一番大きな迷信は、二胡の胴に張る蛇皮の鱗は大きなものの方が良い。
単にそういわれると、確かに。
確かに張る職人にとってはそういえます。
これは首のあたりの蛇皮です。
この画像の一片の長さは9センチです。
これは一番良いとされている尻尾の方6枚の内4番目です。
首のあたりは、蛇が例えば子牛あたりを飲み込むときには、随分伸びるのです。伸びないと飲み込めません。
この尻尾のあたりの皮はそのような必要もないところですから、伸びにくいです。
この首のあたりを二胡に張ろうとすると、横方向にだけ、伸びていってしまいます。結構きりなく伸びて最終的には倍くらいに伸びてしまいます。
お陰で均一な張力を必要としている振動板としては大変その均一さを保つのに手間もかかりますし、均一になりにくいのです。
この部分を使った楽器が全くないわけではありません。
京胡などにはこの部分を使ったものもあります。
京胡そのものの大きさが、直径で7センチくらいですから、二胡の9センチに比べると随分張りやすいのです。
そしてこの部分の伸縮性が却って、小さな京胡の振動板として音の良い響きを作り出すようです。
以前、チェンミンさんのお父さんの持つ京胡を人工皮CDMに張り替えた時に、均一に張りやすい和紙のCDMでは京胡の良い響きになりにくく、音の伸びという事、そして蛇皮の特性というのをとても考えさせられたのです。
色々工夫して、敢えて伸びる部分を作り出すことで、この蛇皮の首の部分を使う事の意味というのが理解できたと思います。
均一の素材でしたら、その張る長さの比率で張力は変わります。
洗濯ものをほす紐は長くなればだらっと下がってきますね。
そしてこの蛇皮の首のあたりというのはとても強いです。厚みもありますし二胡を張る道具にかけても切れたことが無いのです。
このようなことも昔の人は使い分けていたのかもしれません。
鱗が大きいという事はいろいろあります。
私が使っているベトナム産の養殖蛇5才ですと、この下の画像のように大体鱗の直径が7ミリくらいです。
しかし市販品の中には鱗の大きさが10ミリくらいの物もあります。
これは、二通りあって鱗は大きい方が良いという迷信にしたがって生体の時に伸ばしてしまったものと、大鱗錦蛇という名前の錦蛇だと業者さんから聞いています。
私はそれらは使ったことはありあませんが、何台も見せていただき弾かせていただいて、寧ろ普通の錦蛇のほうがしっかりとした鳴りをえらえるように感じました。
二胡に張られる蛇皮の問題はむしろ鱗の大きさではなく、如何に均一に張られているかだと思います。
蛇もそれぞれ生体ですから癖があります、その癖に合わせてに均一に張るかというのが楽器職人としての技です。
だからこそ、皮を張る名人が 二胡造りの名人と言われるのでしょう。
工房光舜堂西野和宏&ほぉ・ネオ