Ⅰ アメリカ―分権型多重警察国家
3‐2:合衆国国家守備隊の二面性
州警察を基軸とするアメリカの州レベルの警察集合体のほかに、州レベルの警察機能を持つ組織として重要性を持つのは、合衆国国家守備隊(United States National Guard)である。通常「州軍」と意訳されるこの組織は厳密には州の軍隊ではなく、正式名称どおり、合衆国の警察軍組織である。
たしかに、この組織の沿革は合衆国を構成する以前の各植民地の民兵団にあり、合衆国が成立し、連邦軍が組織された後も連邦軍に吸収されることなく、予備兵力として多くの戦争に動員されたきた軍事組織であるが、同時に、この組織は州の警察力が不十分な中、州内の治安秩序維持を主任務とする一種の警察軍としても機能してきた。
その意味で、予備兵力としての側面に傾斜して、これを「州軍」と意訳してしまうと、警察機能の面が削ぎ落され、アメリカにおける影の警察国家を組成するUnited States National Guardの二面的な役割が見落とされる恐れがある。
そうした軍事‐警察の二面性を持つ組織としての性格は二つの大戦を経て構築されてきた現行制度下でも維持されており、陸上隊と航空隊から成る国家守備隊は基本的に連邦軍の予備兵力として国防総省の管轄下に置かれ、連邦から予算を配分されつつ、平時には州知事の指揮下で州内の治安秩序維持等に従事するという二重の役割を担う。
このうち、後者の州内治安部隊としての役割において、州の警察集合体の一部を構成することになるが、ここでの国家守備隊の役割とは、州内での暴動・騒乱事態に際して出動・鎮圧する機動的な警備警察活動である。その点、自治体警察や州警察にも警備警察としての機能は備わっているものの、小規模組織が多く、大規模な事態には対処し切れないため、人員・装備も高度な国家守備隊の出動が要請されることになる。
この面での活動は主として州知事の自主的な判断に基づき、その指揮下で行われるが、例外的に、連邦全土に関わる事態に対しては、連邦政府の要請に基づき、州知事が出動を命ずる場合もあるという点では、部分的に連邦レベルの警備警察機能にもかぶっている。
国家守備隊の警備警察としての役割が飛躍的に高まったのは、1960年代、公民権運動やベトナム反戦運動が激化した際の騒乱鎮圧に際してであった、この時期の最も悪名高い国家守備隊の出動例として、1965年にカリフォルニア州で起きた人種騒乱に際してカリフォルニア州国家守備隊が出動し、鎮圧過程で1000人以上の死傷者を出したワッツ事件がある。
公民権運動や反戦運動の退潮に伴い、国家守備隊の治安出動事例は減少し、災害救助のような平和的任務が増発したが、近年、自治体警察による人種差別的な致死的法執行に抗議するデモが全米に拡散する中、再び国家守備隊の治安出動例も出ており、警備警察機能が再強化されつつある。