Ⅰ アメリカ―分権型多重警察国家
2‐3:自治体警察の強権的法執行
アメリカの自治体警察の現代的な傾向として、しばしば被疑者を殺傷するような強権的法執行の度を強めていることが挙げられる。このような傾向性を生み出す一つの要因として、前回見たSWATチームの全米的な配備に象徴される警察の準軍事化がある。
これは要するに、犯行現場、より広くは法執行の現場を戦場に見立てて、警察官が戦闘と同等の装備と方法で職権行使することを意味するから、致死的実力行使が容易に正当化されやすいが、SWATチームの兼任要員が多いことで、通常の法執行でも致死的実力行使が多発しやすくなるということであった。
しかし、元来、アメリカでは裁判官による令状に基づかない逮捕が広範に認められており、重罪の場合はほぼ無令状で逮捕可能とされるため、警察官は被疑者に対して現行犯並みに力で制圧し、拘束することが通例であることから、過剰な実力行使が多発しやすい環境にある。
もっとも、ひとたび生きたまま逮捕した後は、アメリカ憲法修正第14条のいわゆるデュー・プロセス条項により、比較的厳格な司法審査が予定されるが、そもそも被疑者が法執行の現場で射殺されたり、制圧中に窒息死させられたりすれば、後の祭りである。
こうした元来から存在する法の欠陥による強権的な法執行が、さらに1990年代に制定された連邦レベルの厳罰化法によって助長されてきた側面もある。それは1994年のクリントン政権時代に制定された「暴力犯罪統制及び法執行法」(Violent Crime Control and Law Enforcement Act)と呼ばれる包括法である。
同法は、クリントン政権の厳罰化政策に基づき、当時のジョー・バイデン上院議員(2021年1月より合衆国大統領)が中心となり、全米的な警察のロビー団体である全国警察組織協会とも連携しながら制定した新法である。そうした制定の経緯からしても、警察組織肝入りの新法であった。
内容的には、暴力犯罪に対する様々な施策を包括したものであるが、中でも警察官の大増員による犯罪取締り体制の強化は大きな柱であり、結果として警察組織の肥大化を招いた。
警察組織の肥大化は比較的軽罪での逮捕・投獄も促進し、かつ上掲新法が併せて掲げた刑務所の増設策とも相まって、刑務所人口の右肩上がりの増大を招き、アメリカをして世界最大の「刑務所群島」とする要因ともなった。
また、自治体警察の強権的法執行は、単に実力行使の過剰さのみならず、人種偏見により、アフリカ系(黒人)の被疑者に対して乱発されやすい傾向も増している。結果として、アフリカ系の被疑者が警察官によって殺傷されるケースが跡を絶たない。
このような傾向は、近年、Black Lives Matter(黒人の命は重要だ)運動を誘発し、全米で抗議デモが発生する事態を招いているが、奴隷制や人種隔離政策時代からの歴史的な人種差別慣行が、上掲のような厳罰化法制に助長されつつ、法執行の現場に投影されたものであるため、根本的な解決は困難な状況である。