■芦川聡 「Still Way」■
むかし、むかし、中高生の憂鬱な日曜日の夜、NHK-FMでは、現代音楽を紹介する番組をやっていた。
そこで初めて、このLP「StillWay」の1曲目「前奏曲」を聴いた遠い記憶がある。ひょっとしたら、番組のテーマ曲だった頃もあったような?気がする。
日曜日の夜という不思議なあいまいな週と週の「間」の時間帯の部屋に、この音は、まさに不思議な感覚で空間に漂っていた感触が未だに残っている。
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このアルバムには、ブライアン・イーノの「Misic For Airports」の濃厚な影響がある。
しかし、イーノの「Popさ(?)」というか饒舌さに比べて、芦川さんの音は、現代音楽寄りな音がする。色気というものは、ここには無い。
「Misic For Airports」で奏でるロバート・ワイアットのピアノの音のつややかさ・暖かみに比べ、芦川さんの例えば、この「前奏曲」では、音が、あくまで冷ややかな物体として、空間に配置される、といった具合で、かつ、孤独感・抑うつ感のようなものが、その背後に感ぜられる。
そこには、若干なりとも、ワビサビ的世界=日本人であることも作用しているように思えた。
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1982年にこの音を聴いた後、僕は、このアルバム全体を聞かぬまま、時を経てしまった。
そして、LPは入手困難になっていた。
数年前になって、ジャニスでこのCDを発見して、レンタルをして、コピーして聴くことが出来、やっとアルバムの全体像がわかった。
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芦川聡さんが、若くして亡くなったことは、知っていたが、それは記憶の中でいつだったかは忘れてしまっていた。
1953年5月7日 東京生まれ。
1983年7月29日 永眠 享年30歳。
つまり、このアルバムを作った翌年には亡くなっていたのだ。
死因は特にわからない。
しかし、自分には、芦川さんは、死んだのではなくて、まるで、この「前奏曲」のように、音の中に染まって、「音」という物体に化身したかのようなイメージに思える。
たとえ死せども、音楽は生き残る。
この不思議な音は、未だにその不思議さを持って聞こえる。
騒げば、また歌えばそれが表現だという馬鹿げた「ロック」や「Jポップ」のようなゴミノイズとは対極に位置する音楽・・・・。
しかし、まさか、芦川さんは、20年後、21世紀の初頭、このような形で環境音楽なり「アンビエント」なるものが、ポップなフィールドで展開していようとは、思わなかったであろう。(私も思わなかったが)
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アルバムには、全部で7曲が入っている。
パーカッションで当時ノリに乗っていた高田みどりさんがほとんどの曲で演奏している。
<*高田さんは高田さんで、「ムクワジュ・アンサンブル」というグループで素晴らしい演奏をしていて、自分の記憶には深く刻まれている。>
1 前奏曲 (1981)1'46" 高田みどり(Vb)/内海 裕子(Hp)/薗 智子(Pf)
2 車輪の風景(1981)11'50" 内海 裕子(Hp)
3 スティル・パーク -アンサンブル-(1981) 12'04" 荒瀬 順子(Vb)/高田みどり(Vb)/内海 裕子(Hp)
4 スティル・パーク -ピアノ・ソロ-(1981)4'46" 薗 智子(Pf)
5 スティル・スカイ(1982)8'33" 芦川 まさみ(Fl)
6 木陰の映像(1980)13'01" 薗 智子(Pf)/芦川 まさみ(Fl)/高田みどり(Vb)
7 Wrinkle(1981)11'52" -セッション・テープ/演奏者不明- (Sx)(Vb)(Pf)
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今日も、仕事で、朝からつくばへ。
午後、TXで都内に戻った。
昼間のTXはさほど、人も乗っていない。
向かい合わせの席にじっくりと座って、窓の外を眺めながら、この「Still Way」を聴く。
7曲目「Wrinkle」と、窓の外を流れる建物たちの風景が交じり合う。
冬の風景に、この寂寥感がマッチしていた。