万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自由貿易理論の盲点ー国際基軸通貨米ドルの存在

2017年01月15日 15時01分19秒 | 国際経済
 古典的な自由貿易理論のもう一つの問題点は、決済通貨に関する視点が欠如していることです。戦後経済にあって、日本国は、最も自由貿易主義の恩恵を受けた国の一つですが、高度成長期を経た経済大国化は、最大の貿易相手国がアメリカであったことと無縁ではありませんでした。

 国内の論調では、日本国の経済大国化の要因は、主としてWTO(GATT)を枠組みとした自由貿易体制そのものに求められています。それ故に、トランプ新政権で予測される関税の引き上げ、国境税、仕向地法人税といった税制改革には、特に神経を尖らせています。その一方で、比較生産費説を無視したためか、通貨面の影響については過小評価しがちです。

 戦後のブレトンウッズ体制(固定相場制)において、米ドルが国際基軸通貨であり、かつ、貿易決済通貨が米ドルであったことは、対米輸出国にとりましては、またとないチャンスとなりました。米ドル中心の同体制では、輸出に有利なドル高に固定されている上に、金・ドル本位制の下で、国内におけるマネー・サプライの飛躍的な増加をももたらしたからです。つまり、日本国は、対米貿易で得た米ドルを梃として、内需と国内投資の拡大、並びに、それを支える資源や原材料の輸入、さらなる技術革新による産業の高度化と輸出拡大…という好循環を経験したのです。仮に、貿易相手国が国際基軸通貨の発行国である米国ではなく他の国であれば、これ程急速に経済成長を遂げることはできなかったことでしょう。

 ブレトンウッズ体制は固定相場制であったため、為替相場の変動による自律的な輸出入調整力は働かず、結局、70年代には、米ドルの金兌換停止により崩壊します。その後、国際レベルでは変動相場制、国内レベルでは管理通貨制度へとそれぞれ移行しますが、製品輸出の競争力から日本国の対米輸出の勢いは衰えず、依然として続いていた円安相場が問題視されるに至ります。そして、円高を容認した1985年のプラザ合意、並びに、その後バブル崩壊と長引く景気低迷ほど、国際通貨制度、並びに、為替相場の影響力を如実に物語るものはないのです。関税率は全般に低下傾向にあるにも拘わらず、日本経済は、なかなか再浮上しない状況にあるのですから(中国等の輸出攻勢による輸入デフレも発生…)。

 この間、自由貿易を越えて経済のグローバル化も進展し、関税問題に加えて産業の空洞化や移民問題も持ち上がるようになりました。TPPやRCEPについて、日本国政府は日本経済復興への起爆剤として期待をかけているものの、高度成長時代とは国際通貨制度も国際通商制度も異なるのですから、成功体験は仇となり、全く違った結果が待ち受けているかもしれません。

 そして、行き過ぎたグローバリズムに対する懐疑が示すように、国際経済体制の問題は日本国に限ったことでもありません。固定観念に囚われずに既存の全ての制度に再検証を加えた上で、全人類の向上に資するべく新たな道を探るべき時が、今日、訪れているように思われるのです。

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