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近代科学の政治経済史(連載第56回)

2023-04-04 | 〆近代科学の政治経済史

十一 情報科学と情報資本・情報権力

コンピュータの発明に端を発するコンピュータ科学としての情報科学は20世紀以降、最も日進月歩で進化を続けてきた科学分野であり、今日では他のすべての科学においても研究手段を提供する不可欠の科学である。情報科学はまた、情報という無形的価値を商品として生産し、もしくは販売する情報資本の台頭を促進した。さらに、国家権力の情報収集能力の高度化を促進し、情報管理社会を形成するとともに、兵器のハイテク化や軍事作戦の電子化においても情報科学の寄与は著しく、軍事科学としての性格も強めるなど、情報科学は政治経済の基盤として多彩な顔を持つようになってきた。


機械式計算機の発明と数学の科学化

 情報科学における出発点であり、不可欠のツールでもあるコンピュータは元来、計算機(電子計算機)であったという事実がしばしば忘れられるほど、現代のコンピュータは単なる計算にとどまらない多様な機能を持つ総合的な電子機器に発展している。
 計算機の原点は算盤のような手動の計算器具であり、その歴史はメソポタミア文明時代に遡るというが、近代的な機械式計算機は17世紀フランスの哲学者にして数学者・物理学者でもあったブレーズ・パスカルの発明にかかるとされている。
 徴税官だった父親の税額計算業務の負担を軽減するための機械を製作しようとしたことがきっかけだったとも言われるパスカルの計算機は十進法を基本としており、歯車式のものであった。
 その後、ドイツの哲学者・数学者ゴットフリート・ライプニッツがパスカルの計算機の改良版を考案するとともに、現代の情報科学における基本的な記数法である0と1を用いた近代的な二進法を考案した。二進法の定着は20世紀を待つが、近代的記数法に関してはライプニッツを祖とする。
 パスカルやライプニッツの時代は近代的な科学の黎明期に当たっており、この時代に機械式計算機や近代的記数法の原点があることは偶然ではなく、数学が科学と結合し始めたことを示している。実際、パスカルは流体力学の「パスカルの原理」で名を残す物理学者でもあった。
 数学は科学にはるか遡る歴史を持ち、古代文明の時代に発するが、数的概念を扱う数学において不可欠な計算という行為をより合理的かつ迅速に実行する手段として高度な計算機の需要が生じたことが機械式計算機、さらには電子計算機の発明を導いたと言える。その意味では、情報科学とは数学の科学化、数理科学であると言うこともできる。
 もちろん、算盤のような伝統的な計算補助具を超える精巧な自動計算機を開発するには、機械工学や電子工学といった新しい科学技術の発展が必要であった。そのため、本格的な自動計算機の開発はそうした科学技術が発達し始めた19世紀以降のこととなる。

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