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出生前診断や生殖医療の倫理的側面 喫煙で不妊や先天異常が増加 平成24年度母子保健講習会報告(3)

2013年02月26日 | こども・小児科
 出生前診断や生殖医療には技術的・医学的側面のみならず倫理的側面が大きな問題となるが、講演でも深く掘り下げられたわけではなく、受講者も特に不満はなかった。と言うのは、技術がいくら進んでも根本となる議論はほとんど変化していないからだ。そして、常に技術と臨床応用が先行し、そこに商業主義が入り込んできたという現実がある。今回の新しい出生前診断騒動にしても、誰でも簡単に99%の精度で診断がつくと報道した側の問題もあるが、基本は命の選別と商業主義であることには変わりない。

 ダウン症だけが焦点となっているが、予後の良くない18トリソミーや13トリソミーなら議論の余地はないのか。ダウン症で積極的に中絶を勧める小児科医は稀だと思うが、18トリソミーでも数年という長期生存例が数多く報告されている。講演でも強調されたが、正常と異常、遺伝子の多様性などについての教育と一般の理解が不足している点が大きな問題と言える。

 生殖補助医療に関して私は批判的な視点から見続けてきたが、その一つの理由として、卵子・精子提供でも問題となる子どもの出自を知る権利がないがしろにされてきた歴史がある。

 晩婚化や高齢出産の増加について根本的な解決は難しいが、子育て支援策の中で「適齢期」に産んで育てられる社会に戻していくしかない。もう一つの問題として、両親の喫煙が不妊や先天異常の増加に寄与しているはずだが、どこでも全く触れられていないことに違和感を覚える。

 小児保健法に関しては、報告書で長期的課題として先送りされた育児保険構想がその中核であり、子ども家庭関連支出の財源を確保し増加させるためにはこれしかないのだろうと考えている。ハードルは非常に高く世論の喚起が必要だが、現政権においてまず成立を目指すためには公明党の協力が鍵となるものと思われる。

小児保健法をめぐって 子育て支援の財源をフランス並に確保するために 平成24年度母子保健講習会報告(2)

2013年02月26日 | こども・小児科
シンポジウム「小児保健法をめぐって」

1)「小児保健法」とは
   松平隆光(日本小児科医会会長)

 日本の家族関係社会支出は米国に次いで低く、高齢者給付費に比べるとほとんど増加していない。世代間格差も大きく貧困率も高い。子どもへの公的支出と出生率は直線的な関係にあり、日本は共に最低レベルにある。フランス並のGDP比3%に引き上げるには、さらに2%(約10兆円)の子育て支援費用が必要である。

 小児保健法とは、子どもの権利を認め、健全に成長するための環境づくりと、それを社会で支えるシステムを制度化するための、子どもに関する諸法規の隙間を埋める法律である。子ども家庭省への行政一本化、高齢者偏重の社会保障給付から子育てへの財源確保、地域格差や世代間格差の是正、全てのワクチンの無料化などを盛り込んでいる。1991年以来検討を重ね、2008年に日医委員会報告を答申し、当時の自公政権下で法制化の動きもみられたが、民主党への政権交代後は足踏み状態にあった。

→小児保健法検討委員会(プロジェクト)答申(平成20年1月 日本医師会)

2)英国の小児保健政策
   森 臨太郎(国立成育医療研究センター成育政策科学研究部長)

 英国の小児保健・医療政策はブレア、ブラウン、キャメロン政権により大きく変換した。三代首相の家族の事情も後押しした政治主導と、虐待死事件などを背景とした世論の高まりにより、他の欧州各国に比べて劣悪とされていた小児保健の構造的問題が改善した。11項目に及ぶ10か年計画が2004年から実施されている。

 医療から福祉・教育を含めた保健や予防医学へという流れが明確となり、古典的な母子保健から、今ある問題をベースとした根拠に基づく評価と政策策定、導入という枠組み(診療ガバナンス)が取り入れられ、小児保健政策に反映されていった。子ども家庭関連社会保障支出が低く、新生児死亡率が最低であるにも関わらず幼児死亡率の高い日本の小児保健政策の改善に向けて、英国の経緯は示唆に富んでいる。

3) 育児保険(子育て基金)構想
   山崎泰彦(神奈川県立保健福祉大学名誉教授)

 現在の子育て支援策は社会福祉と社会保険システムが併存しており、介護保険導入前の介護に類似している。介護と同様に「育児の社会化」をはかり、財政基盤を強化し、自立・権利・参加意識を高めるために、子どもの有無に関わらず現役世代が負担する保険料に加えて租税を重点配分する育児保険構想を提唱し、小児保健法では長期的課題として位置づけられた。

 保育などのサービス(現物給付)中心の地域保険(介護保険)モデルと、児童手当などの現金給付中心の国民保険(年金保険)モデルの両面を併せ持つ総合保険モデルが考えられている。

 新たな保険料負担、単身者・高齢者や事業主の理解、女性の意識の二分化、厳しい財政状況や政治への影響力不足などの課題が山積しているが、社会保障国民会議でも将来世代に負担を先送りしないという方向性では一致している。

4) 「子ども子育て支援新制度(関連三法)」について
   橋本泰宏(厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長)

 子ども・子育て支援法、認定こども園法、関係整備法の三法制定により、内閣府に体制が一本化され、消費税の使途も年金・医療・介護に加えて子育てが明記された。安定財源として0.7兆円を確保し、残り0.3兆円の財源確保に「最大限努力する」と三党合意で確認された。

 認定こども園には既存の幼稚園・保育所からの移行は義務づけず、株式会社の参入は不可とされた。小規模保育などの地域型保育給付に加えて、地域の実情に応じて市町村が実施する地域子ども・子育て支援事業として、一時預かりや乳児家庭訪問、養育支援訪問事業などの13事業を位置づけた。本格始動は平成27年度からの予定で、26年度から一部先行実施される。

(山崎泰彦先生の崎の字は上が大ではなく立です)

出生前診断の新たな展開、生殖医療の未来 平成24年度母子保健講習会報告(1)

2013年02月26日 | こども・小児科
 日本医師会主催の母子保健講習会を受講してきたので、報告書(八戸市医師会報掲載予定)を3回に分けて掲載します。2回目までが講演の内容のメモ。3回目は感想と私見です。

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平成24年度母子保健講習会
平成25年2月17日(日) 東京都 日本医師会館

 東京は快晴、旧東海道をジョギング。えんぶり初日の八戸は湿った大雪。今回は出生前診断、生殖医療と、小児保健法を中心とした子育て支援政策についての密度の濃い講演を受講した。

メインテーマ「子ども支援日本医師会宣言の実現を目指して-7」

講演

1) 出生前診断の新たな展開とその課題
   平原史樹(横浜市立大学附属病院長)

 母体血胎児DNA出生前診断(NIPT)について学会から運用の指針案が提議されている。NIPTは染色体分析検査ではなく胎児・胎盤由来cell-free DNAを用いた診断であり、確定には羊水検査が必要である。陽性的中率は一般の集団では低下するため、マススクリーニングではなくハイリスク群に限定し、認定施設において複数回の遺伝カウンセリングが必須である。

 ダウン症の出生率は高齢出産の増加に伴い増加し続けている。日本では中高生の生物学教育で遺伝子の多様性についてほとんど教えられていないことが大きな問題である。

2)わが国の生殖医療の未来に求めるもの
   吉村泰典(慶應義塾大学産婦人科教授)

 生殖補助医療(ART)により全世界で500万人、わが国でも27万人以上の子どもが誕生している。国内でART出生児は総出生児数の2%を超え、欧米では3~4%に達している。日本では欧米より治療年齢が2~3歳高齢で、38歳を過ぎると妊娠・生産率は急速に低下する。

 多胎児は90年代に急増して問題となったが、二度の会告により三胎以上は減少した。胚移植は2個よりも1個の方が予後は良い。着床前遺伝子診断は学会ガイドラインで規制しつつ容認しているが、着床前スクリーニングは禁止している。規制は国により異なり、男女産み分けのための海外渡航が現実化している。

 米国では40歳以上は卵子提供が主で、ARTの12%に達している。卵子提供には倫理・医学両面での問題が存在する。そのほか、クローン技術を応用した受精卵の治療、凍結受精卵、卵巣凍結・移植、ES細胞やiPS細胞から生殖医療への展開の可能性と限界などについても解説された。

■ 卵子提供による妊娠
1. 倫理的問題点
・提供者に過排卵操作によるリスクを負わせる
・金銭の授受
・家族関係や人間関係が複雑になる
2. 医学的問題点
・高齢妊娠による産科的リスク
・卵子提供による遺伝的不適合