万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘手すき和紙’は国が救うべきでは-危機に瀕する日本の文化

2019年06月10日 13時22分56秒 | 日本政治
報道に依りますと、手すき和紙の生産に不可欠なトロロアオイを生産してきた茨城県小美玉市の5戸の農家が、来年で作付をやめるそうです。全国の手漉き和紙事業者の7から8割ほどに原材料として提供してきていますので、生産の中止は日本国の手すき和紙存続の危機ともなりましょう。

 日本国の手すき和紙はその柔らかさや薄さにおいて優美であり、それ自体が伝統工芸品であると共に、書画や建具をはじめ、様々な伝統文化に使われてきました。おそらく、トロロアオイの根からつくられる「ねり」が、手すき和紙にその独特の繊細さをもたらしているのでしょう。海外からの評価も高く、いわば、日本文化を支える礎とも言えるのですが、予測されるトロロアオイの供給激減は、日本の伝統文化が消滅の危機に瀕していることをも意味します。このまま放置したのでは、先人から伝わる重要な文化を失うことになりかねませんので、何としても、トロロアオイの生産を維持する必要がありましょう。それでは、存続に向けての手を打つとしますと、どのような手段があるのでしょうか。

 生産中止の最大の要因は、採算性の問題にあるそうです。トロロアオイの生産には、他の農産物の栽培よりも手間暇かかるのですが、収益は、と申しますと、その労力には見合っていないそうです。苦労ばかりが多く、得るものが少なければ、農家の生産継続の意欲は低下する一方です。そこで、まず考えられるのが、伝統文化の保護を名目として、政府が補助金を支給する公的支援の実施です。小美玉市の農家が提供するトロロアオイは全国に供給され、かつ、日本文化の維持・発展に貢献しているのですから、茨城県よりも国が支援する方が望ましいかもしれません。栽培農家の件数は僅か5戸ですので、文部科学省、あるいは、農林水産省が動けば予算は容易に捻出できるはずです。

 第二の問題点は、トロロアオイ生産者の高齢化です。同農家の殆どが60代から70代であり、重労働のために体力的にも難しく、後継者がいても栽培の継続を無理強いできないと言います。仮に、後継者、あるいは、栽培継続に意欲的な後継者がいない場合には、同報道を介してトロロアオイ問題が国民の関心を引いたのを機に、全国から後継者を募集するのも一案であるかもしれません(数年間は、現農家が栽培指導…)。もっとも、何れの農家もジャガイモなどの野菜類を育てる傍らでトロロアオイを生産していますので、現状のままでは両者のニーズが一致しません。そこで、トロロアオイ栽培農地の集約化、あるいは、栽培委託による専業化を要するかもしれません。つまり、広い農地を有するトロロアオイの専門栽培農家を育成すれば、5戸全てが栽培を継続しなくとも、全国の手すき和紙事業者の需要に応えることができるはずなのです。この場合、5戸の農家が協議の上で専門農家を決めるという方法をとることもできましょう。

 第三に挙げるべきは、トロロアオイの栽培は機械化が困難であり、上述したように重労働である点です。除草剤が使用できないために草取りが手作業な上に、「芽かき」という新芽を摘み取る作業も夏場の炎天下の下で行われます。入国管理法の改正もあり、外国人労働者を、という声も聞こえそうなのですが、文化財保護教育の一環として、学校や大学等に協力を求めるという方法もあります。この場合、地方自治体が同プロジェクトのまとめ役を引き受けるが望ましいのでしょうが、ボランティア、あるいは、手当金支給制度の下で、近隣に住まう学生さんに同作業を担ってもらうとする案です。

 トロロアオイは中国原産ですし、韓国でも日本の和紙技術を導入した今日では伝統的な韓紙の製造にも使用されていますので、これらの諸国から輸入すればよいとする考えもありましょう。しかしながら、輸入が途絶えた途端に(両国とも反日国家…)、日本国の手すき和紙の生産も停止してしまいますので、輸入頼りにはリスクがあります。また、何よりも日本国の伝統文化なのですから、やはり、原材料の生産から製造までの全過程を国内において完結させた方が、完全なる形での伝統の保存・保護となりましょう。作付けの中止は2020年からですので、まだ時間はあります。国民の多くも反対はしないでしょうから、日本国政府も、地方自治体も、そして、国民も、手すき和紙文化を救うために協力すべきではないかと思うのです。

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コメント (6)
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