万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

”チャイナ・ファースト”が”グローバリズム”という厳しい現実

2017年01月16日 13時55分18秒 | 国際政治
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 今年のダボス会議、即ち、世界経済フォーラム年次総会には、珍しくも中国の習近平国家主席が出席すると報じられております。議中国は共産主義国家ですので、奇妙な取り合わせに見えるのですが、中国トップの同会議への出席こそ、”チャイナ・ファースト”が”グローバリズム”であるという厳しい現実を物語っております。

 ダボス会議とは、いわば、グローバリズムの象徴とも言うべき存在であり、同会議で合意された方針に従うかのように、これまで、世界規模でのグローバル化政策が推進されてきました。中国の正統イデオロギーであり、プロレタリアート独裁を掲げる共産主義の立場からすれば、”階級の敵である資本家の集まり”なはずなのですが、習主席は、平然と同会議にはせ参じているのです。それもそのはず、”グローバリズム”こそ、中国にとりましては、”チャイナ・ファースト”の政策であるからです。

 企業間競争の場である市場では、規模は重要な意味を持ちます。家内工業による手工芸品が価格面において工場生産の大量生産品に太刀打ちできないように、”規模の経済”が働くほど価格競争力は増して行くからです。この”規模の経済”の観点からすれば、”グローバリズム”に住む勝利の女神は中国に微笑むかもしれません。13億の市場規模は、インドと並んで圧倒的な強みとなるからです。近い将来、中国企業は、13億の国内市場で実現した競争力を武器として、全世界の市場を席巻することも夢ではないのです。しかも、”グローバリズム”は、13億の人口を移民として歓迎してもくれます。中国の企業の多くは政府系ですので、利権独占団体である共産党にとりましても、”グローバリズム”こそ富の源泉となるのです。

 19世紀中庸に絶頂期を迎えた自由貿易主義体制は、産業革命がもたらしたイギリスの圧倒的な競争力を背景としていたことは疑いなきことです。第二次世界大戦後の自由貿易体制の構築も、アメリカの飛び抜けた工業生産力を抜きにしては語ることはできません。競争力において一歩リードする国が自由貿易体制の旗振り役であった歴史を振り返りますと、今日、中国が、グローバリズムの牽引役を買って出ているのも不思議ではありません。トランプ次期政権の保護主義的傾向に対する危機感からか、イギリスの経済紙には、”中国に自由貿易体制の擁護者の役割を期待する”といった内容の記事も掲載されたそうです。

 もっとも、中国の台頭は、自由貿易主義やグローバリズムが”自明の理”と見なされながら、その実、競争力に優る国の国策、あるいは、その背景に潜む一部経済勢力の願望であったとする、認めたくない現実を直視するきっかけとなるかもしれません。兎角にグローバリズムとナショナリズムは対立構図として描かれますが、両者が一体化するケースがあるとする認識は、強者必勝の論理に基づく経済体制を是正する方向へと働くかもしれないのです。果たして、ダボス会議では、参加者達は、”チャイナ・ファースト”の”グローバリズム”の登場に拍手を送るのでしょうか。

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コメント (2)
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