17:共産主義的家族モデルについて
リベラリスト:前回家族モデルの問題にも少し触れましたが、あなたが提唱する共産主義家族モデルは非婚姻的なパートナーシップというもので、要するに、資本主義社会で一般的な核家族モデルの究極ですね。これはいささか意外です。
コミュニスト:つまり、共産主義的家族モデルは、本来もっと大家族的なものではないかという疑問ですか。
リベラリスト:そうですね。核家族というのは本来労働者階級的な家族モデルであって、まさに資本主義の社会的な所産だと考えられますから、どうもあなたの描く未来の非婚的家族モデルは、共産主義的未来ではなく、資本主義的未来の家族モデルのように思えるのです。
コミュニスト:実は、私も『共産論』を執筆していた時、一番悩んだ点の一つは、家族モデル問題でした。実際、共産主義的家族モデルとして、大家族の復権という選択肢も念頭に浮かびました。しかし、私の構想する共産主義は農村社会への回帰を前提するものではなく、工業化・情報化社会の上に成り立つポスト近代的な共産社会を構想するので、農村社会的な大家族の全般的な復権はやはり想定できないと考えたのです。
リベラリスト:なるほど。そうすると、生産活動における社会化、日常生活における個人化という峻別がなされるのですね。実際のところ、そういうことが可能かどうかわかりませんが。
コミュニスト:実は、この対論のテーマにもなっている「自由な共産主義」とは、そのように個人主義的な自由と共産主義的協働化とを組み合わせようという試みなのです。共産主義=統制主義というような自由主義者が抱きやすいステレオタイプな「偏見」を克服したいのです。
リベラリスト:よくわかります。ただ、私は自由主義者ながら核家族モデルには疑問を持ち始めています。核家族は封建的な長幼序から解放されたフラットな家族関係である反面、密室的な環境下に親と子数人が逼塞的に暮らし、人間関係が濃密になり過ぎるがために、様々な家族病理を生じさせる元になっているように思います。その点、私はかえって共産主義に大家族モデルの復権を期待したくなるのです。
コミュニスト:それは興味深いご指摘ですね。これは全くの仮説モデルにとどまるのですが、共産主義社会では計画的な職業紹介システムが構築されることで、職住近接が実現するため、転居回数も減り、全般に定住性が強くなると考えられます。そうなると、近隣の結びつきが復活し、近隣家族が大家族的な集合体を作るといった形で、核家族モデルを「核」とした集合家族モデルのようなものが都市部でも現れるのではないかと予測しているのですが。
リベラリスト:なるほど、それは血縁ではなく、地縁に基づく大家族モデルのようなものですね。農村部など地方ではどうなのでしょうか。
コミュニスト:私の構想する共産社会では農業も社会的な形態で再構築されますので、農村の再編が見られるでしょう。それは従来型の家族農の集落ではなく、農業生産機構の職員の集住地となるので、農村というより「農業都市」のようなもので、そこにはやはり集合家族の形成が見られるかもしれません。
リベラリスト:そうした集合家族では家事や育児も共同化されるのですか。
コミュニスト:あくまでも仮説モデルなので、具体的な内実を説明することは難しいのですが、単なる「近所付き合い」にとどまらない「集合家族」となるからには、家事や育児も融通し合うことになるのではないでしょうか。
リベラリスト:シェアハウスのファミリー版のようなものですね。楽しそうです。どうやら、家族モデルに関しては、共産主義に軍配が上がりそうな気がしてきました。
※本記事は、架空の対談によって構成されています。