第10章 恒久平和
〈非戦〉
【第54条】
世界共同体に結集する民衆は、いかなる名目または理由もしくは形態によるものであるかを問わず、およそ戦争及び戦争に準ずる武力の行使または武力による威嚇を人類の生存及び地球の持続可能性を脅かす歴史的な悪習とみなし、永久にこれを行なわない。
[注釈]
恒久平和に関する原則的な宣言である。ここで宣言されているのは、消極的な戦争放棄ではなく、戦争否定すなわち非戦である。
戦争放棄は、戦争という選択肢を残しつつも、あえてそれを放棄するという限りで、なお戦争というカードへの未練を残した消極的な規定であるが、非戦はより積極的に、戦争という行為そのものを自己破壊・地球環境破壊の歴史的な悪習とみなし、およそ実行しないという強い含意がある。
本条における非戦の主体は、世界共同体に結集する民衆総体である。ここで否定される戦争は、名目も理由も問わないから、侵略戦争はもちろん、自衛戦争も含まれ、形態としても内戦・外戦いずれも含まれる。
〈軍備廃絶〉
【第55条】
1.世界共同体構成領域圏は、前条の目的を達するため、兵器または軍隊もしくはその他の名目を問わず、いかなる軍備も保持してはならない。
2.この憲章が発効した時点でなお軍備を保持している構成領域圏は、別に定める条約の規定に従い、すみやかに軍備廃絶を推進するものとする。
3.世界共同体が認定した独立宗教自治圏域については、その独立性を保持するために必要にして最小限度の武装組織を保有するか、または世界共同体平和維持巡視隊に防衛任務を委託するかを選択することができる。
[注釈]
前条の非戦条項を現実的・物理的に担保するための軍備廃絶条項である。廃絶対象は、兵器(通常兵器を含むあらゆる兵器)のような物的軍備と軍隊のような人的軍備のすべてである。さらに、別の名目を掲げていても、実質上軍備とみなされる装備や組織も禁止対象となる。
とはいえ、軍備の廃絶には相応の時間を要するため、世界共同体憲章とは別途、条約(軍備廃絶条約)を締結し、憲章が発効した時点でなお軍備を保持している構成領域圏の軍備廃絶プロセスを法的にも保障する必要がある。
ただし、バチカンに代表されるような独立宗教自治圏域(第23章)は世界共同体憲章の適用外であるから、必要最小限度の武装組織を独自に保有するか、世界共同体の常設平和維持組織である平和維持巡視隊に防衛任務を委託するかの選択権を持つ。もちろん、完全非武装を選択することもできる。