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比較:影の警察国家(連載第22回)

2020-11-14 | 〆比較:影の警察国家

Ⅰ アメリカ―分権型多重警察国家

3‐3:州の政治警察機能

 アメリカにおける政治警察機能は、以前の回で見たように、FBIをはじめとする連邦警察集合体に属する諸機関が中心的に担っているが、9.11事件後の「テロとの戦い」テーゼは、各州レベルでの政治警察機能の強化をも結果している。
 その点、日常的な犯罪の取り締まりに注力せざるを得ない自治体警察は政治警察機能まで十分に担うことが困難であるため、ニューヨーク市警やロサンゼルス市警のように独自の対テロリズム部署を稼働できる大都市警察の場合を除いて、州の政治警察機能は基本的に州公共安全省が担う構制となる。
 例えば、最古の州警察テキサス・レンジャーで有名なテキサス州の場合は、州公共安全省内に諜報・対テロリズム局(Intelligence and Counterterrorism Division)が、レンジャーとは別立ての独立部局として設置されている。
 一方、公共安全省を持たないニューヨーク州では、ニューヨーク州警察内の対テロリズム室(Office of counter terrorism)の下に、州警察諜報センター(State Police Intelligence Center)が稼働している。ニューヨーク市警の対応部署との二重的な稼働である。ニューヨーク州は9.11事件の現場となった州だけに、こうした二重構えの政治警察機能を備えている。
 これらとは別に、連邦レベルにおける国土保安省に対応する治安総合機関として、機関名は州によりまちまちながら、州国土保安部局(State Offices Of Homeland Security)と総称される機関が設置されるようになっている。
 例えば、ニューヨーク州では、国土保安・緊急サービス局(Division of Homeland Security and Emergency Services)がそれに該当する。テロの危険度が相当に低い辺境飛び地州のアラスカ州でさえ、ほぼ同一名称の国土保安・緊急事態管理局(Division of Homeland Security and Emergency Management)を擁している。
 これらは連邦レベルの国土保安省の州版といった位置付けで、州内警察集合体の対テロリズム部署や連邦の国土保安省と連携して活動する調整機関であり、それ自体は警察機関ではないが、州レベルの政治警察機能を円滑にする役割を持つ。
 テロリズムの未然防止のためには、犯人の地元州レベルでの監視・諜報活動も重要であることが認識されるにつれ、こうした州レベルでの政治警察機能がよりいっそう強化される可能性もあり、連邦のそれと合わせて、影の警察国家化が進展するかもしれない。


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