万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米墨摩擦の深刻化ーNAFTAが引き裂く友好関係

2017年01月27日 15時20分41秒 | アメリカ
 トランプ政権の発足により、現在、アメリカとメキシコとの間に緊張が走っております。公約に掲げた密入国対策としての国境の壁建設に留まらず、NAFTAの再交渉を求めるなど、経済面における摩擦も深刻化しております。

 市場の広域性の観点からしますと、MAFTAといった多国間の自由貿易協定には経済的メリットが多々あるように見えます。多国籍企業にとりましては、広域市場において格差を利用した拠点の最適配置が実現できるのですから、多国間協定による広域市場は”理想郷”なのです。エネルギー資源や原材料は最も価格の低い国から購入し、資金は最も金利の低い国から調達し、製造拠点は最も労働コストや環境規制の低い国に設置し、技術開発の人材は移民からも手広く採用し、最も割安な国の企業を買収でき、本社は最も法人税率の低い国に設け、そして、最も所得レベルの高い国を消費市場にできるのですから。

 しかしながら、国の立場から見ますと、企業の合理的な最適配置の経営戦略は、死活的な問題をもたらす場合があります。広域市場の成立と共に、先の最適配置戦略に沿って様々な分野で一気に流動化が起きるからです。特に、先進国の被るマイナス面は甚大であり、製造拠点の移転と共に雇用が流出すると同時に、戦略上、消費市場として設定されているため、安価な外国製品の大量流入による企業倒産の深刻化も懸念されています。アメリカの場合には、基軸通貨としての米ドルの立場と金融大国の地位からして金融部門では依然優位にあっても、少なくとも大部分の国民は、所得の低下と失業の増加という”地獄”を見ることになるのです。しかも、広域市場における最適配置の戦略は、加盟国以外の企業にも利用可能であるため、全世界の企業が同様の行動を採りますと、先進国は、”草刈り場”になりかねません。NAFTAを梃としたメキシコ政府の積極的な外資誘致政策がアメリカの頭痛の種となったのにも、理由がないわけではないのです。メキシコにとりましては、いたく合理的で戦略的に当然の政策であっても、アメリカにとりましては、共にNAFTAの加盟国であり、友好国であるはずの隣国の政策によって不条理にも自国の雇用が破壊されてゆくのですから。

 米墨間で見られる摩擦は、出発点においては加盟国全ての繁栄と友好の深化を信じて締結された自由貿易協定であっても、実際には、時間の経過と共に理想と現実との間の乖離が表面化し、加盟国間において深刻な摩擦が生じる可能性を示唆しています。あるいは、繁栄の条件が、自由貿易協定によって蝕まれてゆくといった状態が現実であると言えるのかもしれません。日本国政府は、RCEPなど、TPPに代わる地域的な自由貿易協定(経済連携協定)の締結を目指す方針を示していますが、理想とは逆に、自由貿易協定の締結が、国家(特に国民)と企業との間の摩擦のみならず、国家間の関係悪化をももたらす現実を見据えるべきなのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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