にオオムギはアルカリ土壌に強く、根からムギネ酸という物質を分泌して、土壌中の鉄と反応し鉄錯体を形成し鉄を取り込むことができるのです。研究グループはこのムギネ酸を安価に合成し、新たな肥料にしようと考えました。

この研究グループは天然物有機化学という分野を得意とし、自然から見つかった複雑な構造の化合物を安価な原料から作ることを専門としていました。ムギネ酸に注目しても、それが本当に植物に役立つかどうかを調べる相棒が必要となります。

企業研究ではそういった色々な分野の専門家を集めてチームを作りますが、大学では自分で探す必要があるわけです。幸い民間の鉄欠乏症の専門家が見つかり、研究がスタートしました。

ムギネ酸よりも容易に合成でき、同じような活性を示すデオキシムギネ酸(DMA)をまずターゲットとしました。ところがここで問題となったのは、原料のひとつが1グラム7万円もすることでした。

余談ですが薬の研究でも原料が1グラム1万円以上の原料は使えません。薬でも動物試験などには1キロ以上の量が必要になりますが、この原料代だけで1000万円ではとても大量に使うことができません。

特にこの研究は肥料を目指していますので、1キロ数千円台で作らなければいけないわけです。そこでこの高価なアゼチジンカルボン酸の代わりとなるアミノ酸類を使って誘導体を合成しました。

その結果プロリンという安価なアミノ酸を使ったものが、鉄キレート剤の10倍もの効果が認められたのです。しかもこの化合物は約1か月で分解されるため、環境にも負荷を与えません。

現在海外で栽培実験が進んでおり、このムギネ酸のプロリン誘導体が本当に肥料になるかどうかの瀬戸際まで行っているようです。

研究グループはさらに安価に作る方法を模索中ですが、こういった面白い発想の肥料が実用化できることを期待しています。


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