万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

修正グローバリズムの先駆者であった日本国

2017年01月13日 13時34分32秒 | 国際経済
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 トランプ次期大統領の保護主義的な通商政策については、世界各国において強い警戒感が広がっております。期待を寄せていたTPPが頓挫しそうなことから、特に日本国内でも反発が強く、自由貿易主義を守れの声で溢れています。

 しかしながら、よく考えてみますと、日本国こそ、世界に先駆けて、既に自由貿易主義の軌道修正を実施した国ではなかったのかと思うのです。1970年代後半から1980年代前半にかけて、日本国は、”ジャパン・アズ・ナンバーワン”と称せられるほど、破竹の勢いで世界経済のトップランナーの地位を駆け上がりました。半導体産業を牽引すると共に、日本製品は圧倒的な輸出競争力を誇り、日本人によるニューヨークのエンパイア・ステイト・ビルディングの買収は、その象徴ともされたのです(現在、同ビルはトランプ氏が共同所有者…)。ところが、1985年のプラザ合意を境にバブルが発生し、その崩壊と共に日本経済は低迷期を迎え、今日に至ります。

 円高を容認した1985年のプラザ合意は、アメリカ政府にとっては為替政策による対応であったわけですが、日米貿易摩擦は、結局、日本側の譲歩により凡そ決着します。自動車摩擦については、アメリカ国内の現地生産、並びに、日本車の輸出自主規制によって解決が図られ、半導体に関しては、1986年の日米半導体協定の締結によって、一種の管理貿易とされたのです(同協定は、アメリカ半導体メーカーの競争力回復により96年に「世界半導体会議」の設立を以って終了)。この一連の出来事は、日米両国、並びに、国際社会に幾つかの教訓を残しています。

 第1に、理論と現実とは違い、自由貿易主義体制では、必ずしもウィン・ウィン関係とはならないことです。競争力に優る国による”一人勝ち”もあり得ることです。

 第2に、貿易不均衡は、敗者側となった国の強い反発を招き、勝者側に対するバッシングの要因となります。今日でも、アメリカは、米ドルが国際基軸通貨の為にデフォルトの懸念はありませんが、巨額の貿易赤字を抱えています。80年代のアメリカと同様に、相手国は違っていても(現在、最大の貿易赤字相手国は中国…)、現行の自由貿易体制の見直しを強く求めることは十分に予測されます。

 第3に、貿易不均衡による防衛摩擦が発生した場合、是正のための何らかの措置を必要とすることです。自然調和を信じる従来の自由貿易理論は、この問題に対する有効な解答を準備しておらず、この時は、実際に紛争が発生した際の具体的な対応策は、当事国間の交渉を通じて策定せざるを得ませんでした。

 そして、当事の日本側の対応を見る時、そこには、行き過ぎたグローバリズムという今日的な問題を解決する上でのヒントをも見出すことができます。それは、第1に、現地生産によって相手国の雇用問題を解決する、第2に、相手国ライバル企業を完全に淘汰しないよう、一定の配慮を行う(日本の場合は輸出の自主規制)、第3に、相手国が対等な競争力を付けた時点で(競争条件の平準化)、グローバルレベルでの公平なルール化を図るとするものです。また第4としては、国内的には輸出依存の経済体質を改め、内需拡大に努めた点も挙げられます。

 日米貿易摩擦の経緯を振り返れば、TPPの成立は、政治的圧力や制約を受けることなく輸出できるわけですから、日本経済にとりましては悲願とも言えるかもしれません。しかしながら、現在の日本国は、中国等の新興国の台頭により、むしろ当時のアメリカと同じ追われる立場にあることに加えて、未知の世界である多国間の自由貿易協定では、様々な側面における国家間格差が、米メキシコ関係に見られるような深刻な問題をもたらします。最も早く戦後の自由貿易体制の限界に直面し、かつ、勝者と敗者の両方を経験した国であるからこそ、日本国は、今日の行き過ぎたグローバリズムの修正問題についても、効果的な方策を提言すべく、知恵を絞ってゆくべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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