右がイタリア産、 真ん中が南ロシア、 左がモンゴルです。
ヴァイオリンの弓を現在の形に作ったのはフランシス・トルテだと云われています。
そしてその当時、擦弦楽器の弓に最適な馬毛は、一説によると、南ロシア、北モンゴルの辺りの馬の尻尾の毛だったようです。
馬は、原産地はアメリカだと云われていますが、氷河期の頃に絶滅したようです。
その後、シベリアや、南ロシアの辺りに残った馬たちが、スキタイ民族などにより、馬車や乗馬用として、次々と改良されていきます。
走ることや運ぶということが目的だったのでしょう。サラブレッドが良い例のように、ある目的のために、次々と改良されたりしてきています。
まさか、擦弦楽器の為だけに改良されたのではないと思います。
現在でも、皮製品や食用としての需要の方が主であり、それらの副産物として尻尾も販売されているようです。
中国のように、消耗品としての二胡の弓が、それこそ年間、数百万本作られているでしょうし、世界中のヴァイオリン属の弓毛にしても、同じくらいには張り替えられているとはいっても、
主要製品では無いようです。
現在、擦弦楽器の弓毛の主要生産国は、中国とカナダでしょう。
中国と云っても、その産地は、ほとんどがモンゴルです。
そして、その中にはモンゴル馬だけでなく、様々な地域の馬の種類が入っているようです。
中国の生産者それぞれに、入手ルートを持っているようですね。
イタリア産の馬毛が良いと云われるようになったのは、どうやら、20世紀も半ばのようです。
イタリアの北の方で改良された馬の毛がとても強くしなやかである、という事で使われるようになってきたのだと思います。
このイタリア産の馬毛、日本にはそれほど入って来ていません。馬毛屋さんだけが現地に行っても、馬毛だけを買えるわけではないそうで、
皮屋さんや肉屋さんと一緒に行かないと、入手が難しいとの話を聞いています。
さて、そんなイタリア産の馬毛。
強くて、そして華やか。
それが、イタリア産の馬毛を張った弓の音色の感想です。
摩擦も強いですから、小さく弾いても音がきちっと出て来る、大きく弾けば実にパワフルに響く、
それがイタリア産の馬毛の特徴です。
毛の質そのものがとても強く、耐久力もあります。
よく言われるのですが、光舜堂の福音弓は、ほとんど毛が切れない、切れてもせいぜい年に、1,2本、強いですねと。
これは、確かにそうです。南ロシア、モンゴル産の馬毛としては比較的脱色も少なかったり全く脱色していなかったりする馬毛を使っていますが、
これは一重に選別にもよるのです、
弱い毛やよじれれた毛、枝毛などを取り除いてあるためもあるのです。これはほぉさんの努力です。
しかしこのイタリア産の馬毛、ほとんどその選別をする必要がないくらいに均一に強いです。
しかし、問題は高額なのです。通常の馬毛ですと、ヴァイオリンで使う80センチ前後の長さの馬毛は、平均で毛替えは8000円前後なのですが、
たぶん皆さんが、ネットでヴァイオリンの馬毛の交換でイタリア産の物を調べると、高額なところは、張替えだけで30000円、
比較的安いところでも、1万5,6千円。しているはずです。
この金額がなぜこんなに違うかと言いますと、長さのせいです。
以前、書いたと思いますが、馬毛一頭から採れる量は350グラム前後、
その中で擦弦楽器の弓に使えるのは15%くらい、そしてその中でも、90センチを超える毛は、かなり高額になります。
ヴァイオリンの弓は、有効で、64センチくらいです。馬毛の先端の細いところを取り除くとして、最低でも80センチくらいは必要なのです。
そして馬毛は、長くなればなるほど強くて太いのです。そして少ないですから高額です。
その90センチを超えるものは、3%もないでしょうか。ですから、長いものを使うと高くなってしまいます。
ですからヴァイオリンの毛替えをする職人さんが、どのような選択基準で、馬毛を仕入れるかによって金額が変わります。
ところが二胡の場合、有無を言わせず、90センチ以上必要とされます。
したがって、ヴァイオリンの弓毛などよりは高額になってしまうのです。
ヴァイオリンの弓は、プロの人たちは普通半年に一回張り替えると云います。
その方達でも、イタリア産だと1年以上は張り替えなくて済むそうです。
そのくらいに強いのですし、ただ強いというより、毛自体がとてもしなやかです。
ヴァイオリンを弾く人たちの中には、イタリア産は好きではないという方もいます、強すぎると。
ヴァイオリンに繊細さを求める方は特にそうですね。
でもこれは張り方にもよりますし、棹の強さとのバランスにもよるのです。
何種類かのグラム数に分けて、4本ぐらい作って、数名の二胡の奏者に弾いてもらい、毛の量を確定したりもしています。
この豪華な華やかな、そして、弦に吸い付くような、イタリア産の馬毛の音色楽しんでください。
来年には、まとまって入手できると思います。その時には、イタリア産の馬毛を活かした、新作弓を作ります。
今、ほぉさんに名前考えてもらっています。