移動及び居住の自由
【第21条】
1 何人も、移動の自由への権利を有する。
2 何人も、共和国を去る権利を有する。
3 すべての市民は、共和国に入国し、滞在し、いかなる場所にも居住する権利を有する。
4 すべての市民は、パスポートを取得する権利を有する。
本条から次回に見る財産権に関する第25条までは、労働基本権や環境権を含む広い意味での経済的自由を規定する。本条は、経済行為に前提となる移動及び居住に関する自由をまとめている。内容は標準的だが、移動と出国の自由は外国人を含むすべての人に保障され、入国・滞在・居住とパスポートの取得は国民に限られた権利として、わかりやすく分別されている。
営業、職業及び専門職の自由
【第22条】
何人も、営業、職業または専門職を自由に選択する権利を有する。営業、職業または専門職の実践は法によって規制されることがある。
広い意味での職業選択の自由とその規制に関する標準的な規定である。法文上はtrade(営業)、 occupation(職業)、professsion(専門職)を区別して規定しているが、すべてを包括している。
労働関係
【第23条】
1 何人も、公正な労働慣行への権利を有する。
2 すべての労働者は、次の権利を有する。
(a) 労働組合を結成し、加入すること。
(b) 労働組合の活動及び行事に参加すること。
(c) ストライキをすること。
3 すべての雇用者は、次の権利を有する。
(a) 雇用者団体を結成し、加入すること。
(b) 雇用者団体の活動及び行事に参加すること。
4 すべての労働組合及びすべての雇用者団体は、次の権利を有する。
(a) その運営、行事及び活動を自己決定すること。
(b) 組織すること。
(c) 連合を結成し、加盟すること。
5 すべての労働組合、雇用者団体及び雇用者は団体交渉に関与する権利を有する。団体交渉を規制する国の法律が制定されなければならない。当該法律が本章の権利を制限する場合、その制限は第36条第1項[訳出者注:必要最小限度の権利制限基準]に従わなければならない。
6 国の法律は、団体合意に含まれる組合保障協定を承認する。当該法律が本章の権利を制限する場合、その制限は第36条第1項に従わなければならない。
本条は、労働基本権を中心に規定しているが、同時に雇用者側の団体組織権も対等に規定している。その点で、南ア憲法は労働基本権を社会権に含めるのではなく、労使対等の関係を前提に、労働基本権を経済的自由の中に取り込もうとしている。これは、社会民主主義よりブルジョワ自由主義に接近した規定の仕方と言えるかもしれない。
環境
【第24条】
何人も、次の権利を有する。
(a) 健康や福祉にとって害のない環境に接すること。
(b) 以下の目的のための合理的な立法及び他の手段を通じて、現在及び未来の世代の利益のために環境を保護させること。
(ⅰ) 環境汚染及び生態系の悪化を防止すること。
(ⅱ) 環境保全を推進すること。
(ⅲ) 正当な経済的・社会的開発の推進の一方で、生態学的に持続可能な開発及び自然資源の利用を確保すること。
本条は環境権に関する規定であるが、環境権も憲法体系上経済的自由に含めていることが特徴的である。その真意は必ずしも明確でないが、規定の内容は国連も推進する「持続可能な開発」テーゼに沿った標準的な内容であり、環境権の過不足ない簡潔な定義条項ともなっている。