信仰、信条及び意見の自由
【第15条】
1 何人も、良心、信仰、思想及び意見の自由を有する。
2 宗教的儀式は、国または国が補助する組織において、次の条件の下に行なうことができる。
(a) それらの儀式は、適切な公的機関によって制定された規則に従うこと。
(b) それらは、公正な原則に基づいて行なわれること。
(c) 参列は、自由かつ自発的なものであること。
3 (a) 本条は、次のことを承認する立法を妨げるものではない。
(ⅰ) 何らかの伝統的または宗教的、個人的または家族的な法体系の下に行なわれる婚姻
(ⅱ) 何らかの伝統の下にあり、または特定の信仰を告白する個人が信奉する個人的もしくは家族的な法体系
(b) a号の規定する承認は、本条及びこの憲法の他の条項と合致していなければならない。
本条から第19条までは、精神的及び政治的自由に関する規定である。本条は精神的自由の出発点となる思想・信条の自由について規定する。特に信仰の自由に力点を置いている。
第2項は、特定の条件下では国や国が補助する組織による宗教的儀式を認めるという形で、緩やかな政教分離の原則を示す。一方で、第3項は伝統や個人的信仰に基づく法慣習を承認することで、信仰の自由を最大限保障する。この点で、南ア憲法は政教分離と信仰の自由の微妙なバランスを追求しようとしている。
表現の自由
【第16条】
1 何人も、表現の自由を有する。それは次の権利を含む。
(a) 報道その他のメディアの自由
(b) 情報もしくは思想を受け取り、または伝える自由
(c) 芸術的創造の自由
(d) 学問の自由及び科学研究の自由
2 第1項の権利は、次のことには及ばない。
(a) 戦争プロパガンダ
(b) 差し迫った暴力の煽動
(c) 人種、民族、性別役割または信仰に基づき、かつ害悪を惹起する煽動を構成する憎悪の唱導
本条は、精神的自由の中核となる表現の自由について、第1項でその内容を過不足なく具体化するとともに、第2項では戦争プロパガンダや暴力煽動、特定の差別的憎悪表現には表現の自由の保障を及ぼさないことを明示することで、表現の自由の限界を明確にしている。現代的水準における表現の自由とは、まさしく本条で規定されているような権利であると定義できるかもしれない。
集会、集団行動、ピケット及び請願
【第17条】
何人も、平和的かつ非武装による集会、集団行動、ピケット及び請願の自由を有する。
本条は集団的な表現の自由に関する包括的な規定である。通常は労働争議の際に行なわれるピケットの自由も明示されていることが特徴である。
結社の自由
【第18条】
何人も、結社の自由を有する。
本条は結社の自由に関するごく簡単な規定であるが、これは次の政治的権利につながる前提規定とも読める。
政治的権利
【第19条】
1 すべての市民は、自由に以下の権利を含む政治的選択をすることができる。
(a) 政党を結成すること。
(b) 政党の活動または政党員の募集に参加すること。
(c) 政党または政治的大義のために運動すること。
2 すべての市民は、この憲法によって設立されたあらゆる立法機関の自由、公正かつ定期的な選挙権を有する。
3 すべての成人市民は、次の権利を有する。
(a) この憲法によって設立されたあらゆる立法機関の選挙で投票し、かつ匿名ですること。
(b) 公職に立候補し、当選すれば役職に就くこと。
本条は、政党結成の自由や政党活動等の自由と選挙権・被選挙権とを政治的権利として包括的に保障する規定である。ブルジョワ民主主義の標準モデルである多党制に基づく選挙政治の原則をとることが明確にされている。ただし、南アの政治的現実は、かつての反アパルトヘイト闘争組織であったANC(アフリカ民族会議)の一党優位支配である。
市民権
【第20条】
いかなる市民も、市民権を剥奪されない。
本条は、政治的権利の法的前提となる市民権の絶対性を保障する規定である。黒人参政権を否定したアパルトヘイトから脱した現南アにとって、市民権はそれ自体最重要の権利である。なお、ここ言う市民権とは国籍を前提するものであり、外国人に市民権は保障されない。