国民議会の権限
【第55条】
1 立法権を行使するに当たり、国民議会は‐
(a)議会に上程されたいかなる法律をも審議し、可決し、修正し、または否決することができる。
(b)立法を開始し、または準備することができる。ただし、財政法案についてはこの限りでない。
2 国民議会は、以下のような目的を持つ仕組みを定めなければならない。
(a)国の領域のあらゆる行政機関が議会に責任を負うよう保証すること。
(b)次のものへの監督を維持すること。
(ⅰ) 法律の適用を含む国の行政権の行使
(ⅱ) あらゆる国家機関
本条から第59条までは国民議会の権限や議員特権等に関する細則である。本条では、立法と監督という国民議会の二大権限の内容が簡潔にまとめられている。なお、財政法案に限っては、財政担当閣僚が発議する例外がある(第77条)。
国民議会に提出される証拠または情報
【第56条】
国民議会またはそのいかなる委員会も‐
(a)宣誓もしくは誓約に基づき証言し、または文書を提出するため、あらゆる人を召喚することができる。
(b)あらゆる個人または組織に対して議会への報告を求めることができる。
(c)国の法律もしくは規則及び命令の定めるところにより、あらゆる個人もしくは組織に対して、a号もしくはb号に定める召喚または要求に応じるよう強制することができる。
(d)利害関係を持つあらゆる個人もしくは組織から請願、説明または上申を受けることができる。
本条は日本の国政調査権に相当する国民議会の権限を定めている。前条の権限、とりわけ監督権を行使するための補助的な権限である。
国民議会の内部的協議、議事及び手続き
【第57条】
1 国民議会は‐
(a)内部的な協議、議事及び手続きを決定し、統制することができる。
(b)代議的かつ参加的民主主義、説明責任、透明性及び公衆関与に適正な配慮をしつつ、その任務に関する規則及び命令を作成することできる。
2 国民議会の規則及び命令は以下のことを定めなければならない。
(a)委員会の設立、構成、権限、機能、手続き及び存続期間
(b)議会の少数政党が議会及び委員会の議事に民主主義にかなった方法でする参加
(c)議会に議席を持つ各党及びその党首が議会でその役割を有効に果たせるようにするための議席割合に応じた財政的及び事務的支援
(d)議会における最大野党党首の野党首班としての認知
本条は国民議会の内部的諸事項を定める規則の内容を列挙している。いわゆる自律権の規定である。注目されるのは、大衆参加や少数政党の参加に関しても配慮が要求されていることである。これは現状、旧反アパルトヘイト運動体の与党アフリカ民族会議(ANC)の圧倒的な優位が揺らがない中で、一党独裁化を避けるためには鍵となる規定であろう。なお、最大野党党首を野党首班(the Leader of the Opposition)として公式に遇するのは、英国議会制度からの影響と思われる。
特権
【第58条】
1 閣僚、副大臣及び国民議会議員は‐
(a)議会及び委員会において、その規則及び命令に従い、言論の自由を有する。
(b)次のことを理由に、民事もしくは刑事の起訴、逮捕、投獄または損害賠償の責任を負わない。
(ⅰ) 議会もしくはそのあらゆる委員会において発言し、提示し、または上申し
た事柄
(ⅱ) 議会もしくはそのあらゆる委員会において発言し、提示し、または上申し
た事柄の結果として明らかにされた事柄
[第1項は2001年法律第34号第4条により修正]
2 その他の国民議会、閣僚及び議員の特権並びに免責事項は、国の法律によって定めることができる。
3 国民議会議員に支払われる報酬、手当及び給付は、国庫基金の直接負担である。
本条は、国民議会議員や議会に出席する閣僚、副大臣らの特権に関する規定である。南アは大統領制のため、閣僚や副大臣は議員ではないが、議会に出席する限りで議員に準じた特権を有する。第1項b号ⅱで、言論の免責範囲が結果的な判明事項まで及ぶのは手厚い保障である。
国民議会への公衆のアクセス及び関与
【第59条】
1 国民議会は‐
(a)議会と委員会の立法及びその他の手続きへの公衆の関与を促進しなければならない。
(b)その任務を開かれた方法で行い、かつ議会及び委員会の議事を公開しなければならない。ただし、次の目的のために合理的な措置を取ることができる。
(ⅰ) メディアの取材を含む公衆の議会及び委員会へのアクセスを規制するこ
と。
(ⅱ) 特定の人を捜索し、及び適切な場合は特定の人の入場を禁止し、または強
制退場させること。
2 国民議会は、開かれた民主社会において合理性及び正当性が認められない限り、メディアを含む公衆を委員会の議事から排除しない。
本条は議会への公衆関与に関する先進的な規定である。議会は、要件がやや不明確ながら(特にメディアの取材等を規制するb号のⅰ)、一定の規制権限を保持しながらも、立法やその他の議会手続きへの公衆関与を義務付けられている。特に第2項で委員会議事も原則的に公開されるのは徹底している。