クルーズ船乗客への全員検査が議論されているようですが、感染症の専門家がPCR検査でも偽陰性があり得ると述べていたので、どの程度なのか調べようと思っていたところ、次のような解説記事が昨日(2/12)掲載されていました。
「有病率が上がれば陰性的中率は下がる(検査で陰性でも感染している可能性は上がる)」という原則は、どの検査、どの病気でも変わりありません。
クルーズ船の乗客の有病率が上がってきていると仮定すると、全員検査で陰性とされた人の中で、数十名の偽陰性者が「感染なし」と判断される可能性があります。
一方で、ホテルに隔離していた帰国者は、十分な日数が経っていて症状がない人達なので、有病率は非常に低いと考えられ、検査で陰性なら感染なしと判断することができます。
以前作成した、計算式が埋め込まれているエクセルのシートにこの記事の数字を当てはめてみて、全て確認できました。
数字の羅列では理解しにくいので、「」内に引用・抜粋した文章と、それぞれについての図表と数字を出して説明してみます。
■ 新型コロナウイルス感染症との闘い 知っておくべき検査の能力と限界 2020.02.12 鎌江伊三夫
https://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20200212_6236.html
「4つの可能性:①真陽性(「感染あり」で陽性)、②偽陰性(「感染あり」なのに陰性)、③偽陽性(「感染なし」なのに陽性)、④真陰性(「感染なし」で陰性)」
「PCR検査は、検体から得られた遺伝子を増幅し、遺伝子レベルでウイルスを特定する方法である。そのため、一般には、感度も特異度もかなり100%に近い値になるのではないかと考えられる」
→ここで、基本の表を出しておきます。准看護学院の講義に使っているものです。
感度と特異度は検査の性質・精度に関する指標、
陽性的中率・陰性的中率は検査結果の判断に関する指標です。
有病率は(a+c)/(a+b+c+d)です。
感度、特異度、有病率の3つが変数となるので、同じ検査結果でも判断は異なってきます。
「ここではリスク分析上の通例としてやや低めに見積もり、感度95%、特異度99.9%と仮定」
「想定される有病率が1%とかなり低い場合でも、陽性適中率91%、陰性適中率99.95%と算出される」
→表の★のところに、感度95%、特異度99.9%、有病率1%を入れると、陽性的中率90.56%、陰性的中率99.95%と計算されます。
有病率が低いときには、検査で陰性なら感染していないと判断して差し支えありません。
(それでも1万人に5人は偽陰性となる)
ただし、この有病率の数字は実際にはわからないので、臨床的な流行状況から見当をつけて判断することになります。
「439人のうち135人が陽性。名目の有病率は31%」
「有病率を同レベルの30%としてみよう。全乗客・乗員数3711人から439人は除いて、全員検査の対象は3272人を想定」
「偽陰性49人、偽陽性2人、陽性適中率は99.8%、陰性適中率も97.9%と推計」
→同様に有病率30%、検査対象者の3272人を入れると、この記事の数字が出てきます。
ここで、陰性的中率は97.9%と高そうに思えますが、対象者数が多くなると、偽陰性者数の49人は無視できない数字となります。
(文中では「適中率」と表記されていますが同じものです。臨床医学では「的中率」が通常使われていると思います。)
「有病率が50%であれば、推計される偽陽性はほぼ同じの2人であるが、偽陰性は82人」
→同様に、図表の通りです。陰性的中率は95.2%に低下します。
「全員検査を行えば、2人に濡れ衣を着せ、49人から82人ほどの感染者を見落とすことになる」
→臨床診断ではPCR検査の結果で最終判断するので、「濡れ衣」(偽陽性)の2人が誰だということはわかりません。
同じように、偽陰性者の49〜82人というのも特定できないので、全ての陰性者について「感染している可能性は否定できない」ということを、本人も、政府・メディア関係者も、国民も知っておく必要があります。
ちなみに、この解説記事では最初にことわっているように感度95%と低めに見積もっているので、これを99%まで上げれば、有病率30%の時に陰性者2298人中10人、50%では1651人中16人まで偽陰性は減少します。
減りはしますが、「陰性でも感染している可能性は否定できない」という結論は同じです。
「以上のような問題をできるだけ避けるためには、本来、集団スクリーニングは、対象をハイリスク集団に絞って行うべきものである。この原則に従えば、水際作戦としての感染防御の観点からは、全員検査を急いでやるべきではないとの結論になる。その意味で、これまでの厚労省が取ってきた方法は間違っていないと言えよう」
「医師や公衆衛生の専門家と呼ばれる人からも、全員検査を行うべきとの意見が聞かれるのは、まさに驚きである」
今回のような混乱は、日本人の検査至上主義と、検査の特性に対する基本的知識の不足(全員に検査すればシロかクロかがはっきり分かると思っている)によるものと言えます。
正しく恐れるためには、最低限の知識は必要なのです。
(上記のような用語や数式まで覚える必要はありませんが)
「有病率が上がれば陰性的中率は下がる(検査で陰性でも感染している可能性は上がる)」という原則は、どの検査、どの病気でも変わりありません。
クルーズ船の乗客の有病率が上がってきていると仮定すると、全員検査で陰性とされた人の中で、数十名の偽陰性者が「感染なし」と判断される可能性があります。
一方で、ホテルに隔離していた帰国者は、十分な日数が経っていて症状がない人達なので、有病率は非常に低いと考えられ、検査で陰性なら感染なしと判断することができます。
以前作成した、計算式が埋め込まれているエクセルのシートにこの記事の数字を当てはめてみて、全て確認できました。
数字の羅列では理解しにくいので、「」内に引用・抜粋した文章と、それぞれについての図表と数字を出して説明してみます。
■ 新型コロナウイルス感染症との闘い 知っておくべき検査の能力と限界 2020.02.12 鎌江伊三夫
https://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20200212_6236.html
「4つの可能性:①真陽性(「感染あり」で陽性)、②偽陰性(「感染あり」なのに陰性)、③偽陽性(「感染なし」なのに陽性)、④真陰性(「感染なし」で陰性)」
「PCR検査は、検体から得られた遺伝子を増幅し、遺伝子レベルでウイルスを特定する方法である。そのため、一般には、感度も特異度もかなり100%に近い値になるのではないかと考えられる」
→ここで、基本の表を出しておきます。准看護学院の講義に使っているものです。
感度と特異度は検査の性質・精度に関する指標、
陽性的中率・陰性的中率は検査結果の判断に関する指標です。
有病率は(a+c)/(a+b+c+d)です。
感度、特異度、有病率の3つが変数となるので、同じ検査結果でも判断は異なってきます。
「ここではリスク分析上の通例としてやや低めに見積もり、感度95%、特異度99.9%と仮定」
「想定される有病率が1%とかなり低い場合でも、陽性適中率91%、陰性適中率99.95%と算出される」
→表の★のところに、感度95%、特異度99.9%、有病率1%を入れると、陽性的中率90.56%、陰性的中率99.95%と計算されます。
有病率が低いときには、検査で陰性なら感染していないと判断して差し支えありません。
(それでも1万人に5人は偽陰性となる)
ただし、この有病率の数字は実際にはわからないので、臨床的な流行状況から見当をつけて判断することになります。
「439人のうち135人が陽性。名目の有病率は31%」
「有病率を同レベルの30%としてみよう。全乗客・乗員数3711人から439人は除いて、全員検査の対象は3272人を想定」
「偽陰性49人、偽陽性2人、陽性適中率は99.8%、陰性適中率も97.9%と推計」
→同様に有病率30%、検査対象者の3272人を入れると、この記事の数字が出てきます。
ここで、陰性的中率は97.9%と高そうに思えますが、対象者数が多くなると、偽陰性者数の49人は無視できない数字となります。
(文中では「適中率」と表記されていますが同じものです。臨床医学では「的中率」が通常使われていると思います。)
「有病率が50%であれば、推計される偽陽性はほぼ同じの2人であるが、偽陰性は82人」
→同様に、図表の通りです。陰性的中率は95.2%に低下します。
「全員検査を行えば、2人に濡れ衣を着せ、49人から82人ほどの感染者を見落とすことになる」
→臨床診断ではPCR検査の結果で最終判断するので、「濡れ衣」(偽陽性)の2人が誰だということはわかりません。
同じように、偽陰性者の49〜82人というのも特定できないので、全ての陰性者について「感染している可能性は否定できない」ということを、本人も、政府・メディア関係者も、国民も知っておく必要があります。
ちなみに、この解説記事では最初にことわっているように感度95%と低めに見積もっているので、これを99%まで上げれば、有病率30%の時に陰性者2298人中10人、50%では1651人中16人まで偽陰性は減少します。
減りはしますが、「陰性でも感染している可能性は否定できない」という結論は同じです。
「以上のような問題をできるだけ避けるためには、本来、集団スクリーニングは、対象をハイリスク集団に絞って行うべきものである。この原則に従えば、水際作戦としての感染防御の観点からは、全員検査を急いでやるべきではないとの結論になる。その意味で、これまでの厚労省が取ってきた方法は間違っていないと言えよう」
「医師や公衆衛生の専門家と呼ばれる人からも、全員検査を行うべきとの意見が聞かれるのは、まさに驚きである」
今回のような混乱は、日本人の検査至上主義と、検査の特性に対する基本的知識の不足(全員に検査すればシロかクロかがはっきり分かると思っている)によるものと言えます。
正しく恐れるためには、最低限の知識は必要なのです。
(上記のような用語や数式まで覚える必要はありませんが)