ちょうど一週間前の24日の記事で、ジミー・ヘンドリックスの The Star Spangled Banner の演奏についての Lydie Salvayre, Hymne の中の一節を脚注で引用している Jean-Luc Nancy の La communauté désavouée に言及した(これが回りくどい言い方であることはわかっている。でも、これら三者の名前の連関の重要性を無視するわけにはいかない)。
その引用の中の最後の言葉 « au rythme de tous » が、思いもかけず、私のこれからの思索に方向づけを与えてくれた。まだまったくの手探り状態に過ぎないとはいえ、リズムについて考え始めた。昨日の記事でアリストテレスの『政治学』の一節を取り上げた理由も実はそこにあった。
日本でリズム論を哲学の枢要な問題の一つとして取り上げた最初の哲学者は九鬼周造だろう。そのリズム論は時間論と不可分である。永遠性・反復・回帰・差異などがそこでの問題である。
哲学者ではないが、九鬼とほぼ同時代的に、自身の言語理論の重要なテーマの一つとしてリズムを取り上げているのが時枝誠記である。
そして、この時枝のリズム論に触発されて独自のリズム論を展開しているのが、『言語にとって美とはなにか』の吉本隆明である。
かたやフランス現代哲学においては、リズムを哲学的な考察の対象とした数少ない哲学者の一人としてアンリ・マルディネを挙げることができる。
リズム論に関して私自身に何かはっきりとした見通しがあるわけでもなく、年限の決まった何らかの研究プランがあるわけでもない。しかし、上掲の四つのリズム論を手掛かりとして、これまで考えてきたさまざまな問題をリズム論の中で再考することで、それら問題の間に新たな有機的な関連づけを見出すことができるだろうという予感はある。