万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自由貿易圏は経済格差が大きいほど高リスクでは?

2017年01月06日 09時35分12秒 | 国際経済
トランプ氏、トヨタを批判=メキシコ新工場なら「巨額課税」―日本企業で初標的・米
 反グローバリズムを掲げるトランプ次期大統領は、米企業フォード社に対してメキシコでの新工場建設を断念させるに留まらず、遂に、日本企業のトヨタにも、名指しで同様の措置を求めたと報じられております。NAFTAに関連する動きが顕著となりましたが、ここで、何故、NAFTAがここまでアメリカの次期政権から攻撃されているのか、考えてみる必要がありそうです。

 この問題は、NAFTAに限ったことではなく、EUにおいても共通しています。イギリスのEU離脱も無縁ではなく、EUの単一市場にも自由貿易圏が組み込まれているからです。実のところ、NAFTAとEUを観察しますと、紛争の発生国において一つの共通点を見出すことができます。それは、経済レベルの格差が大きい国の間においてほど、特に深刻な対立が生じている点です。

 NAFTAでは、アメリカとカナダとの間では、農産物、木材、水資源等をめぐる摩擦や外資によるM&Aに対する批判は生じていますが、一先ずは訴訟合戦の段階に留まっています。米加の両国を比較しますと、1人当たりのGDPにそれ程の開きがない一方で(2015年のIMF統計で米:56,084int$で11位、加:45,602int$で21位)、人口は、アメリカが圧倒的に規模が大きく(2017年の米:約3億2千万で3位、加:3千6百万で38位)、領域の広さについては、米加両国とも同程度の面積を誇っています(両国とも990万km2を越える)。

 それでは、アメリカとメキシコを比較するとどのような違いを見出すことができるでしょうか。米墨の両国を見ますと、1人当たりのGDPでは、米加間よりも米墨間では相当に大きな開きがあり、メキシコは、アメリカの凡そ3分の1のレベルに過ぎません(墨:18,430int$で64位)。その一方で、人口規模では、日本の人口と同程度のメキシコは1億2千万人を数えており、アメリカの3分の1で世界第11位の規模ですが、領域については、アメリカの5分の1程度です(墨:196万km2))。

 以上に、経済レベル、人口、面積の、主要な三つの項目を取り上げて比較を試みてみましたが、自由貿易の効果を予測するには、これらの違いは重大です(より精緻な予測には、通貨のステータスや金利差など、さらに多くの指標が必要…)。何故ならば、これらにおける格差は、高きから低きへと、自由貿易圏内の”もの”、”人(労働者を含む…)”、”サービス(企業進出を含む…)”、”お金(直接投資を含む)”、技術…の流れを大きく左右するからです。米墨間において、NAFTAの存立を揺るがすほど問題が深刻化したのは、経済レベルの格差が、アメリカからメキシコへの企業進出とメキシコから密入国者を含むアメリカへの労働者の移動を同時に促し、さらに、メキシコの人口レベルの高さと領域の狭さがこの流れを加速させているからなのではないでしょうか。EUでも、問題が深刻化したのは2004年の中東欧諸国の加盟以降であり、域内格差が、産業の空洞化と先進国内に雇用問題を誘発する”人”の流れをもたらしたことは否めないのです。

 このように考えますと、多国間における自由貿易圏を考えるに際しては、今後は、国家間の格差と様々な要素のフローの変化との関係に注目する必要がありそうです。言い換えますと、加盟国間において深刻なゼロ・サム問題をもたらすような格差が存在する場合には、二国間であれ、多国間であれ、慎重であるべきということになります。そして、米加のように格差が小さい国同士でも、第一次産業や生活インフラ、並びに、企業の外資支配に関する懸念が生じている現実も、行き過ぎたグローバリズムに対する是正の必要性を問うているように思えるのです。

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コメント (2)
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