こころとからだがかたちんば

YMOエイジに愛を込めて。

音盤日誌:坂本龍一&B-2Units Live 1982年5月5日放送

2023-05-28 15:00:00 | 音楽帳

ひさびさに取り出した古いカセットテープ。
それを久しぶりにじっくり聴いていた。
本日も極めて個人的な備忘録。

1982年5月のゴールデンウィークに「坂本龍一のサウンドストリート」からのプレゼントとして、特別に「B-2ユニッツ」のライヴが放送された。
この日少年は家族との夕飯時間をごまかし、自室でラジカセに向かい、60分のカセットテープを回していた。興奮を抑え入念にFMの電波を細かくチューニングし、18時の始まりを待ち、途中カセットをひっくり返すのにあたふたしながら、エアチェックした。
この特別番組を録音した60分のカセットテープは当時の少年には貴重な宝物で、繰り返し繰り返し大事に聴いていた。

未発表曲もあり、ライヴでは初めて聴く曲あり、多様なおもむきの曲を集めたバンド形式の演奏はとてもぜいたくで素晴らしかった。これをそのまま新譜として発表してもいいんじゃないか?と思うくらいの完成度の高いライヴだった。1982年も春をむかえると、YMOのメンバーそれぞれの音楽はまた新しい展開を見せていた。まさに「ココロは毎日が夢のような」まばゆい日々だった1982年。

ここには1981年YMOウィンターライヴ終了までの異様な緊迫感はなく、自由な空気の中で展開される曲たちは伸びやかで豊か。その音楽の姿は、当時よく見ていたカセットのインデックスカード(セザンヌやモネといった印象派の風景画)と自分の中で勝手に結びついていた。
会場は、NHK 509スタジオ。最後のピアノ配信コンサート「Playing the Piano 2022」と同じ場所。このライヴには6,000通応募があり、抽選で150人が選ばれたという。




■「B-2ユニッツ」演奏メンバー
坂本龍一
沢村満 (ソプラニーノ、アルトサックス)
ロビン・トンプソン (サックス)
永田どんべい (ベース/当時チャクラ所属)
立花ハジメ (サックス、ギター/元プラスチックス→解散、ソロ活動へ)
鈴木さえ子 (ドラム/元シネマ→当時フィルムス所属)

■演奏曲目
1. フォトムジーク(ピアノヴァージョン)
2. Demo#4
3. ジ・アレンジメント
4. ハッピーエンド
5. ザットネス&ゼアネス(ピアノヴァージョン)
6. Demo#6
7. H
8. Robins Eye View Of Conversation
9. Piano Pillows
10. サルとユキとゴミのこども
11. Dance
12. エピローグ(ピアノヴァージョン)
13. アンコール/in E

1.フォトムジーク(ピアノヴァージョン)・・・まずはこのライヴの始まりとして弾いてくれた教授1人のピアノ演奏。曲目は前年1981年4月8日に始まった「坂本龍一のサウンドストリート」のテーマ曲「フォトムジーク」。1981年夏の特別番組「坂本龍一の電気的音楽講座」では、この曲を実際作成する過程を見せてくれた。サンストリスナーみんなのテーマ曲。
2. Demo#4・・・のちに「レプリカ」というタイトルで「音楽図鑑」のボーナス盤に収録されることになった曲。「レプリカ」も良いけれど、個人的にはこの原曲「Demo#4」の方が自然で美しくて大好き。「レプリカ」もナム・ジュン・パイクの映像とのコラボレーションとして、野望強い当時の教授には意義深かったのかもしれないが、「Demo#4」の方が、ファーストスケッチの淡い色合いやにじみが優しさとして伝わってくる。
3.ジ・アレンジメント・・・1981年ソロアルバム「左うでの夢」では海外向けのロビン・スコット盤LPに収録された曲。(のちに立花ハジメのソロアルバム「Hm」に収録される。)これもロビン・スコットのヴォーカル版より、立花ハジメ、矢口博康、ロビン・トンプソンのサックス陣が素朴にメロディーを描いていく、このライヴヴァージョンの方が断然素晴らしい。この名曲を聴くと、坂本龍一という人がいかに優れたメロディーメーカーであったかがよくわかる。シンプルに重要なフレーズだけで曲を構成させていく技術。それは、尊敬したブライアン・イーノから学んだ制作方法でもある。

4.ハッピーエンド・・・シングル「フロント・ライン」のB面収録曲。YMOの「BGM」のセルフカバーはかなり音の輪郭をぼやかしているが、このライヴではその解体を進めて、ビートもリズムもない状態にまで崩したヴァージョン。途中からは音が低速で停滞し、音のパーツが分解されたままそれぞれが浮遊する。こういったダヴ的形態の「ハッピーエンド」はこれ以外で聴いたことが無い。(元々「ハッピーエンド」そのものがダヴ的だが。)教授がピアノ、そしてサックス陣、その後ろで「シュッ」と空を切る金属音はハジメちゃんが作った造形アート兼楽器「アルプス1号」。
5.ザットネス&ゼアネス(ピアノヴァージョン)・・・ご存じ「B-2unit」からの1曲。
6. Demo#6・・・サックスやシンセサイザーがミニマルなフレーズを奏でる。それらは波紋の広がり、モアレの重なりを産みながらランダムな音の風景を描いていく。「Demo#4」が「レプリカ」として発表された一方で、この「Demo#6」は正式な発表曲とはならなかった。良い曲なので、このライヴだけで終わっているのが実にもったいない。そう思う。

7. H・・・立花ハジメとしてのファーストソロアルバム「H」のタイトルナンバー。このラジオで初めて一般公開された。アルバム「H」は、ほぼこのライヴメンバーで演奏されていて、立花ハジメがリーダーだと「H」というバンド名、教授がリーダーだと「B-2ユニッツ」という名前に代わる。(ちなみに「B-2ユニッツ」というバンド名の命名者は立花ハジメ。)
アルバムプロデューサーは幸宏だが、アルバムでは幸宏は2曲しかドラムを叩いていない。稚拙な味が欲しいから、タイトル曲「H」では坂本龍一がドラムを叩いている、とMCでハジメちゃんが話し、笑いを誘う。
8.Robins Eye View Of Conversation
9. Piano Pillows・・・8、9ともにアルバム「H」より。
10.サルとユキとゴミのこども・・・アルバム「左うでの夢」の曲はライヴで演奏されたことがない、と思い込んでいたが、このライヴがあったことを数十年ぶりに想い出した。
11.ダンス・・・ダンスリーとのアルバム「The End Of Asia」収録の名曲。音の向こうに、自然と人々と生き物がいる牧歌的な風景が勝手に見えてしまう。
12. エピローグ(ピアノヴァージョン)・・・ライブ最終曲。後半「アルプス1号」が「テクノデリック」の工場音の代わりとなって鳴っていた。
13.アンコール/In E・・・ジャズ色の濃い1曲。これもほかで聴いたことが無いもの。
放送では途中でフェイドアウトとなった。

教授はMCで盛んにYenレーベル中心の話をしてくれていた。細野さんの新作「フィルハーモニー」、幸宏は「今、ロンドンに行ってソロアルバムを録音中(ぼく、だいじょうぶ)」。幸宏の初の国内ツアー情報では、ニューミュージックのトニー・マンスフィールドがメンバーとして参加といっていたが、結果的にトニーは出演せず、出ないと言っていた教授が特別ゲストとして出演した。
この「B-2ユニッツ」ライヴの後、教授は間もなくして映画「戦場のメリークリスマス」の撮影へと入っていく。私は「世界のサカモト」になんかならないでいいから、いつまでもこういった身近なところで、さりげなく良い音楽を奏でていてほしかった。そんな一方的な想いを当時勝手に持っていた。
ゴールデンウィークの連休だからといって、どこかに行けるカネも状況もなく、ひたすらエアチェックに夢中だった時代。
そんな自分にはこのライヴは最高のプレゼントだった。

■坂本龍一&B-2Units「エピローグ」1982■
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