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世界共同体憲章試案(連載第26回)

2020-01-19 | 〆世界共同体憲章試案

〈補則〉

【第106条】

1.世界共同体域内で出生した者は、自動的に世界共同体籍が付与される。

2.前項以外の場合、世界共同体籍は、世界共同体の構成領域圏または直轄自治圏のいずれか一つの住民として登録されることにより、自動的に付与される。

3.世界共同体籍は、保持者の死亡が公的に証明されることによってのみ失効する。

[注釈]
 世界共同体は個人単位で参加する機構ではないが、域内で出生するか、域内の構成領域圏または直轄自治圏のいずれか一つで住民登録をすることにより自動的に付与され、かつ保持者本人の公的な死亡証明によってのみ失効する。反面、構成領域圏または直轄自治圏は現在の国籍に相当するような独自の所属籍を発行しない。

【第107条】

1.この憲章が保障する権利及び自由は、世界共同体域内のすべての個人及び法人並びにその他の集団による不断の協働的な努力によって保持しなければならず、それらが侵害されたときは、その回復のために可能な平和的方法で闘争しなければならない。

2.すべて人は、この憲章が保障する自己の権利及び自由を行使するに当たっては、他人の権利及び自由の正当な承認及び尊重を保障すること、または世界共同体の目的及び原則を実現することをもっぱら趣旨として法によって定められた制限にのみ服する。

[注釈]
 第一項は憲章が保障する権利及び自由に対する協働的な保持と闘争の義務、第二項は憲章が保障する権利及び自由の制限に関する一般的な基準を定める。

【第108条】

1.この憲章が保障する権利及び自由は、基本的人権に含まれ得る最小限を示すものであるがゆえに、世界共同体域内のすべての民衆会議はそれらを削減してはならない。ただし、この憲章が保障していない権利及び自由を付加することを禁止するものではない。

2.この章のいかなる規定も、この章に掲げる権利及び自由の侵奪もしくは世界共同体の破壊を目的とする活動に従事し、またはそのような目的を有する行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない。

[注釈]
 憲章が規定するたかだか全20か条の人権規定は基本的人権の最小限を示すのみであるから、世界共同体域内の領域圏等の民衆会議はこれを削減すること(例えば、社会権条項を排除するなど)は許されないが、反対に憲章の最小限規定を越えて独自に権利及び自由を追加することは許されるというのが第一項の趣旨である。
 第二項は念のための注意規定にすぎないが、この章が保障する権利及び自由がそれらの侵奪や世界共同体の破壊の目的のために悪用されることを禁止する趣旨である。

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世界共同体憲章試案(連載第25回)

2020-01-18 | 〆世界共同体憲章試案

〈自由権〉

【第97条】

1.何人も、正当な理由に基づき、かつ事前または事後の公正な司法過程を経ない限り、生命及び身体の自由を侵されることはない。拷問は、いかなる状況においても、絶対に禁じられる。

2.何人も、この憲章に特別の定めがない限り、世界共同体域内においては、死刑またはその他の生命を剥奪する処分を宣告されることはない。

3.奴隷制または奴隷的慣習は、当事者の同意の有無を問わず、絶対に禁じられる。

4.人体実験は、当事者の同意の有無を問わず、絶対に禁じられる。ただし、厳格なプロトコルに基づく医学的に先端的な臨床試験は、本項の人体実験に該当しない。

[注釈]
 第2項における特別の定めとして、反人道犯罪の主唱者等に科せられる致死的処分がある(第96条第1項第1号)。

【第98条】

1.何人も、自己の私事、家族、家庭もしくは通信に対して、みだりに干渉され、または名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉または攻撃に対して平等に法の保護を受ける権利を有する。

2.何人も、正当な理由に基づき、かつ事前または事後の公正な司法過程を経ない限り、その住居、書類及び所持品または通信について、侵入、捜索及び押収、開封、盗聴、秘密裏の監視を受けることはない。

3.何人も、自己または家族に関する個人情報(通信記録を含む)を保有している第三者に対し、その全面的な開示を求める権利を有する。

[注釈]
 プライバシー権及び名誉権の規定である。第1項は世界人権宣言第12条をほぼそのまま転用している。第3項は個人情報開示請求権に関する新規の条項である。

【第99条】

1.世界共同体構成領域圏及び直轄自治圏の住民は、世界共同体域内において自由に移転及び居住する自由を有する。ただし、いずれかの構成領域圏もしくは直轄自治圏で犯則行為を犯し、手配中の者または法令で禁じられた物品を所持している者については、この限りでない。

2.世界共同体構成領域圏及び直轄自治圏の住民は、その意に反して、現に居住する領域圏もしくは直轄自治圏から追放され、または帰住を拒否されることはない。前項但し書きの規定は、本項にも準用する。

3.すべて人は、現に居住する地における迫害、戦乱または飢餓もしくはその他の非人道的な危難を逃れるため、世界共同体域内の任意の地に避難することができる。この場合、避難者は世界共同体の適切な機関を通じて、直ちに必要な人道的保護を受ける権利を有する。

[注釈]
 世界共同体は国境という概念を持たないから、世界共同体の構成領域圏及び直轄自治圏の住民である限り、原則として世界共同体域内の移転・居住は自由であり、例外は指名手配犯及び法禁物所持者の場合だけである。
 同様に、避難の権利も広く認められる。もっとも、移転・居住の自由が世界共同体の構成領域圏及び直轄自治圏の住民に固有の権利であるのに対し、避難権は、世界共同体域外の住民にも保障される点に違いがある(第3項)。

【第100条】

1.成年者は、いかなる制限をも受けることなく、当事者間の自由かつ完全な合意にのみ基づき、他人と共同の生計を営み、家庭を形成する自由を有する。共同の生計を営む者は、その継続及び解消に関し、互いに平等の権利を有する。

2.世界共同体域内において、18歳未満の幼年婚または幼年婚に準じる制度もしくは慣習は、当事者間の合意の有無を問わず、禁止される。

3.婚姻中または婚姻に準じた関係にある未成年者は、教育を受ける権利を奪われない。

[注釈]
 本条で言う「共同の生計」は、伝統的な異性間の婚姻に限らず、民事婚、公証パートナシップなどの新しい準婚的制度もすべて包括する用語である。伝統的な婚姻の制度または慣習が本条に反する限りにおいては、本条は「婚姻制度からの自由」を保障した規定ということになる。
 なお、世界共同体は法定婚姻年齢に関して統一的基準を設けないが、人生設計の自由を阻む16歳未満の幼年婚またはそれに準ずる制度慣習は全域で禁止する。また、合法的に婚姻中または婚姻に準じた関係にある未成年者が教育を受ける権利も確保される。

【第101条】

1.住宅その他衣食住に必要または有用な財産は、個人の所有に属する。

2.動物を所有する者は、飼育者としての責任において、飼育下の動物を愛護し、かつその動物の特性に応じて安全に監護する義務を有する。

[注釈]
 次条の土地に対して、日常的な「小さな財産」に関する規定である。愛玩動物や家畜もその中に含まれるが、動物の所有者には第2項で愛護及び監護義務が課せられる。

【第102条】

1.地球上の土地は、何人の所有にも属さない自然物である。

2.世界共同体構成領域圏は、その領内の全土地に対する包括的な管理権を有する。直轄自治圏内の土地の管理権は、世界共同体が保持したうえ、これを直轄自治圏に包括的に委任する。

3.個人または公私の法人は、前項の管理権が許す範囲内で、土地を利用し、または譲渡し、もしくは貸与する権利を有する。

[注釈]
 地球上ですべての人間及び動植物の共同的な生活圏となる土地は無主物とされるが、その包括的管理権は、世界共同体構成領域圏または世界共同体から委任された直轄自治圏に属する前提で、個人や公私の法人が土地の利用等の権利を有するという二段構制である。

【第103条】

 世界共同体域内の住民は、経済計画の適用を受けない経済領域において、その居住する領域圏または直轄自治圏の法令に従い、私的な事業を営む権利を有する。

[注釈]
 経済計画が適用される環境負荷的産業分野は社会的共有に属する公企業で占められるが、その余の経済分野では私的な事業活動の自由が保障される。とはいえ、世界共同体域内では貨幣経済が廃されるため、私的事業の大半は非営利の公益事業となるだろうが、物々交換型の私的営業活動も本条によって保障される。

【第104条】

1.すべて人は、思想、良心及び信仰の自由に対する権利を有する。この権利は、信仰または信念を変更する自由及び単独でまたは他の者と共同して信仰または信念を実践する自由並びに特定の信仰または信念を強制されない自由を含む。

2.すべて人は、その手段または名義を問わず、表現の自由に対する権利を有する。この権利は、懲罰や干渉、脅迫を受けることなく自己の意見を表明し、あらゆる可能な手段により、広く世界に情報及び思想を求め、受け、及びこれを伝える自由、並びに集会及び結社の自由を含む。

3.本条の権利及び自由は、この憲章が保障する他人の権利及び自由を明らかに侵害し、または侵害する明白かつ現在的な危険が認められる場合において、十分な反論の機会が保障された公正な司法過程を経ることによってのみ、制限され得る。

[注釈]
 第一項は聖俗問わず、広い意味での思想信条の自由に関する包括的な規定、第二項は表現の自由とその制限に関する包括的な規定である。本条の自由の制限に際して司法過程を経ることを義務付ける第二項の規定により、行政的な検閲や行政許可制は禁じられることになる。

【第105条】

1.すべて人は、学術的及び芸術的活動の自由に対する権利を有する。この権利は、この憲章が保障する他人の権利及び自由を明らかに侵害する場合または学術的もしくは芸術的にあまねく承認された倫理に反する場合にのみ制限され得る。

2.すべて人は、自由に芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵にあずかる権利を有する。学術的研究及び芸術的作品は万民が享受すべき人類共有の資産及び遺産であり、何人も科学的研究、芸術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を独占することはできない。

[注釈]
 学術及び芸術活動の自由に関する規定である。第二項は、科学的研究や芸術的作品に対する知的財産権という壁を超克する革新的な規定である。もっとも、盗作・盗用を自由に認める趣旨ではなく、盗作・盗用は第一項の学術的または芸術的にあまねく承認された倫理に反する場合の一つとして、何らかの制限が加えられることになろう。

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世界共同体憲章試案(連載第24回)

2020-01-05 | 〆世界共同体憲章試案

〈参政権及び受益権〉

【第95条】

1.世界共同体域内の住民は、免許を持つ代議員として抽選され、自己が居住する領域圏及び当該領域圏内の地方自治体の統治に参画する権利を有する。

2.民衆の意思は、すべて民衆会議を通じて決定される。

3.世界共同体域内の住民は、民衆会議が選出する代議員を通じて、世界共同体及び汎域圏の統治に関与する権利を有する。

4.世界共同体域内の住民は、自己が居住する領域圏内において公務に就く権利を有する。

5.すべての公務員は、民衆会議の支配に服する。

[注釈]
 参政権に関する規定である。世界共同体が共通基盤とする民衆会議制度は、ブルジョワ議会制度とは異なり、選挙制ではなく、代議員免許取得者からの抽選制を基本とする。ただし、世界共同体総会を兼ねた世界民衆会議と世界共同体内の大陸的な区分である汎域圏の民衆会議は各領域圏民衆会議からの間接選挙制となる。
 第四項の公務就任権は、主権国家体制を採らない世界共同体域内では、現在居住地を基準として保障されることになる。

【第96条】

1.世界共同体域内の住民は、憲章または法律によって与えられた権利を侵害する行為に対し、自己が居住する領域圏内の中立的な司法機関による効果的な救済を求める権利を有する。

2.前項の規定により自己が居住する領域圏内の司法機関による救済が受けられなかった者は、世界共同体人権査察院に対して不服を申し立て、または直接に救済を求めることができる。

[注釈]
 司法的な受益権に関する規定である。主権国家体制を採らない世界共同体体制下では、自己が居住する領域圏内で司法的救済が受けられなければ、世界共同体の直轄司法機関である人権査察院に訴え出ることができる。

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世界共同体憲章試案(連載第23回)

2020-01-04 | 〆世界共同体憲章試案

〈社会権〉

【第92条】

1.すべて人は、労働者であると否とを問わず、衣食住、医療及び必要な社会的支援により、自己及び家族の厚生に十分な生活水準を保持する権利並びに疾病、心身障碍、配偶者の死亡、老齢、災害その他の不可抗力または戦争もしくは他人の不法行為による生活不能の場合は、公的な救援及び保護を受ける権利を有する。

2.すべて人は、ひとしく医療にアクセスし、必要かつ有効な治療を安全に受ける権利及び疾病を予防するための衛生上のサービスを受ける権利を有する。これらの権利を保障するために、世界共同体及び汎域圏は、医療衛生機関のネットワークを直営する。

3.母親及び出生した子は、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての子どもは、嫡出であると否とを問わず、または養子であると否とを問わず、同等の権利を有し、かつ同等の社会的保護を受ける。

[注釈]
 第69条の生存権の規定をより具体化した社会権条項である。貨幣経済が廃される世界共同体域内では、労働と生活は分離されるため、労働者であると否とを問わず、社会権がひとしく保障される。第二項は、世界共同体域内において医療・衛生サービスを受ける権利を実質的に保障するため、世界共同体と汎域圏に直営医療衛生機関ネットワークの創設を義務付ける。

【第93条】

1.すべて人は、障碍や疾病の有無を問わず、無償で教育を受ける権利を有する。基礎教育は基礎的な職業教育を含み、義務的でなければならない。専門的な職業教育は特権的であってはならず、民衆に広く開放されたものでなければならない。心身障碍者の特別教育は隔離的であってはならず、普通教育と統合的または交流的でなければならない。

2.教育は、基本的人権の尊重の強化を目的とし、かつ人類相互の理解、寛容及び友好関係を増進し、恒久平和の維持のため、世界共同体の活動を促進するものでなければならない。

[注釈]
 貨幣経済が廃される世界共同体の域内では、教育はおよそ無償である。専門職業教育の特権性の禁止、障碍者特別教育の隔離性の禁止は、世界人権宣言以来の伝統的な社会権論のレベルを超える規定である。

【第94条】

1.すべて人は、その資質及び関心に応じて勤労する責務及び権利を有する。世界共同体を構成する各領域圏は、領域民が最適の職業を選択できるように各人の適性を考慮した科学的な方法によって労働を配分しなければならない。

2.金銭その他の報酬を伴う労働は、禁じられる。ただし、特別な賞与としての現物支給については、この限りでない。

3.労働者は、公正な労働条件及び物理的に安全かつ衛生的で、心理的にも健全な労働環境を確保し、並びに労働時間の公正な制限及び定期的な有給休暇を含む休息をとる権利を有する。労働者がこれらの権利を侵害された場合、中立的な公的機関を通じて迅速に救済される権利を有する。

4.労働者は、自己が所属する企業体の経営に対して、直接に、または公正な方法で選任された代表者を通じて参加する権利を有する。

[注釈]
 本条は労働権に関する規定であるが、伝統的なブルジョワ人権論における労働権とは大きく異なる規定である。貨幣経済が廃されるため、賃金労働も廃される。その代わり、無償の勤労は責務となる反面、科学的な方法で最適な就労ができるように公的に労働配分され、賃金労働下よりもきめ細やかな労働権が確保される。また企業労働者の場合、経営参加権が保障される。

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世界共同体憲章試案(連載第22回)

2020-01-03 | 〆世界共同体憲章試案

第14章 基本的人権

〈総則〉

【第88条】

1.あらゆる動植物は、固有の生存権を有する。人間は、野生の動植物が地域的な生態系の均衡を害し、または人間に対して明らかな害を及ぼさない限り、それらを保護し、生物多様性を保持する義務を負う。

2.すべての人間は、生存の基礎となる衛生的な水及び清浄な大気にアクセスし、並びに健全に保たれた持続可能な生態系を享受する権利を有する。

[注釈]
 現行国連憲章は基本的人権に関する条項を含まず、人権に関しては、規範性を持たない「世界人権宣言」、及びその規範化としての社会権、自由権を定めた条約としての二本の「国際人権規約」に分離しているため、国連憲章は批准するも、人権規約は批准しない加盟国も存在する。
 これに対して、世界共同体憲章はその内に基本的人権条項を含むため、構成領域圏にはこれら条件条項を遵守する義務が課せられる。逆に言えば、人権条項を保留して世界共同体に参加することは認められないことになる。
 本条は、そうした基本的人権条項の筆頭条項である。はじめに、人間を含むすべての動植物の生存権という全生命体に通じる基本権をベースにして、人間に生物多様性の維持を義務付けつつ、生物としての人間が生存の基礎となる良好な地球環境を享受する権利を定めたものである。

【第89条】

1.人間の尊厳は不可侵であり、すべて人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権利を有する。

2.すべての人は、人間としての尊厳を維持し得るに足りる健康にして文化的な生活を営む権利を有する。すべての人は、人間としての尊厳が脅かされたときは、いかなる場所においても、迅速に必要な救援及び保護を受ける権利を有する。

[注釈]
 本条は、前条に規定された全動植物の生物としての生存権を前提に、社会的な生物である人間特有の尊厳性と、それに基づく社会的・文化的な生存権を保障する総則規定である。

【第90条】

すべての人間は、その尊厳と諸権利について、本質的に平等である。人間は、その理性と良心に基づき、互いに同胞の精神をもって協働しなければならない。

[注釈]
 前条を受けて、尊厳ある人間の本質的な平等及びそうした平等な人間の理性と良心に基づく相互協働義務を定める規定である。まさに、世界共同体の設立趣旨の表現とも言えるものである。

【第91条】

1.すべて人は、いかなる事由による差別も受けることなく、この憲章に掲げるすべての権利と自由を享有することができる。

2.すべての人は、法の前に平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。すべての人は、この憲章に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別を助長するいかなる行為に対しても、平等な保護及び救済を受ける権利を有する。

3.正当な理由に基づく公平な区別または選別は、本条に定める差別に該当しない。また、差別を解消することのみを目的とする施策の一環として導入される特別措置についても、同様である。ただし、その特別措置の内容が特定の人の集団に対して著しく不公平である場合はこの限りでない。

[注釈]
 前条の平等規定を受けて、差別の包括的禁止及び法の前における平等を定める包括条項である。第三項の規定からも、禁止される差別とは正当な理由に基づかない区別もしくは選別、または正当な理由には基づくも、不公平な区別もしくは選別を指すことになる。
 また、差別解消施策(いわゆるアファーマティブ・アクション)としての優遇等の措置は原則として差別に該当しないが、その内容が特定の人の集団にとって著しく不公平である場合は、差別に該当し得る(いわゆる逆差別)。

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世界共同体憲章試案(連載第21回)

2019-12-27 | 〆世界共同体憲章試案

〈航空宇宙警備隊〉

【第81条】

1.世界共同体は、地球上の防空及び宇宙空間の警戒探査を目的とする常備武力として、航空宇宙警備隊を組織する。

2.航空宇宙警備隊は、平和理事会の監督下に司令委員会を通じて運用される。司令委員会は、運用本部を指揮監督する。

3.司令委員は、7の理事領域圏及び3の副理事領域圏から各一名ずつ平和理事会がこれを選任する。運用本部長は、司令委員会の推薦に基づき、平和理事会がこれを任命する。

[注釈]
 航空宇宙警備隊は、平和維持巡視隊とは異なり、防空及び宇宙空間の警戒探査に特化した航空専門武力である。軍隊の軍種では空軍に近いが、むしろ旧ソ連が軍の一部門として保有していた防空軍に近い防衛航空武力の性格を持つ。とはいえ、これも軍隊そのものではなく、平和維持巡視隊と同系の世界共同体直属常設武装組織である。ただし、平和維持巡視隊とは、司令委員会の構成が異なる。

【第82条】

1.航空宇宙警備隊は、常時、地球上の大気圏の内外を監視するシステムを運用する。

2.航空宇宙警備隊の出動は、平和理事会の決定に基づいて行われる。

3.汎域圏全権代表者会議は、必要と認める場合、平和理事会に対して、航空宇宙警備隊の出動を要請することができる。ただし、特に緊急を要する場合は、全権代表者会議の決定に基づいて出動させることができる。

[注釈]
 航空宇宙警備隊は、平和維持巡視隊のように、個別の紛争案件ごとに出動するのではなく、レーダー監視のような日々の常時監視活動と何らかの事態が生じた際の機動的な対処を任務とするため、事前の運用指針に基づかない即時対応を基本とする。

【第83条】

1.平和理事会は、平和維持活動のために必要と認めるときは、航空宇宙警備隊の部隊を参加させることができる。

2.前項の場合、平和維持活動に参加する航空宇宙警備隊の部隊は、平和維持巡視隊の一部に編入され、平和維持巡視隊運用本部の司令に服する。

[注釈]
 平和維持巡視隊は航空武力を保有しないため、平和維持活動において防空の必要があるときは、航空宇宙警備隊の部隊を編入することができる。

【第84条】

1.航空宇宙警備隊の部隊編成の詳細については、別に定める組織規程により定める。

2.航空宇宙警備隊の基地は、予め世界共同体と協定を締結した領域圏内に設置される。

[注釈]
 特記なし。

【第85条】

航空宇宙警備隊の武装要員は、総定員20万人を超えない範囲内とする。その他、武装要員の募集方法、訓練及び指揮系統並びに調達に関する事項については、第78条及び第79条の規定を準用する。

[注釈]
 要員募集や訓練、指揮系統に関する事項は、おおむね平和維持巡視隊に準拠するが、総定員は平和維持巡視隊より少ない20万人を上限とする。

【第86条】

1.航空宇宙警備隊は、次の場合に限り、標的飛翔体を無力化するための武力行使をすることができる。

① 大気圏外を含む地球上空の飛翔体が、地上への攻撃(武力を用いない攻撃を含む。以下、同じ)を開始した場合
② 大気圏外を含む地球上空の飛翔体が、地上への攻撃を意図していることが明らかな場合
③ 大気圏外を含む地球上空の飛翔体が、他の飛翔体に衝突し、または墜落する危険が差し迫っている場合

2.前項に定める無力化するための武力行使には、撃墜を含む。ただし、飛翔体に人その他の生命体が搭乗していると認められる場合は、撃墜することについて平和理事会の承認を要する。この承認の決議は、持ち回りによることができる。

[注釈]
 航空宇宙警備隊の任務は、名称通り、警戒活動であり、武力行使は緊急性の高い場合に限られる。その場合、飛翔体の撃墜という究極の手段も採り得るが、何らかの生命体が搭乗する飛翔体を撃墜すれば、多数の死傷者が出ることも想定されるため、平和理事会の承認決議を条件とする。

【第87条】

航空宇宙警備隊は、必要に応じ、世界共同体宇宙機関と連携して活動する

[注釈]
 世界共同体宇宙機関は主として宇宙空間の研究調査を目的とする学術機関であり、航空宇宙警備隊とは任務・組織編制を全く異にするが、両者の活動対象は重なるため、情報の共有など必要に応じて連携して活動する。

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世界共同体憲章試案(連載第20回)

2019-12-26 | 〆世界共同体憲章試案

第13章 平和維持及び航空宇宙警戒

〈平和維持巡視隊〉

【第75条】

1.世界共同体は、武力紛争を防止し、恒久平和を確保するための常備武力として平和維持巡視隊を組織する。

2.平和維持巡視隊は、平和理事会の監督下に司令委員会を通じて運用される。司令委員会は、運用本部を指揮監督する。

3.司令委員は、平和理事会の理事領域圏から各一名ずつ平和理事会がこれを選任する。運用本部長は、司令委員会の推薦に基づき、平和理事会がこれを任命する。

[注釈]
 世界共同体は、構成領域圏に常備武力を保持することを禁ずる一方で、武力紛争の防止任務に特化した必要最小限度の民際常備武力として、平和維持巡視隊を保持する。常備組織である点で、案件ごとに組織される現行国際連合の平和維持軍とは異なる。

【第76条】

1.平和維持巡視隊の派遣は、個別の案件ごとに平和理事会が策定し、総会が承認した運用指針に基づいて、これを行う。

2.平和維持巡視隊の活動方法及び権限は、各運用指針においてこれを定める。

3.汎域圏全権代表者会議は、必要と認める場合、平和理事会に対して、平和維持巡視隊の派遣を要請することができる。

[注釈]
 特記なし。

【第77条】

1.平和維持巡視隊は、地上部隊及び海上部隊から構成される。その他部隊編成の詳細については、別に定める組織規程により定める。

2.平和維持巡視隊の駐屯地は、予め世界共同体と協定を締結した領域圏内に設置される。

3.平和維持巡視隊は、運用上の必要に応じて、世界共同体航空宇宙警備隊及び各領域圏の沿岸警備隊と連携して活動する。

[注釈]
 平和維持巡視隊は基本的に地上武力であるが、海上での臨検や人員・物資輸送などの活動を展開するため、海上武力も保持する。平時維持巡視隊は常備武装組織である以上、予め世界共同体と協定を締結した領域圏内の定まった駐屯地に分駐する。

【第78条】

1.平和維持巡視隊の武装要員は、総定員50万人を超えない範囲内で、汎域圏ごとに人口に比例して割り当てられた定員の範囲内で、予め世界共同体と協定を締結した領域圏から募集される。

2.平和維持巡視隊の武装要員の訓練は、運用本部が管理する訓練センターにおいて実施される。

3.平和維持巡視隊の武装要員は階級呼称を持たず、その地位及び任務の内容によってのみ業務遂行上の指揮命令系統が規律される。

[注釈]
 平和維持巡視隊の要員は、総定員50万人を上限として、汎域圏ごとの人口比例的割り当ての範囲内で、要員供出の協定を締結した領域圏が供出する。例えば、汎アメリカ‐カリブ域圏に10万人割り当てられるとすれば、当該汎域圏に属する協定領域圏が、その数に達する要員を供出する。すべて任意の募集であり、徴兵に相当する制度は存在しない。

【第79条】

平和維持巡視隊の武器及びその他の物資の調達は、平和維持巡視隊の調達本部が担う。調達本部は、予め指定された企業体から必要な武器及びその他の物資を調達する。

[注釈]
 平和維持巡視隊は常備武装組織であるから、武器やその他の物資の調達も常置部門としての調達本部が指定企業体を通じて行う。

【第80条】

1.平和維持巡視隊による武力行使は、その業務遂行に必要な最小限度の範囲内で認められる。特に、対人的な加撃的武力行使は、要員または第三者の人身を保護するために必要不可欠な場合に限られる。

2.平和維持巡視隊の要員は、上級要員の法令または運用指針に違反する命令に服してはならない。

[注釈]
 平和維持巡視隊は軍隊ではないが、武装組織であるから、状況により武力行使が認められるが、それは必要最小限度でなくてはならず、特に相手方に人的損失をもたらす対人的な加撃的武力行使は、正当防衛状況が認められる場合に限られる。その点では軍隊よりも警察に近いと言える。
 一方、要員には上級要員に対する不当命令服従拒否が認められる。これは任意に行使できる権利ではなく、履行を要する義務である。従って、上級要員の不当命令を拒否せず、服従した要員も懲戒処分を免れないことになる。

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世界共同体憲章試案(連載第19回)

2019-12-13 | 〆世界共同体憲章試案

〈司法理事会〉

【第69条】

1.司法理事会は、汎域圏司法委員会の審決に対する不服の審判を行う唯一かつ終審の機関である。

2.司法理事会は、上訴が行われたつど、もっぱら当該上訴案件を審理するために設置される。

3.司法理事会は、上訴案件の当事者が包摂されていない汎域圏に包摂される領域圏の中から、抽選により総会が選出した9の領域圏で構成される。

4.司法理事会の理事領域圏は、審理を担当する代表判事を各一名ずつ選任する。

[注釈]
 司法理事会は、汎域圏民衆会議司法委員会の審決に対する上訴がなされたつど上訴案件ごとに設置される点で、他の理事会とは大きく性格を異にする。従って、「〇〇案件に関する司法理事会」という形で、案件ごとに複数の理事会が並立することがあり得る。
 そのため、単一の事務局が常置され、各理事会の事務を管掌する。また、司法理事会の活動は司法審査であるため、実際の審理に当たるのは、専門家の中から理事領域圏が選任する判事である。

【第70条】

第66条第2項の規定により平和理事会が直担する案件のうち、司法的解決が相当と認められる場合、司法理事会が設置される。この場合、前条第3項の規定を準用する。

[注釈]
 司法理事会は、世界共同体直担案件においては、第一審かつ終審機関として設置される。主として、案件が複数の汎域圏内の領域圏にまたがっており、一つの汎域圏内では対処できない場合の対応である。

【第71条】

司法理事会は、当事者たる領域圏以外で、当該案件を審理するに適した場所に設置される。その他、司法理事会の審理に関する細目的な事項は、司法理事会規程でこれを定める。

[注釈]
 司法理事会は、上訴のつど設置される非常置型の理事会であるため、常設の事務局は別として、審理の場所はそのつど全当事者にとって中立的な場所に定められる。

【第72条】

1.司法理事会の審決は終局的であって、すべての当事者はこれに服さなければならない。

2.当事者が司法理事会の審決に反する行動をとった場合、平和理事会は当事者に対して、審決に従うよう求めることができる。当事者がその要求に従わない場合、第5条に基づく措置を発動することができる。

[注釈]
 司法理事会の審決には終局性と強制力があるため、これに従わない当事者に対して、総会は権利及び特権の停止の制裁を科すことができる。

〈緊急調停及び平和工作〉

【第73条】

1.平和理事会は、第47条第1項の規定により、特に緊急的な解決を要すると判断した紛争案件については、緊急的な調停を行うことができる。

2.前項の目的を達するために、平和理事会は、適格性及び中立性を備えた専門家で構成される調停団を組織する。

3.緊急的な調停が決定された紛争の当事者は、調停が行われている間は、武力行使、敵対的政治宣伝、諜報活動その他すべての紛争行動を停止しなければならない。また、調停を妨害するいかなる行動もしてはならない。

[注釈]
 世界共同体体制下では、紛争は前条まで見たような司法的な解決に委ねられることが原則として確立されるため、本条のような緊急調停は例外的な対応となるが、すでに武力紛争が本格化しているなど、司法的解決を待ついとまがない緊急性の高い案件では緊急調停の対象となる。

【第74条】

1.平和理事会は、汎域圏司法委員会もしくは司法理事会の審決を履行するため、または前条による調停の効力を維持するため、平和構築、利害調整、施政支援その他必要な平和工作を紛争地で実施することができる。

2.前項の目的を達するために、平和理事会は、適格性を備えた工作団を組織する。

3.何人も、平和工作団の活動を妨害する行動をしてはならない。

[注釈]
 平和工作は、司法的解決や緊急調停を担保する仕上げの段階と言える。平和工作は一定程度の内政干渉にも及ぶため、国際連合体制では国家主権の観念に阻まれて実施することの難しい対応と言える。

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世界共同体憲章試案(連載第18回)

2019-12-12 | 〆世界共同体憲章試案

第12章 紛争の平和的解決

〈通則〉

【第64条】

1.世界共同体を構成する領域圏間または領域圏内の勢力間において、武力衝突に導くおそれのある紛争の発生を認識した場合、当事者たる領域圏は問題の発生を平和理事会及び総会並びに汎域圏全権代表者会議に通報しなければならない。

2.世界共同体に包摂されない領域主体は、自身を当事者とする武力衝突に導くおそれのある紛争の発生を認識した場合、この憲章の定める平和的解決の義務を当該紛争について予め受諾すれば、平和理事会及び総会に解決を要請することができる。

[注釈]
 世界共同体による平和的解決プロセスに入る端緒となる通報手続きである。世界共同体に包摂されない領域主体も、この憲章による平和的解決手続きに従う限り、解決を要請することができるというように、外部にも対してもオープンに開かれている。

【第65条】

1.前条の通報または要請を受けた平和理事会は、当該紛争が恒久平和を脅かしているかどうかを決定するために迅速に調査しなければならない。

2.その他、平和理事会は、いかなる紛争についても、また民際摩擦または紛争に導くおそれのあるいかなる事態についても、その紛争または事態の継続が恒久平和を脅かすおそれがあるかどうかを決定するために調査することができる。

[注釈]
 世界共同体による紛争解決は、当事者からの通報または要請を受けて、平和理事会が調査に着手することから始められる。他方、平和理事会は、職権によっても紛争の調査に着手できる(第2項)。

【第66条】

1.前条第1項の調査により、当該紛争が恒久平和を脅かしていると判断した場合、平和理事会はその解決を紛争当事者が包摂される汎域圏民衆会議に付託しなければならない。恒久平和を脅かすおそれがあると判断した場合は、その解決を汎域圏民衆会議に勧告することができる。

2.前条第1項の調査の結果、当該紛争が特に緊急的な解決を要すると判断した場合、または前項の規定によっても解決が困難な事情があると判断した場合、平和理事会は、当該紛争を直担案件に指定することができる。

[注釈]
 世界共同体における紛争解決の原則は、まず当該紛争が発生した汎域圏内での自律的な解決に委ねることである。例えば、アフリカでの紛争は、汎アフリカ‐南大西洋域圏での解決にまずは委ねられる。ただし、紛争内容が深刻で特に緊急性を要する場合や、複数の汎域圏にまたがるような紛争については、平和理事会の直担案件となる。

〈汎域圏による司法的解決〉

【第67条】

1.汎域圏民衆会議は、前条第一項の規定により付託され、または勧告された紛争の解決に当たるため、司法委員会(以下、「汎域圏司法委員会」という)を常置するものとする。

2.汎域圏司法委員会は、汎域圏に包摂される各領域圏から公平に選出された判事委員で構成されなければならない。その他汎域圏司法委員会の組織及び手続の細目については、各汎域圏の条約でこれを定める。

[注釈]
 各汎域圏には民際司法機関としての司法委員会が常置される。これは、現行国連制度で言えば、国際司法裁判所を地域的に分割したようなものと考えればよい。なお、「裁判所」という構制をとらないのは、民衆会議は司法権をも掌握する総合施政機関だからである。

【第68条】

1.汎域圏司法委員会は、平和理事会が第66条第1項の規定により紛争の解決を付託した場合、直ちに審理を開始しなければならない。

2.汎域圏司法委員会は、平和理事会が第66条第1項の規定により紛争の解決を勧告した場合、紛争当事者の少なくとも一つが正式に提訴することにより、審理を開始する。

3.汎域圏司法委員会の審決は、すべての紛争当事者を拘束する。審決に不服の当事者は、世界共同体司法理事会に上訴することができる。

[注釈]
 汎域圏司法委員会の審理は、平和理事会からの「付託」か「勧告」かで開始方法が異なり、「付託」なら即時に、「勧告」なら少なくとも一つの紛争当事者からの提訴を待って開始される。不服の際の上訴もできる。

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世界共同体憲章試案(連載第17回)

2019-11-29 | 〆世界共同体憲章試案

〈表決〉

【第60条】

1.平和理事会の理事領域圏及び副理事領域圏は、一個の投票権を有する。

2.平和理事会の決定は、理事領域圏の三分の二以上かつ副理事領域圏の過半数の賛成投票によって行われる。

3.緊急性の高い案件に関する平和理事会の決定は、理事領域圏及び副理事領域圏を通じた過半数の賛成投票によって行われる。この場合における緊急性の有無に関する判断は、理事領域圏の三分の二以上によって決する。

4.紛争案件において、紛争当事者と認定された領域圏は、その紛争に関する平和理事会の決定に際しては棄権しなければならない。紛争当事者の認定については、第2項の規定を適用する。

5.手続事項に関する平和理事会の決定は、理事領域圏及び副理事領域圏を通じた三分の二以上の賛成投票によって行われる。

[注釈]
 平和理事会では、理事・副理事を問わず、構成領域圏は対等に一個の投票権を持つが、その決定に関しては、原則として理事領域圏に優位性が与えられる。例外は、緊急性の高い案件と手続事項に関する案件である。

〈手続〉

【第61条】

1.平和理事会は、随時任務を行うことができるように組織する。そのために、理事領域圏及び副理事領域圏は、この理事会の所在地に常に代表者を置かなければならない。

2.平和理事会は、必要に応じて会議を開く。その招集は、総会または汎域圏全権代表者会議もしくは理事領域圏の一つがこれを行う。

3.平和理事会は、その所在地で会合することが困難な場合は、その任務の遂行を最も容易にすると認める所在地以外の場所で、会議を開くことができる。その決定については、前条第3項の規定を適用する。

[注釈] 
 平和理事会は、世界共同体の常設機関ではあるが、恒久平和の保障機関として、問題発生に応じて随時任務を行うアドホックな機動的活動体制を取る。そのために他の理事会とは異なる手続規定を持つ。

【第62条】

1.平和理事会は、理事領域圏の中から、抽選により議長を選出する。その他の手続規則は、理事会がこれを採択する。

2.平和理事会は、その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けることができる。

[注釈]
 特記なし。

【第63条】

1.平和理事会の理事領域圏または副理事領域圏でない世界共同体構成領域圏は、平和理事会に付託された問題について、理事会がこの領域圏の利害に特に影響があると認めるときはいつでも、この問題の討議に投票権なしで参加することができる。

2.平和理事会の理事領域圏もしくは副理事領域圏または世界共同体に包摂されていない統治主体が、平和理事会の審議中の紛争の当事者であるときは、この紛争に関する討議に投票権なしで参加するように勧誘されなければならない。平和理事会は、世界共同体に包摂されていない統治主体の参加のために公正な条件を定める。

[注釈] 
 平和理事会の理事/副理事領域圏または世界共同体に包摂されていない統治主体が紛争主体である場合における平和理事会へのオブザーバー参加に関する規定である。

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世界共同体憲章試案(連載第16回)

2019-11-28 | 〆世界共同体憲章試案

第11章 平和理事会

〈構成〉

【第56条】

1.平和理事会は、世界共同体構成領域圏の中から総会で抽選された15の理事領域圏及び同数の副理事領域圏で構成する。

2.理事領域圏及び副理事領域圏は、いずれも二年の任期で抽選される。退任する理事領域圏及び副理事領域圏は、引き続いて再選される資格はない。ただし、理事領域圏が引き続いて副理事領域圏に、または副理事領域圏が引き続いて理事領域圏に選出される場合は、この限りでない。

3.理事会の理事領域圏及び副理事領域圏は、一人の代表を有する。

4.直轄自治圏は、直轄自治圏特別代表またはその代理者をもって理事会の代表者とする。この場合、第2項の規定は適用しない。

[注釈] 
 世界共同体平和理事会は、国際連合安全保障理事会のように、常任理事(国)を固定するのではなく、理事領域圏と副理事領域圏を二年ごとに総会で抽選するローテーション制である。これにより、国連のような大国による寡頭的支配を防ぐ趣旨からである。

〈任務及び権限〉

【第57条】

1.平和理事会は、旧主権国家の軍備を廃止して恒久平和を確立するため、別に定める条約に基づき、旧主権国家を法的に継承する構成領域圏の軍備廃止計画の策定を援助し、その実行を監督する権限を有する。

2.核兵器を含む大量破壊兵器の廃絶については、別に定める条約に基づき、理事会が直接にこれを実施する。その目的のために、理事会は、常設下部機関として、大量破壊兵器廃絶委員会を設置する。

[注釈] 
 平和理事会の最大の任務は、前章に定められた恒久平和の保障という点にある。その中核は、旧主権国家の軍備廃止であり、そのための条約に基づく軍備廃止計画とその実行の監督は、平和理事会の最大任務となる。特に、最大の焦点となる核兵器を含む大量破壊兵器の廃絶は、平和理事会が下部機関を通じて直接にこれを実施する。

【第58条】

1.前条第1項の権限を行使するに当たっては、理事会は、世界共同体の目的及び原則に従って行動しなければならない。そのために理事会に与えられる特定の権限は、この憲章でこれを定める。

2.理事会は、年次報告を、また、必要があるときは特別報告を総会に審議のため提出しなければならない。

3.理事会は、汎域圏全権代表者会議の要請があったときは、その活動に関して、随時報告しなければならない。

[注釈]
 平和理事会は、恒久平和を保障する全責任機関として、構成領域圏に代わって行動する権利を持つ。その活動は、総会や全権代表者会議に対して、所定の方式に従って報告される。

【第59条】

世界共同体構成領域圏及びその民衆は、平和理事会の決定をこの憲章に従って無条件に受諾し、かつ迅速に履行する義務を負う。

[注釈] 
 恒久平和保障機関としての平和理事会の性格にかんがみ、その決定は構成領域圏とその民衆すべてに及び、無条件の受諾・履行の義務を負う。

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世界共同体憲章試案(連載第15回)

2019-11-15 | 〆世界共同体憲章試案

第10章 恒久平和

〈非戦〉

【第54条】

世界共同体に結集する民衆は、いかなる名目または理由もしくは形態によるものであるかを問わず、およそ戦争及び戦争に準ずる武力の行使または武力による威嚇を人類の生存及び地球の持続可能性を脅かす歴史的な悪習とみなし、永久にこれを行なわない。

[注釈]  
 恒久平和に関する原則的な宣言である。ここで宣言されているのは、消極的な戦争放棄ではなく、戦争否定すなわち非戦である。
 戦争放棄は、戦争という選択肢を残しつつも、あえてそれを放棄するという限りで、なお戦争というカードへの未練を残した消極的な規定であるが、非戦はより積極的に、戦争という行為そのものを自己破壊・地球環境破壊の歴史的な悪習とみなし、およそ実行しないという強い含意がある。  
 本条における非戦の主体は、世界共同体に結集する民衆総体である。ここで否定される戦争は、名目も理由も問わないから、侵略戦争はもちろん、自衛戦争も含まれ、形態としても内戦・外戦いずれも含まれる。

〈軍備廃絶〉

【第55条】

1.世界共同体構成領域圏は、前条の目的を達するため、兵器または軍隊もしくはその他の名目を問わず、いかなる軍備も保持してはならない。

2.この憲章が発効した時点でなお軍備を保持している構成領域圏は、別に定める条約の規定に従い、すみやかに軍備廃絶を推進するものとする。

3.世界共同体が認定した独立宗教自治圏域については、その独立性を保持するために必要にして最小限度の武装組織を保有するか、または世界共同体平和維持巡視隊に防衛任務を委託するかを選択することができる。

[注釈]  
 前条の非戦条項を現実的・物理的に担保するための軍備廃絶条項である。廃絶対象は、兵器(通常兵器を含むあらゆる兵器)のような物的軍備と軍隊のような人的軍備のすべてである。さらに、別の名目を掲げていても、実質上軍備とみなされる装備や組織も禁止対象となる。  
 とはいえ、軍備の廃絶には相応の時間を要するため、世界共同体憲章とは別途、条約(軍備廃絶条約)を締結し、憲章が発効した時点でなお軍備を保持している構成領域圏の軍備廃絶プロセスを法的にも保障する必要がある。  
 ただし、バチカンに代表されるような独立宗教自治圏域(第23章)は世界共同体憲章の適用外であるから、必要最小限度の武装組織を独自に保有するか、世界共同体の常設平和維持組織である平和維持巡視隊に防衛任務を委託するかの選択権を持つ。もちろん、完全非武装を選択することもできる。

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世界共同体憲章試案(連載第14回)

2019-11-09 | 〆世界共同体憲章試案

〈世界天然資源機関〉

【第49条】

1.世界天然資源機関は、地球上における鉱物資源の保存、開発及び利用を統一的かつ包括的に行なう専門機関である。

2.世界天然資源機関は、執行理事会及び事務局によって運営される。

3.事務局長は、世界経済計画機関の上級評議員を常に兼任する。

[注釈]  
 世界共同体による共同管理下に置かれる天然資源のうち、石油や石炭のような燃料ともなる鉱物資源の管理を行なう実務機関が、世界天然資源機関である。生産活動の燃料や材料を担う鉱物資源の管理は世界経済計画においても土台となることから、世界天然資源機関事務局長は世界経済計画会議の意思決定機関である上級評議会のメンバーを常任で兼任する。

【第50条】

1.世界天然資源機関は、石油資源の生態学的に持続可能な管理を担うため、下部機関として、石油資源委員会を設置する。

2.石油資源委員会は、石油エネルギーへの依存率を低めるため、油田開発の調整を行なうことを主要任務とする。

[注釈]  
 生態学的な持続可能性を維持するうえで、石油エネルギー依存を脱却することは世界共同体の存在理由の一つであるゆえに、世界全体での統一的な油田管理に特化する下部機関として、石油資源委員会が設置される。この委員会は、単に油田開発を行なうのではなく、むしろ油田開発を抑制するために、全世界規模で油田開発の調整を行なうことを主任務とする。

〈世界水資源調整機関〉

【第51条】

世界水資源調整機関は、世界における水資源の持続可能性を確保するため、流域領域圏の共同管理機関の活動をあらゆる可能な方法で支援する。

[注釈]  
 水資源も一個の天然資源ではあるが、埋蔵資源とは性質が異なるため、世界天然資源機関の管轄からは外し、独立した専門機関が設置される。この機関は、現地で水資源の流域領域圏で構成する共同管理機関の活動を支援することを目的とする調整機関である。支援の方法としては、技術支援のほか、対立の調停といった物理的及び非物理的方法の一切である。

〈世界生物多様性機関〉

【第52条】

1.世界生物多様性機関は、世界における遺伝資源の多様性を確保するための行動計画を実施する専門機関である。

2.世界生物多様性機関は、前項の行動計画を実施するため、各領域圏または汎域圏の専門機関と連携する。

[注釈]  
 野生動植物の保護に象徴される生物多様性の確保は、野生動植物が生息する領域圏または当該領域圏を包摂する汎域圏がその最前線となるが、世界生物多様性機関はそうした地域的な活動を束ねる統括機関の位置づけとなる。

〈連携関係〉

【第53条】

世界天然資源機関及び世界水資源調整機関並びに世界生物多様性機関は、その活動に当たって、相互に連携しなければならず、そのために合同協議会を常設する。

[注釈]  
 これら三機関の活動は、広義の天然資源の生態学的に持続可能な管理として相互に密接に関連し合っているため、合同協議会を常設して、常に連携して活動する。

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世界共同体憲章試案(連載第13回)

2019-11-08 | 〆世界共同体憲章試案

第9章 天然資源の民際管理

〈諸原則〉

【第45条】

土壌資源及び遺伝資源を除く地球上の天然資源は、本質的に地球人類の共有に属し、その保存、開発及び利用は世界共同体の責任において、かつ生態学的に持続可能な方法によってこれを行なう。

[注釈]  
 広義の天然資源には、土、水、鉱物などの無生物資源と動植物のような遺伝資源(生物資源)の二系統があるが、そのうち、無生物資源については、これを本質的に地球人類の共有とする原則規定である。その点で、天然資源に対する国家主権という伝統的な原則の転換となる。この転換により、天然資源をめぐる紛争を防止し、有限な天然資源の持続可能な民際管理を可能とする趣旨である。

【第46条】

前条の天然資源が埋蔵されている構成領域圏は、各種天然資源の保存、開発及び利用に関して、世界共同体と協働する権利及び義務を有する。

[注釈] 
 天然資源が埋蔵されている領域圏も、その天然資源の保存、開発及び利用に関して何の権利も持たないわけではなく、世界共同体と協働することができ、かつそれは義務でもある。具体的には、後に見るように、各埋蔵領域圏は世界天然資源機関の常任オブザーバーを務め、かつ現地での掘削事業体の運営に関わることができる。

【第47条】
水資源は、世界共同体の調整的な管理の下、各流域領域圏が共同管理機関を通じて、公平かつ生態学的に持続可能な方法によって管理しなければならない。

[注釈]  
 無生物資源の中でも、全生物にとって死活的な枢要性を持つ水資源に関しては、各地の水資源(その多くは大河川)流域領域圏で構成する共同管理機関を通じて、公平かつ生態学的に持続可能な方法でこれを管理することによって、水資源をめぐる紛争や枯渇を防止する趣旨である。

【第48条】

1.土壌資源及び遺伝資源は、何者にも属しない。ただし、世界共同体及び構成領域圏は、その管理下にある土壌資源及び遺伝資源について、生物多様性の維持の観点から、生態学的に持続可能な方法によって管理しなければならない。

2.世界共同体は、前項但し書きに規定する構成領域圏による管理について、監督的にこれに関与する。

[注釈]  
 まさに自然そのものとして不可分の関係にある土壌資源及び遺伝資源は、何者にも属しない無主物とする原則規定である。従って、世界共同体も構成領域圏も土壌資源及び遺伝資源に対する専属権を主張できない。
 とはいえ、土壌資源及び遺伝資源の管理は、土壌を有し、各種動植物が生息する構成領域圏(直轄圏の場合は世界共同体)の管理権限に委ねられる。しかし、それは白紙委任ではなく、世界共同体は、そうした構成領域圏による適切な遺伝資源管理を監督する権限を留保される。

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世界共同体憲章試案(連載補遺)

2019-10-27 | 〆世界共同体憲章試案

第9章 持続可能なエネルギー

〈再生可能エネルギー条約〉

【第38条】

世界共同体は、条約をもって、各構成主体が生態学的に持続可能なエネルギーの開発と普及を推進することを義務付ける。

[注釈]
 世界共同体の主要な設立目的として、地球環境の生態学的な持続可能性ということがある。その最大の具体化は地球規模での計画経済の確立にあるが、この持続可能的計画経済の基盤となるのは再生可能エネルギー技術の開発及び普及である。これを各領域圏の自主政策に委ねるのではなく、世共総体で取り組むため、条約を締結する。

〈世界再生可能エネルギー機関〉

【第39条】

1.世界共同体は、生態学的に持続可能な再生可能エネルギー技術の開発と普及を目的として、世界再生可能エネルギー機関を設立する。

2.前項の機関は、総会の共同管理機関とする。

[注釈]
 前条の条約を実行的に履行するべく、総会共同管理機関として、世界再生可能エネルギー機関が設立される。

【第40条】

前条の機関は、次の任務を有する。

① 世界経済計画機関と連携し、再生可能エネルギー技術に関する適宜の情報提供及び技術支援を行うこと。
② 世界共同体構成主体における再生可能エネルギー技術の適切な導入及び運用を支援すること。
③ 世界の学術研究機関と提携し、再生可能エネルギー技術の開発及び実用の恒常的な進展に尽くすこと。

[注釈]
 特記なし。

〈脱原子力条約〉

【第41条】

世界共同体は、条約をもって、各構成主体が適切なプロセスを経て原子力エネルギーの利用から脱することを義務付ける。

【第42条】

1.世界共同体は、原子力の利用を脱するための技術を開発し、及び世界における脱原子力のプロセスを支援し、監督することを目的として、世界脱原子力機関を設立する。

2.第39条第2項の規定は、前項の機関にも準用する

[注釈]
 再生可能エネルギーの開発・普及は、再生不能エネルギーの集大成である原子力利用からの脱却と不可分である。しかし、脱原子力はそれ自体に高度な技術と歴史的な時間を要することであるので、再生可能エネルギー機関とは別途、専門機関を必要とする。

【第43条】

1.前条の機関は、世界共同体構成主体における脱原子力のプロセスを技術的に支援し、かつその履行状況を定期的に監査し、総会に報告しなければならない。

2.機関は、世界共同体構成主体が第41条の条約に違反している疑いがあるときは、いつでも査察することができる。

[注釈]
 脱原子力機関は、世界共同体構成主体における原子力発電所の廃炉や核廃棄物の処理などの技術的支援を行うほか、脱原子力のプロセスを監査・報告する任務、さらには条約に違反している疑いのある構成主体への査察の権限を持つ。

【第44条】

前条の機関は、核兵器廃絶のプロセスに関して、大量破壊兵器廃絶委員会と連携して、技術的な支援を行うものとする。

[注釈]
 世界脱原子力機関の任務は、基本的に原子力の非軍事的な利用からの脱却を支援・監督する機関であるが、核兵器廃絶という軍事的な脱原子力のプロセスに関しては、平和理事会下部機関の大量破壊兵器廃絶委員会(第39条第2項)と連携する。

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