万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国のTPP促進の主張が説得力がない理由ー経験がものを言う

2017年01月05日 14時21分36秒 | 国際政治
 日本国の新聞各社は、風前の灯となったTPPに関しては論調は凡そ一致しており、口を揃えて”日本国政府はアメリカを説得せよ”と訴えています。その行間には、”TPPの設立は疑いもなく正しく、それに反対するアメリカは間違っている”とする強い信念が伺えます。

 仮に、日本国側の主張が正しければ、アメリカは、迷わずにTPPに参加することでしょう。しかしながら、日本国のTPP参加の要請に対してアメリカが首を縦に振らないのは、偏に、アメリカには、NAFTAの失敗という手痛い経験があるからに他なりません。言い換えますと、日本国は、広域的な自由貿易圏へ参加した経験が無いにもかかわらず、既に、国民の多くが経験からしてその弊害を認識しているアメリカに対して、その”すばらしさ”を力説しているのです。これは、いささか奇妙な現象ですし、説得力があろうはずもありません。

 先日も、アメリカの自動車大手のフォード社がメキシコでの新工場の建設を断念しましたが、米国企業のメキシコへの進出問題も、NAFTAに起因しています。アメリカの企業であっても、廉価な人件費等を考慮して、NAFTA加盟国のメキシコに製造拠点を移そうというインセンティブが強く働いてしまうからです。多国間での自由貿易協定は必ずしもウィン・ウィン関係を約束せず、フォード社の件は、加盟国間において製造拠点、即ち、雇用をめぐるゼロ・サム関係をもたらす現実を如実に示しています。雇用の喪失は、購買力の低下と景気の停滞をもたらし、経済を負のスパイラルへと導きます。仮にTPPが発効すれば、日本国もまた、アメリカと同じ道を歩むことになりましょう。

 日本国政府やマスコミからは、”TPPが無理となればRCEPに乗り換えればよい”とする意見も聞こえてきますが、リスクにおいてはむしろ中国が参加するRCEPが上回ります。日本国もまた同じ轍を踏まぬよう、むしろ、アメリカ国民の、自らの経験に基づく声を謙虚に耳を傾けるべきではないでしょうか。”賢者は歴史に学び、愚者は経験から学ぶ”と申しますが、この場合、アメリカの過去の経験に学ぶことこそが、歴史に学ぶことであり、歴史から学ばずして自ら失敗してから懲りるのでは、単なる’愚者’になりかねないと思うのです。

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コメント (4)
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