脱原発を阻止する「悪の枢軸3A」
今回ここに書くことは、当協会(註:青森県保険医協会)や環境部の統一見解ではなく私見であることを先にお断りしておきます。
私は脱原発の動きを阻む「アベ・アメリカ・アオモリ」の3つを「悪の枢軸3A」と呼んでいる。2012年10月1日号に「『最低(菅政権)と最悪(野田政権)の選択』の後に、どのような選択を示すのか、見通しは暗いが希望を捨てることは出来ない」と書いた。その後の安倍政権の2年間で何が起きたかはご存知の通りである。原子力ムラの回帰路線にどっぷりと漬かっている「アベ」は論外として、「アメリカとアオモリ」が大きな障害となっている現実を述べたい。
再処理の「特権」をめぐる日米の駆け引き
日米原子力協定について詳細な知識を持ち合わせていないが、最重要ポイントは非核保有国で唯一、核燃サイクル・再処理を認められている点だと理解している。この協定は30年間の有効期間が2018年に満期を迎える。米国政府としては日本に無条件でこの「特権」を継続させて余剰のプルトニウムを保有させることは避けたい。日本政府としては「潜在的核保有力」を維持するために「特権」を継続させたい。そのためには全量再処理路線を維持して、プルトニウムを全部燃やすのだというポーズを取りたい。その証拠として、六ヶ所再処理工場が(どのような状況であれ)少しでも稼働しているという実績を作っておくことが必須。
一方、米国側とすれば、国内の原発産業は競争力を失っており、既に日本企業と合併・提携関係にある。しかし、「核なき世界」でノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領は、旧来の「米国(核)軍事力による世界秩序維持」路線に復帰しており、米国の原子力産業のプレゼンスを維持するためには、日本が原発ゼロを選択することは許されない。
素人目には米国の「原発維持で再処理ノー」に隷属するなら直接処分しかないだろうと考えるのだが、そのあたりは判然としない。この「2018年問題」は見通しが不透明な状況だが、再処理を止める最大の圧力になる可能性が高い。太田昌克著『日米〈核〉同盟 原爆、核の傘、フクシマ』(岩波新書)の後半に経緯や状況が詳述されているので紹介しておく。
「核のゴミ」の全量返還が脱原発の最大の障害
本稿の主題はアメリカではなく「アオモリ」。上述の2012年の当欄で「原発ゼロでも核燃サイクル堅持を喜ぶ青森県」と題して青森県および六ヶ所村が当時の民主党政権の「原発ゼロ」路線への転換を阻んだ経緯をリアルタイムに書いた。「原発ゼロ・再処理中止」なら六ヶ所の「核のゴミ」を全量返還すると脅しをかけて、当時も現在も国民の多数意見である脱原発路線を覆させたという歴史的事実を青森県民はどのように考えるのだろうか。
多額の核燃マネーとの引き換えで、「全量再処理」という名目の元に受け入れ続けてしまった核燃料廃棄物。これを全量返還することは物理的に不可能なのに加えて、青森県も六ヶ所村も本当に返還されて核燃料税がゼロになってしまえば直ちに困窮してしまう。ただの「はったり」に過ぎない。
ここで三村知事が錦の御旗として振りかざしたのが政府との空約束(協定としての効力はない)であり、その根拠として、青森県を核のゴミ捨て場にさせないという県民の声、なかんずく反核燃派の主張が駆け引きの道具として(再処理中止を阻止する屁理屈に)利用されているというのが現実なのだ。
20年、30年来の反核燃の戦士には、遅れて出て来た口先だけの人間の意見など片腹痛いだろうと想像するが、もし今すべての原発の再稼働を阻止できたとしても、現存する核燃料を移動させることはすべきではなく、今ある場所で管理するしかない。
批判を覚悟の上で書かせてもらえば、原発再稼働を阻止して原発ゼロを本気で求めるのなら、その障害となっている「核のゴミ全量返還」という実現不可能な建前を返上し、脱原発・反核燃派が率先して「長期の乾式中間貯蔵による税収確保と全原発停止」という選択肢を積極的に求めるしかないと考える。
ただし、この「長期」というのは、私たちが生きている間には終らない。どの道を選択するにせよ、私たちは孫やその先の世代に負の遺産を押しつけることしかできない。ここに書いたことも、現実的には実現できそうにないとは感じている。それを承知であえて問いたい。
(この文章は青森県保険医協会の会員向け新聞2014年11月1日号に掲載したものです)
今回ここに書くことは、当協会(註:青森県保険医協会)や環境部の統一見解ではなく私見であることを先にお断りしておきます。
私は脱原発の動きを阻む「アベ・アメリカ・アオモリ」の3つを「悪の枢軸3A」と呼んでいる。2012年10月1日号に「『最低(菅政権)と最悪(野田政権)の選択』の後に、どのような選択を示すのか、見通しは暗いが希望を捨てることは出来ない」と書いた。その後の安倍政権の2年間で何が起きたかはご存知の通りである。原子力ムラの回帰路線にどっぷりと漬かっている「アベ」は論外として、「アメリカとアオモリ」が大きな障害となっている現実を述べたい。
再処理の「特権」をめぐる日米の駆け引き
日米原子力協定について詳細な知識を持ち合わせていないが、最重要ポイントは非核保有国で唯一、核燃サイクル・再処理を認められている点だと理解している。この協定は30年間の有効期間が2018年に満期を迎える。米国政府としては日本に無条件でこの「特権」を継続させて余剰のプルトニウムを保有させることは避けたい。日本政府としては「潜在的核保有力」を維持するために「特権」を継続させたい。そのためには全量再処理路線を維持して、プルトニウムを全部燃やすのだというポーズを取りたい。その証拠として、六ヶ所再処理工場が(どのような状況であれ)少しでも稼働しているという実績を作っておくことが必須。
一方、米国側とすれば、国内の原発産業は競争力を失っており、既に日本企業と合併・提携関係にある。しかし、「核なき世界」でノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領は、旧来の「米国(核)軍事力による世界秩序維持」路線に復帰しており、米国の原子力産業のプレゼンスを維持するためには、日本が原発ゼロを選択することは許されない。
素人目には米国の「原発維持で再処理ノー」に隷属するなら直接処分しかないだろうと考えるのだが、そのあたりは判然としない。この「2018年問題」は見通しが不透明な状況だが、再処理を止める最大の圧力になる可能性が高い。太田昌克著『日米〈核〉同盟 原爆、核の傘、フクシマ』(岩波新書)の後半に経緯や状況が詳述されているので紹介しておく。
「核のゴミ」の全量返還が脱原発の最大の障害
本稿の主題はアメリカではなく「アオモリ」。上述の2012年の当欄で「原発ゼロでも核燃サイクル堅持を喜ぶ青森県」と題して青森県および六ヶ所村が当時の民主党政権の「原発ゼロ」路線への転換を阻んだ経緯をリアルタイムに書いた。「原発ゼロ・再処理中止」なら六ヶ所の「核のゴミ」を全量返還すると脅しをかけて、当時も現在も国民の多数意見である脱原発路線を覆させたという歴史的事実を青森県民はどのように考えるのだろうか。
多額の核燃マネーとの引き換えで、「全量再処理」という名目の元に受け入れ続けてしまった核燃料廃棄物。これを全量返還することは物理的に不可能なのに加えて、青森県も六ヶ所村も本当に返還されて核燃料税がゼロになってしまえば直ちに困窮してしまう。ただの「はったり」に過ぎない。
ここで三村知事が錦の御旗として振りかざしたのが政府との空約束(協定としての効力はない)であり、その根拠として、青森県を核のゴミ捨て場にさせないという県民の声、なかんずく反核燃派の主張が駆け引きの道具として(再処理中止を阻止する屁理屈に)利用されているというのが現実なのだ。
20年、30年来の反核燃の戦士には、遅れて出て来た口先だけの人間の意見など片腹痛いだろうと想像するが、もし今すべての原発の再稼働を阻止できたとしても、現存する核燃料を移動させることはすべきではなく、今ある場所で管理するしかない。
批判を覚悟の上で書かせてもらえば、原発再稼働を阻止して原発ゼロを本気で求めるのなら、その障害となっている「核のゴミ全量返還」という実現不可能な建前を返上し、脱原発・反核燃派が率先して「長期の乾式中間貯蔵による税収確保と全原発停止」という選択肢を積極的に求めるしかないと考える。
ただし、この「長期」というのは、私たちが生きている間には終らない。どの道を選択するにせよ、私たちは孫やその先の世代に負の遺産を押しつけることしかできない。ここに書いたことも、現実的には実現できそうにないとは感じている。それを承知であえて問いたい。
(この文章は青森県保険医協会の会員向け新聞2014年11月1日号に掲載したものです)