新年早々に世界を驚愕させたアメリカの連邦議事堂集団乱入事件。昨年の大統領選挙の結果が「盗まれた」というトランプ大統領の主張を支持する者たちによって実行されたものであるが、こうした出来事を見ると、アメリカの政治が民主政から暴民政に変容しつつあることが看取される。
民主政は市民が理性的に思考し、行動できることを前提に成り立つものであるが、乱入に参加した暴徒たちは、選挙当局が発表した選挙結果を信ぜず、トランプ大統領の主張だけをひたすらに信じるという思考法を採っているがゆえに、あのような暴挙に出たのである。
こうした暴民の多くは、トランプ大統領とは対照的な中産階級もしくはそれ以下の階級に属していながら、富豪のトランプに心酔し、無条件に従うという奇妙なねじれを示している。このような傾向は、現代アメリカにおいて、反動的な扇動政治家に惹かれる思想的な根無し草の層がかなり厚くなっていることを示唆する。
そうした根無し草階層を扇動して熱狂的・盲目的な支持基盤とするのがすべてのファシズムに共通する特徴であり、現代アメリカでは、さしあたりトランプがアメリカン・ファシズム運動の象徴となっているのである。
それにしても、アメリカの根無し草階層は、アメリカ民主政の殿堂と言ってもよい連邦議事堂に乱入するだけのエネルギーを持ち合わせていることだけはわかった。しかし、残念ながら、かれらはエネルギーの使いどころを誤っている。
かれらのあり余るエネルギーを正しい方向に向け変えるためには、再びワシントンの学歴エリート層を呼び戻すことでは全くの逆効果である。2016年にトランプを当選させたのは、そうした学歴エリートによる支配に対するアメリカ国民の幻滅と反感だったからである。
このような学歴を主要な基準とする階級社会は、アメリカに限らず、現代のほぼすべての諸国で発現してきている現代的な階級社会のありようであるが、高等教育制度が世界で最も充実しているアメリカでは、トップエリートの大学院卒から中間の大学卒、そして高校卒以下という学歴階級制が明瞭に表れやすい。
近年のアメリカ社会を表すキーワードとなっている「分断」とは、単に共和党vs民主党とか、トランプ派vs反トランプ派といったメディアが掲げたがる形式的な図式ではなく、如上の学歴階級制による日常の思考法や行動原理にまで至るアメリカ国民の分裂状況を示している。
特に白人の(相対的な)低学歴層は、有色人種の社会進出が進み、白人より上位に浮上する有色人種も少なくない―その究極は初の有色人種大統領オバマ―現代アメリカ社会における人種間逆転に脅威やある種の嫉妬に基づく反感を募らせ、かれらをして反オバマを旗印に登場したトランプの熱狂的支持に向かわせているようである。
その点、公式の選挙結果によれば次の大統領となることが確実なバイデンの政権が、ワシントン学歴エリートのカムバック政権となるならば、政権がいくら美辞麗句として「分断」の修復を謳っても、問題の解決にはつながらないだろう。
現代のアメリカにおいて、正しくエネルギー転換を実行する根本的な方法は、我田引水を恐れず言えば、筆者が年来、提唱してきたような「民衆会議」の結成をおいてほかにないと考える。言わば、アメリカン・ファシズムへの流れをアメリカン・コミュニズムへと向け変えることである。