木工で製作中のミニ箱膳が漸く完成した。今日は先週組んだ蓋の材の合わせ目をヤスリできれいにし、さらに蓋全体にもやすりをかけた。本体と併せて支障のないことを改めて確認し、本体と蓋とに蜜蝋を塗りこむ。蜜蝋の乾燥を待つ必要があるので持ち帰りは来週だ。いろいろ問題があって、人に譲るつもりはないのだが、作品展にも並べてみようと思っている。
以前にも書いたように、この箱膳は杉で作った。杉には多くの地域品種があるのだが、自分が使った杉がどこのものかはわからない。東急ハンズで購入したが、陳列棚にも産地までは書いていないし、多様な産地のものが集められているのだろう。そうした細かな差異はともかくとして、材としての杉の特徴は含水率の高さにある。杉は手触りが柔らかで木目が美しいが、柔らかいということは水気を多く含んでいるということでもあり、その水分が蒸発する際に材が変形しやすいということでもある。
木工を習い始めた頃に作ったものに、杉材で作ったゴミ箱がある。使い始めて1年以上が経過するが、割れや歪みもなく、部屋に馴染んでいる。ただ、このゴミ箱は口の部分を松系の材で縁取ってある。これにより意匠的にはアクセントになっているし、構造的には口部分の変形を防止している。
今回製作した箱膳は口の部分に止めとなるものがない。しかも、側板の接合は接着剤だけである。長期間の使用のなかで側板の変形になどによって接合部分が剥がれてくるというようなことは起こらないものなのかどうなのか、杞憂だとは思うが、それでも気にはなっている。
木工を始めてから、自然に生活のなかの木が気になるようになった。何かを作るためにホームセンターへ木を買いにいくと否応なくいろいろな材を見比べることになるが、私は杉の木目が一番好きだ。材のままでもよいが、やはり生活の道具に加工して、表面を削ったり磨いたりすれば、その木目が更に味わい深いものになっていく。その変化の道程も好きだし、手を入れて一段と綺麗な姿になった木目も好きだ。杉材だけを使った家具やインテリアもあるようだが、販売することを前提に杉材を使うとなると含水率の高さが問題になるので、何十年も乾燥させた材を使うことになる。当然、乾燥期間も費用のうちに入ってくる。そうなると誰もが気軽に使うことのできる材ではなくなってしまう。
木であろうとコンクリートであろうと石であろうと、我々が暮らす世界のなかにある素材であることに違いはない。しかし、木に囲まれて暮らすのとコンクリートや石のなかで暮らすのは同じことではないように思う。もちろんそれぞれに良さもあれば問題もあるだろう。ただ、自分の場合は、日本に生まれ育ちながら、日本特産の杉という素材といまひとつ上手く付き合えていないようなもどかしさを感じるのである。付き合いが上手くいっていないのは私だけではないようで、花粉症などが流行するのは杉の山林の手入れが行き届かずに荒廃が進行している所為でもあろう。公の問題はともかくとして、個人として杉というものをなんとか生活のなかに取り込みたいと思うのだが、何か妙案は無いものだろうか。