熊本熊的日常

日常生活についての雑記

醤油を買いに

2014年03月29日 | Weblog

天気が良かったので妻と醤油を買いにでかけた。電車を乗り継いで1時間ほどで五日市線の武蔵引田という駅に着く。そこから歩いて10分ほどのところに明治41年創業の醸造業者がある。ここで醤油の作り方を説明することは割愛させていただくが、ここの醤油が旨いらしいという話を聞いていて、いつかその味を経験してみたいと思っていた。勿論、通販も扱っているが、自分の生活圏内にあることがわかっているので、その蔵元とか販売しているところを自分の眼で見てみたいという素朴な思いがあった。ここの醤油は仕込みに使う塩水の量を極限まで少なくしているという特徴がある。味は上品でやさしく、この醤油を使うと他の醤油の塩分の強さに気付かされる。塩水を減らすのは醤油本来の味を追求するためなのだそうで、そういう仕事を食卓で味わうことができるというのは大変嬉しいことである。

せっかくなので醸造所の近所を散策しながら武蔵増田まで歩き、そこから立川に出てルミネのなかに入っている店で昼食を済ます。立川からモノレールで高幡不動へ参詣に行く。その名は以前から知っていたが、訪れるのは今日が初めてだ。これで京王沿線の三古刹を全て詣でたことになる。これまで高尾山や多摩動物園に行くときにここの駅名は気にはなっていたのだが、改めて訪れてみると古刹らしい落ち着いた空気がそこにあった。都心から程よく離れた立地にも恵まれているのだろうが、適度な寂れ具合と手入れの行き届いた境内との組み合わせが心地よい。

妻が聖蹟桜ヶ丘に行ってみたいというので下車する。映画『耳をすませば』の舞台として有名だが、特に何があるというわけではない。私が初めてここを訪れたのは大学生のときにオリエンテーリングの試合でここからバスに乗ったときだ。バスでどこに行ったのかは、今となっては記憶にないのだが、とにかくこの駅だった。二回目は子供が小学生のときに学校の自然観察会で子供に同伴したとき。多摩川の河原で子供と一緒に小動物や植物の記録を取った。そして今回が三回目。特に何があるわけではないだろうと思ったのと、妻はここで下車してみたいだけだというので、駅ビルを一通り見て回って、喫茶店で甘味をいただいてから、上り電車に乗る。

次に東府中で下車して府中市美術館で開催中の「江戸絵画の19世紀」を観る。美術館が立地する府中の森公園には花見客がけっこういて楽しげな雰囲気だ。花は満開ではないが、おそらく来週末だとかなり混雑するだろう。七分咲きくらいの今時分にそこそこに賑やかに楽しむというのは確かにオツかもしれない。

江戸時代というのは鎖国や長期に亘る徳川幕府という史実もあって、封建制の堅苦しい時代という印象を持つ人も少なくないような気がするが、美術品を見る限りではそうした閉塞感というのは必ずしも当たっていないのではなかろうか。狩野派のような御用絵師の世界ではフォーマリティについて事細かな規定があり閉塞状態に陥っていたというような面が皆無ではなかったようだが、それでも浮世絵や琳派のような革新的な表現も生まれている。今日は江戸時代のなかでも19世紀という幕末に近いほうの70年弱に焦点を当てた展示だ。江戸から明治へ、鎖国から開国へという、おそらく怒濤のような変化のなかで、旧来のフォーマリティを超える動きが生まれたという面は勿論あるだろう。しかし、革新というのは降って沸いたように起こるのではなく、それまでに積み重ねてきたものがあり、機が熟すことで起こるべくして起こるのではないだろうか。美術に限らず、物事というのはそうやって積み重ねの上でしか変化のしようがないものだと思う。北斎の大胆な構図や表現に驚いたり国芳のどこかマンガチックな絵に頬が緩んだりするけれど、そこに至る個人やその個人が属する文化の歴史に思いを馳せるとき、そこには真っ当に毎日を積み重ねてきた人々の姿しか思い浮かばない。

外食をあまりしない夫婦なのだが、今日は家の近所の台湾料理屋で夕食を済ませてから帰宅した。